第15話 宴 -UTAGE-

スキル『変態(物理)』のフォームチェンジは、いつの間にか元に戻っていた。すっかり変身前の、元の姿だ。


ドロップアイテムの山頂から、改めて部屋を見回した。


この部屋はこんなに広かったのか。ドーム球場よりも大きくないか?


スライムは本当に千匹だったのか? もっと居たのでは? まあ、確認する術はないか。


その時、天井から光がさして、その光の中から 俺の手に1枚のカードが舞い降りた。


「なんだこれ?」


手に持って見てみると、そのカードには葛飾北斎の波の絵のようなスライム津波のイラストが描かれていた。


ミミがそれを覗き込んで、驚きの声を上げてから俺に説明してくれた。


「俗に、モンスターカードと呼ばれているものですね~。モンスターを召喚することができるとうわさされていますけど、定かな情報ではありません~」


まだまだダンジョンは謎だらけです~。


と言って話をしめた。


「ギルドで買取とかしてもらえんのか?」


「効果不明のアイテムですから、買い叩かれますよ~? 運が良ければ研究機関が引き取ってくれるかもしれませんが、多分、高い値段はつかないと思います~。一応、レアアイテムなんですけどね~。たしかコレクターが居たはずですから、つなぎが取れればそれなりの値段で引き取ってもらえるかと思いますが、面倒ですよ~?」


自分で持ってる方がいいということか。


持っておいて、機会があれば売却するとしよう。


と、言いつつ、ジッとカードを見る。


カードを透かして、子供たちとの友情と、一緒に困難を乗り越えた実績を実感した。


きっと────俺はこのカードを誰にも売らずに一生大事に持っておくことだろう。俺ってやつは、そんな甘ったるいロマンチストだ。


俺はぎゅっとカードを胸に抱いたのだった。


まるで大切な家族か親友のように。



見ると部屋の奥の方に転移魔法陣があるのが見えた。おそらくあそこから出られるのだろう。


スライムのドロップアイテムは、持てるだけ持って、バレるのを承知で俺のアイテムボックスもフル稼働したが、それでも大量に残していくことになった。もったいない。


準備を整えて全員で魔法陣の上に乗ると、俺たちはダンジョンの入り口付近にまで瞬間転移した。


すぐにダンジョンを出た。ダンジョンを出ると子供たちが歓声をあげた。おそらく無事に帰ってこれてホッとしたのだろう。女の子たちなんか泣いている。


全員を引き連れてギルドに向かった。ドロップアイテムの査定をしてもらうのだ。報酬の金額によって子供たちに色をつけて報酬を渡そうと思う。ああ、報酬じゃなくてお小遣いだったな。間違えてはいけない。表向きには、未成年を働かせてはいけないことになっているのだ。子供たちは、働いていないから当然報酬は発生しない。ただ、大人たちのお手伝いをしたから、お小遣いをもらっただけだ。ややこしい。


金額によってはちょっと考えていることがある。高く買い取ってもらえると嬉しいのだが•••••••。


俺の専属受付嬢であるミミが受付に入り、どんどんドロップアイテムを査定していく。俺たちはドキドキしながら、その結果を待った。


果たして────。


結果が出た。


「買取価格は13万1,800円です~」


ワーッと子供たちが歓声を上げる。


よしっ! イける!


俺は子供たちに向かって大声で言った。


「宴だ! 食堂貸し切って宴会しようぜ!」


驚く子供たちとミミを置いて俺は食堂の受付に行って、店員の前に札束を叩きつけた。そして言った。


「これ全部使って、ありったけの料理と飲み物を出してくれ!」


驚く店員の女性が料理長に相談に行って、厨房の奥から剃髪の料理長が出てきて、ウインクしてニヤリと笑い、親指を立ててくれた。よっしゃ!


ほどなく、俺たちの席に大量の料理と飲み物が運ばれてくる。


刺身の盛り合わせ、天ぷらの盛り合わせ、焼き鳥が大皿でてんこ盛り、だし巻き卵におにぎり、鶏の唐揚げなど大皿の上で山になっている。ローストビーフが惜しげなく大皿に盛られていて、豊富な種類のチーズの盛り合わせやフルーツの盛り合わせなどもある。サラダやスープやジュースとデザートもいくつも種類が並んだ。焼き肉と焼き野菜も焼き上がった端から次々と運ばれて来る。


「思う存分食べて飲め!  全部、俺のおごりだ!」


あまりもの量の多さに、子供達が目を白黒とさせる。喜びよりも驚きの方が勝ったようだ。孔雀が子供たちを代表して俺に言った。


「ヒロのおっさん。うれしいけど、こんなに食べ切れないよ」


「じゃあ、友達と家族と知り合いを呼んでこい ! 今日は宴だ!」


子供達が慌てて家族や友達たちに連絡を取り始める。日曜日で休日だったせいか、1時間もしないうちに子供たちの家族、友人、知り合いが食堂に集まった。広い食堂を埋め尽くすほどの人数だ。


「「「「「かんぱーい!」」」」」


みんなでグラスを天に掲げた。


戸惑う者も居たが、大量の料理に目を輝かせ、笑顔で笑いあいながら腹がはちきれるほど食べて飲んだ。


泣きながら食べてる人が少なからず居た。聞くと嬉し涙だそうだ。


誰かが「3日ぶりのゴハンおいしいっ」と言っていたのが印象的だった。そして、それに多くの人たちが同意してうなずいていたのも。


ほとんど全部が母子家庭だった。アイテムボックスの兄ちゃんに聞いた話は本当だった。


宴もたけなわの頃に、俺は子供たちの親を少し離れた場所に呼び出した。そして深く頭を下げた。


「あなた方の子供たちを危険な目に遭わせてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」


親たちは驚いて、気にしなくていいんですよ。子供達も覚悟の上でしたでしょうから。と優しく言ってくれた。


「この宴会は、そのおびかい?」


孔雀のお母さんの友人の、葵さんが聞いた。


「いや、そういうつもりじゃなかったんだ。ただ、子供たちは怖い思いをしただろう? その怖い記憶を宴の楽しい記憶で上書きしてやりたかったんだ」


葵さんの隣で聞いていた、孔雀の母親の奏さんが俺の手を取った。そして、強く握りしめる。


そして、感涙にむせぶような声と、涙で光るキラキラした翡翠の瞳をして言った。


「温かなお心遣い、ありがとうございます。どうか、これからも誉のことを、よろしくお願いします」


「お任せください。孔雀……誉くんは俺の友達です」


奏さんの髪に、虹色のリボンが揺れていた。


見ると、子供たちのお母さんのほとんど全員が同じリボンを着けている。


このリボン、流行ってんのかな?


──────────

【あとがき】

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