第14話 石投げのメリットとスライム津波

元気スキルの素晴らしいところは、次の日に疲れが残らないところだ。


今日は、自転車で山頂まで登るのはやめておいた。麓の駐輪場に自転車を置いて、そこからはバスに乗った。金銭的に目処が立ち余裕ができたからな。


まだ早い時間のせいだろうか、ミミは受付に立っていなかった。


どうやって時間を潰そうか。


そう思って周りを見回すと食堂に見知った顔がいた。アイテムボックスの兄ちゃんだ。


自動販売機で缶コーヒーを2本買って、兄ちゃんの横に座る。


「よう、ちょっといいかい?」


情報収集せけんばなしの代金として缶コーヒーを1本、兄ちゃんに手渡す。


「いいですよ。なんの御用でしょう?」


兄ちゃんが缶コーヒーを受け取って笑顔で応える。


「石投げのメリットってなんだい? どうもデメリットが大きすぎてメリットなんかあるのかなーなんて思っちゃうんだが」


「そうですね。石投げをして経験値をもらったってクラスもギフトももらってない段階ではレベルアップもしませんからね。全くの無駄に見えますよ。でもね、世界ではこういうデータがあるんですよ。14歳になる前、迷宮────ダンジョンからクラスとギフトを手に入れる前に経験値を稼いでおくと、クラスをもらう時に高位職────つまり、上級クラスになることができる」


「それはすごいな」


「ええ、そうですよ。下級クラスよりも上級クラスの方が圧倒的に生存率が高い。つまり、長い期間探索者を続けることができます。かの有名な10年プレイヤー『アドン・ゲノス』も初めから上級クラスである『世界の果ての冒険者』でしたからね。彼が石投げの常習犯であったことは、有名な話です」


「そうするとクラスやギフトを手に入れる前に、石投げで鍛えようとする組織や企業なんかができても不思議じゃないよな。国が主導してやってたりしないのか?」


「おっしゃる通り、国が主導してやろうとしましたが、あっという間に頓挫しましたよ」


「その理由を聞いても?」


「最下級の魔物、スライムの一撃ですら重傷を負ったり死んだりするクラスなしを鍛えるのは生半可ではないということですよ。結果、上級クラスでありながら探索者を早期リタイヤする新人を大量生産したという結果に終わりました。今は国と一部の企業で細々と研究を続けているぐらいですね。ここのギルドでも研究されてますよ。規模は極小ですが」


兄ちゃんはそこでぐいっとコーヒーを飲んでから俺に聞いた。


「誉くん……いいえ、あなたの言う孔雀くんですか?」


「ああ、気になってな」


「ダンジョンの死に戻りで死の意識に取り憑かれた人間は、自分の子孫を残すことに強く執着するようになります。それでダンジョンができてから性犯罪が急増しました。孔雀くんのような境遇の子は決して珍しくないんですよ。同情なんかしてたらキリがありませんよ?」


その言葉は兄ちゃんの優しさからの言葉だろう 。だけど俺は、


「でも、できることができるだろう?」


「できることなんか何もありませんよ」


「それでも、できることを探して様子を見ていることならできるだろう?」


「諦めの悪い人ですね」


「俺もそう思うよ。でもね、兄ちゃんだって、そうだろう?」


兄ちゃんは少し驚いて、


そして、自嘲するように苦笑してから、しかたないじゃないですかと言わんばかりに、諦めるように笑った。


諦めの弱々しい笑顔でありながら、その引き締まったまなじりは、なにも諦めていなかった。


目が笑っていない。


様子を伺う、隙のない観察者の目だ。


間違いない。この兄ちゃんは俺と同類だ。


俺たちは普通の人間だ。どうしたって心を捨てて生きていくことができないんだ。たとえそれで、自分が苦しむことになったとしても。心を捨てた瞬間に、生きながら死んでいるから。


俺たち観察者にとって諦めるとは観察をやめることであり、観察をやめるということは死んでいるという意味に他ならない。


俺たちはじっと見ている。そして、耳を澄ませてよく聞いている。


そうしている限り、俺たちは絶対に死なない。


聞きたいことが聞けたので、兄ちゃんに礼を言って立ち上がった。


タイミングよくミミが受付に現れた。


俺は兄ちゃんに挨拶してミミの元に向かった。



「お待たせしましたか~?」


独特の抑揚でミミが聞いてくる。


「いや、今来たところだ」


まるでデートのような受け答えをしてしまったが、これから行くのはダンジョンであり、やることはデートではなく探索だ。


「探索もデートみたいなもんですよ~?」



何言ってんだこいつは?


「それで、意思は固まりましたか~?」


「ああ、全てのデメリットは飲み込んだ。俺とパーティーを組んでくれ」


そう言って俺が手を差し出すと、ミミはパーッと顔を喜びに輝かせて、初々しくはにかみながら俺の手を握った。ニコニコと笑い顔で、なかなかその手を離してくれなかった。



打ち合わせ室の一つを借りて、お互いの情報のすり合わせをした。お互いが持ち出した情報はお互いの能力。つまりスキルとギフトの内容の確認だな。


ミミのスキルである結界師のスキル、能力は、俺が結界というものに持っているイメージとほぼ同じだった。つまり、壊れない壁を作り出す能力だ。バリアとか障壁とかアンチフィールドとか呼ばれてるあれだ。魔物との戦闘中に安全地帯を作ることが出来る。ダンジョンのどこにでも、セーフティエリアを構築することができる破格のスキルだ。


ん? じゃあ、アレが出来るのでは?


ミミの能力を使うと、俺がやりたかったことができるかもしれない。後々、検証してみよう。


俺は自分が持ってるギフト、スキル、能力を全て隠さずミミに伝えた。そうアイテムボックスについてもだ。


随分、驚かれた。本部に報告する内容が増えたと言っていた。


打ち合わせが終わると、現場ダンジョンに行くことになった。


「現場で感覚をつかみましょう~」


さあ、初めてのパーティーでの探索だ。


ワクワクする。



ギルドの食堂で、ミミが探索者の衣装に着替えるのを待っていると、


「お待たせしました~」


間延びした声が響いて、ミミがやってきた。


手には、ひと目で業物だと分かる凄まじい力を帯びた身の丈ほどの錫杖を持って、高位の聖職者の法衣にも似た立派なローブを着ていた。両方とも、おそらくダンジョンで産出された極レアなマジックアイテムだろう。ミミのレベルは66。その装備だけで、国内ではトップクラスの探索者だという事実に説得力を感じた。


ミミが登場すると、食堂にいる探索者たちがざわめいた。


「おい、あれを見ろ。『パリンと音を立てて割れるバリアのみどり』だ!」


「おおー•••••••、とうとう甘南備山ダンジョンの最終兵器『パリンと音を立てて割れるバリアの碧』が探索に出るのか。竜を前にしたような畏怖を感じるぜ」


「『パリンと音を立てて割れるバリアの碧』さま•••••••素敵ぃ」


周りの囃し立てる声に、ミミが子供のようにムキになって、両手を振り上げて怒る。


「私の結界はパリンなんて割れないもん~! 絶対に割れないもん~!」


それを見た俺の感想は、


「ミミの奴、愛されてるなあ」


である。


俺は、ミミを楽しそうにおちょくる探索者の一人を捕まえて聞いてみた。


「『パリンと音を立てて割れるバリアの碧』って、なんだ?」


「御崎が昔、国営のパーティーに所属していたことを知ってるか? その時、東京の首都環状ダンジョンの攻略の最終局面で御崎の張った結界がパリンって音を立てて割れたのさ。御崎のやつはそれをむちゃくちゃ気にしててな。その話をすると可愛らしい反応をしてくれるんだ。まあ、みんなの楽しいオモチャって感じだな」


「分かります」


ムキになるミミが可愛い。


なお、要らない注釈かも知れないが、ミミはあだ名で、本名は御崎碧みさきみどりだ。


「どれだけからかっても次の瞬間にはケロっとして笑ってるからな。いい性格してるよ。本当、みんなあいつのこと愛してると思うよ。甘南備山ダンジョンのマスコットだ」


少しミミのことを知ることができて、俺は嬉しかった。



ダンジョンに入ると早速ミミと一緒にスライムと戦った。


石投げで、ミミにスライムのタゲを取ってもらって、スライムの攻撃をミミの結界で防いでもらう。


「全く問題ないな」


俺の感心した声に、ミミは自慢げに胸を張って言った。鼻高々だ。


「首都環状ダンジョンのボス『ミソロジーヒュドラ』のブレス9本を1時間以上浴びせないと、私の結界は壊せないわよ~」


やたらと具体的だな。


そこで俺は気になることを聞いてみた。


「結界の広さはどうだ? 何人ぐらい結界の中に入ることができる?」


ん~っと、顎に指を当てて小首を傾げて考え、ミミが答えた。えぇ、可愛い。


「大人なら10人。子供なら30人ってとこかな~」


「おおっ! じゃあ、アレが出来るじゃないか!」


「アレって、なんですか~?」


ミミが小首を傾げた。可愛い。



ダンジョンを出てアイツを探した。


アイツ。つまり、孔雀は昨日と同じように荷運びの子供たちの列に並んで座り込んでうつむいて、泣きそうになっていた。


本当に辛気臭えガキだ。


俺はできるだけ明るく聞こえるように、孔雀に声をかけた。


「孔雀、あっそぼうぜー!」


驚いて顔を上げた孔雀が、俺を見て聞いてきた。


「何だよ、いきなり! 遊ぶって何をして遊ぶんだよ」


戸惑い、うろたえるような孔雀の声に、俺は明るく言い放った。


「石投げして遊ぼうぜ!」


言った途端、いきなり横から胸ぐらを乱暴に掴まれた。


「な、なにもわかってなかったのかよ。このチビデブハゲ!」


「うひひ、子供を危険にさらすのは許さないんだな」


そこにはアンブレラの2人が居た。大層、ご立腹のようだ。周りの探索者たちも同感のようだ。すごく睨まれた。


「おお……居たのかよ、先輩がた」


怒気に気圧けおされて狼狽うろたえ、しどろもどろに説明した。


「俺、パーティー、組んだ。レベル66、結界師。あんだすたん、おっけー?」


取り乱した俺の知性は原始人にまで後退し、文章が体をなさなかったが、アンブレラの2人が俺の隣でニコニコしているミミを見て、怒りを霧散させた。


「へ、『碧空の結界師』御崎!」


「うひひ、『碧海の守護者』碧じゃん。じゃあ、石投げしても大丈夫だってこと?」


「そうそう、大丈夫大丈夫。もーまんたい。おっけー?」


そろそろ放してくれないか? 呼吸がデキナクテ苦しい。



先輩がたの説得に成功して、俺とミミは孔雀を連れてダンジョンに入った。


脇道に逸れてダンジョンの奥に進んでいくと、前方に2匹のスライムを発見した。


「孔雀、石投げだ」


「うん!」


孔雀が投げた石は百発百中とはいかなかったが、それでも2匹のスライムを捉えた。


「ミミ、結界で孔雀を守れ!」


「りょ~」


ミミの気の抜ける返事と共に、薄く光る透明な壁が孔雀を覆った。


ズドン! ドン!


孔雀に襲いかかったスライムたちが、結界の表面で弾む。


弾んで空中に浮かび上がった隙を逃さず、


「オラオラ!」


果物ナイフで串刺しにした。


俺はどうも刃筋を立てるのが苦手なようなので、攻撃はもっぱら切りつけるのではなく突き刺しにした。これなら刃筋は関係ない。


1匹は一撃では倒せなかったが、スライムは執拗に孔雀を攻撃して、ポヨンポヨンと結界の表面で弾むので、チャンスは無数にできた。一旦決まったヘイトは、簡単には奪えないようだ。対策もスキルもあるみたいだから、追々勉強しよう。後で聞いた話だが、クラスなしによる攻撃(石投げ等)で発生したヘイトは特別らしい。


俺はスライムを冷静に処理した。


俺たちは、次々とスライムを狩っていった。


ごくたまにターゲットが俺に移ることもあったが、その時は果物ナイフをみぞおち辺りで固定して待ち構えていればいい。ナイフの位置を微調整するだけで、スライムが勝手に刺さってくれる。


とても楽だ。


何度かこのルーティンを繰り返し、30分でダンジョンを出た。


戦果はスライム10匹だ。


ギルドの査定で1,300円の儲けとなった。


孔雀に荷運び料金を300円支払ったので、純粋な儲けは千円。


30分で1000円の稼ぎなら、時給換算で2千円。


時給2000円の仕事か。悪くないな。


前日の午後の時給が7,800円だったので効率はガクンと落ちるが、孔雀に職を与えることが出来るというメリットと、孔雀に経験値を与えることが出来るというメリットがある。俺がやりたかったアレとはこのことだ。


ん? ミミ、なぜ俺が孔雀に職と経験値を与えることがメリットなんだって?


いや……。ほら、ほっとけないじゃんか。


放っておいて欲しければ、俺の見えないところで泣いてくれ。


………………。


ミミさあ、なに笑ってんだよ。


なんでもないって?


女って、なに考えてるのか、さっぱりわかんないよなあ。ああ、俺は女心が分からない男だ。



ギルドの査定が終わってダンジョンの入り口に戻ってくると、荷運びの子供たちが4人ほど孔雀を中心にして話をしていた。


ずいぶん興奮しているようだけど、なんだろう?


近づくと孔雀が俺に気づいた。


「あっ、ヒロのおっさん。次はコイツらも一緒に連れて行って欲しいんだ!」


あまりの勢いに、俺は鼻白んだ。気後れして仰け反ってしまった。


「それは、お前含めて5人で荷運びと石投げするってことか?」


「そうだ!」


孔雀に並ぶ、気合い十分の4人を見る。


男の子2人、女の子2人。孔雀と同い年くらいの子供たちだ。つまり10歳前後。女の子の1人が比較的小さいから姉妹だろうか。優しい姉、元気な妹という印象だ。男の子2人は、喧嘩早そうな、短気そうな落ち着きのないツンツン頭の荒くれと、逆に冷静で落ち着きのある理知的な印象のイケメンだ。


俺は考えた。


一番に押さえておかなければいけないことは、子供たちの安全だ。


「ミミ、どう思う?」


「子供たちの安全は私が保証します~」


理解が早い。のんきな声調だが、内容は実に頼もしい。


「じゃあ、お試しでやってみようか」


「やったぜ! ヒロのおっさん、ありがとう! 碧さん、お世話になります!」


4人の子供たちも大喜びだ。両手を上げて歓声を上げている。


「お試しはダンジョン探索1階層を30分でターゲットはスライムだ。狩れるだけ狩るぞ。30分後には地上に戻ってきて、その後どうするかを相談する。それでいいか?」


「「「「「うんっ!」」」」」


「いい返事だ。じゃあ行くぞ」


「「「「「おー!」」」」」


「お~」


ミミの間延びしたのんきな声で気合いが霧散してしまって、みんなで顔を見合わせて笑った。



俺とミミ、孔雀含めた子供たち5人とダンジョンを行く。


脇道に入ると、いつもより早く、そしていつもより多くスライムが出現した。いきなり5匹だ。


「パーティーメンバーの数で出現率と数は変わります~。足音や話し声などの人の気配に集まってくると言われています~」


ミミの声に、緊張感が羽根を生やして飛んで行く。和み成分過多だな!


「石投げ用意……てーっ!」


孔雀の号令で一斉に石がスライムに向けて飛んで行く。


パラパラといくつかが命中し、5匹のスライムが飛びかかってくる。


「「キャーッ!」」


女の子たちの恐怖の悲鳴。


「大丈夫大丈夫~。ほら~」


ミミの輝く結界が子供たちを守る。


女の子たちは恐る恐る目を開けて、結界の表面で弾むスライムを見てホッと安心のため息を漏らした。男の子たちは恐怖に顔がひきつっていたが、なんとか耐えたようだ。


俺が結界の表面で弾むスライムを処理し終えると、子供たちから歓声が起こった。


「ようし、次行くぞーっ」


「「「「「おー!」」」」」


「お~」


ミミの声に、和む。







戦闘のリズムを掴み、次々とスライムを処理していく。


子供たちも慣れたようで、ドロップアイテムを拾いながら、笑顔でおしゃべりしながらウキウキとついてくる。


あまりにも順調だった。


順調過ぎたのだろう。俺はやってはいけないミスを犯した。


「あれ? これって……」


壁に虹色に輝くリボンがあるのを見つけた。


元妻とミミや弥勒が着けているリボンだ。


俺はそれを手に取った。


引っ張った。


岩壁が剥がれてにぶい色の金属製のレバーが現れた。


そのリボンは、壁に隠されていたレバーに結びつけられていた。


リボンはレバーを引っ張った。


ガタン!


なにかが作動する音。


足元に突然、光る魔方陣が現れた!


「転移魔方陣────罠です!」


間延びしていないミミの緊迫した声。


子供たちの驚きの叫び声と共に、俺たちは目を覆うような光に包まれた。


•••••••••••••••••••••


••••••••••••••


•••••••


••••


光が消えると、そこには異様があった。


大きな部屋なのだろう、その空間の壁という壁、天井も床もびっしりとスライムがひしめき合っていた。おそらく千匹はいるだろう。


「「キャーーーーッ!!!」」


女の子たちの、喉が張り裂けそうな大きな悲鳴。


それを皮切りに、まるで大津波のようにスライムが押し寄せて来た。


圧殺される!


絶対障壁アブソリュート・フィールド!」


ミミの声と共に、薄い闇色のドーム状の結界が俺たちを覆った。


俺たちは前後左右────全方位をスライムに取り囲まれた。いいや……スライム津波の中に飲まれた。


スライムで満たした海の底に沈んだみたいだ。


スライムの海の底は凄まじい圧力なのだろう、障壁のミシミシと軋む音がする。


ミミが真っ青になって沈黙した。


その表情だけで、今がどれだけ危険な状態かを察した。


女の子たちがあまりの怖さに泣き出した。


男の子たちも恐怖に震えている。


俺は必死になって観察した。


スライムの海は1個の魔物ではない。元々は最弱モンスターのスライムの集まりだ。つまり1匹ずつ相手にするならば敵ではない。


では、どうすれば────。


ミシッ


ミシミシッ


ミシミシミシッ!


「もう、だめ~っ!」


ミミがとうとう悲鳴を上げたその時!


『ギフト、変態スキルが覚醒しました。プレイヤー『ヒロ』はスキル『変態(物理)』を獲得しました』


あの電子音声のような女性の声が響いた。


俺は反射的にステータスで新しく覚醒したスキル。『変態(物理)』を確認した。


いける! いや、イッてみせる!


「ミミ! 俺を結界の外に排除することが出来るよな?!」


情報のすり合わせをした時に聞いている。結界の中の異物を、強制的に結界の外に追い出すスキルがあったのだ。


「この状態で外に出るのは自殺です~っ!」


悲痛なミミの声に被せて、俺は言った。


「俺を信じてくれ! 俺がなんとかする!」


俺はミミの目をじっと見つめた。


ミミが俺の目を真剣に見ていた。


ミミは、ひとつ頷いて、


「行きますよ~、いいですか~? 強制排除~!」


その瞬間、俺はスライムの海の中に居た。


俺は叫んだ。


「変態スキル『変態(物理)』フォーム『ハリセンボンサウザンド・ニードル』!!!」


その声と共に俺の体の状態が変化した。


それは変身と言ってよい変化だった。


まるで日朝の変身ヒーローのように俺の体は変わった。


その体に千本の鋭利な針を生やしたのだ。


俺に向かって押し寄せるスライムたちは千本の針に貫かれて、一斉に光の粒子へと変わっていった。


•••••••••••••••••••••


••••••••••••••


•••••••


••••


小一時間ほど経っただろうか。


大きな部屋にはスライムの姿は1匹もなく、千匹のスライムのドロップアイテムで山が出来ていた。


その山の頂上に立つ俺に、子供たちが喜びの大歓声を贈ってくれた。


俺は、そんな子供たちに背中を向けたまま、右手の親指を立てて見せた。


大勝利だ。


振り返ってニヤリとニヒルに笑う。


俺に惚れるなよ?


俺のハゲがキラリと光る。


俺はチビデブハゲの、50歳のおっさんだ。


そう、誰も惚れない。


だが、そこがいい。


──────────

【あとがき】

読んで頂けて嬉しいです。感謝しています。


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どうか、少しでも、面白かったとか、続きが気になると思われたら、★と♡にチェックを入れて頂けると、嬉しいです。


多くの応援をいただき、ありがとうございます。嬉しいかぎりです。踊り出しそう。

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