第25話 再会
朝。ダンジョンに向けて出発し、ダンジョンに到着すると受付に向かった。すでにミミがいたのでミミに声をかけた。
ちょっと相談したいこともあったので食堂の方にミミを連れて行く。
向かった先、食堂は悲しみに沈んでいた。
各々、朝食をとる探索者たちがいるのだが、皆一様に、まるでお通夜のように悲しみにくれていた。
食堂には音楽が流れていて、俺もその音楽を聞くと無性に悲しい気持ちになった。
まるで、愛する家族を失ってしまった直後のような、そんな深い悲しみに自分の心が染まっていくのだ。
視線を巡らせると、食堂の一角で夢エルフが泣きはらした目をして、悲壮な顔で音楽を
何か、とても悲しいことがあったんだろうな。
俺はそう思った。
俺は、ミミに断りを入れて夢エルフの方に向かった。夢エルフの前に立ち、優しく話しかけた。もちろん聞こえるわけがないのだが、そうせずにはいられなかったのだ。
「何があったか知らないけど、思う存分泣いたらいいよ」
夢エルフの声が俺たちに聞こえないように、俺たちの声も夢エルフには届かないのだろう。夢エルフは気がついた様子はない。変わらずむせび泣くように歌っていた。
飲み物を注文し、それを席料にして俺たちは食堂の一角で今日のダンジョン探索についての打ち合わせを始めた。おっと、その前に。
「ミミ、確かお前、鑑定スキルを持ってたよな?」
「ギルド職員には必須のスキルですから、もちろん持ってますよ~」
ミミに確認を取ってから、俺はそれをカバンから取り出した。
「朝起きたらこんなものを持ってたんだ。これってひょっとして、モンスターカードじゃないか?」
そのカードを受け取ったミミは、鑑定をかけるまでもなく一目見て声を上げた。
「間違いなくモンスターカードですね~。しかも動画カードじゃないですか~。スーパーレアですね~。どこで手に入れたのですか~?」
「知らん。起きたら持ってた」
「ダンジョンで手に入れてたのを忘れてたとかでしょうか~?」
そう、このモンスターカード。ダークエルフらしき女性が写っているのだが、そのダークエルフの女性が動くのだ。まるでスマホに映し出された動画のように。
ダークエルフは、何かを必死で訴えかけてくるんだが、声は聞こえないので全く何を言ってるのかわからない。
「何かを必死に伝えようとしてますね~」
「そうみたいなんだが、何を言いたいのかさっぱりわからん」
「試しに魔力を流してみていいですか~?」
「どうぞ」
魔力を流すとはどういう意味を持った言葉なのかわからなかったが、ミミならば大丈夫だろう。俺はすぐ承諾した。
後で聞いた話だが、ダンジョンでマジックアイテムを手に入れて、それを使おうといろいろ試してるうちに、誰にでもすぐに使えるようになるスキルだそうだ。
「えい~」
ミミが魔力を流して、ほんの1拍ほどの時間の後、後ろですごい音がした。
夢エルフの楽器の音だ。楽器が壊れたんじゃないかと思うほどの音を立てた。
音の根元を追って夢エルフを思い出すと、夢エルフは驚愕の表情で、こちらにすごい勢いで歩いて来た。
まっすぐこっちにやってきて、ミミが持ったモンスターカードを覗き込むと、さらに驚いた顔をした。そして、有無を言わさずモンスターカードをミミの手から奪い取る。
「何をするの~!?」
ミミの驚いてるような、だけど緊張感のない、緊迫感を一切感じさせない声がした。
夢エルフを見ると、驚いたことにモンスターカードと会話しているようだ。声は全く聞こえないんだが、口の動きからそれがわかる。
2、3言、夢エルフがモンスターカードと言葉を交わすと、感極まったように泣き出して、その胸にモンスターカードをぎゅっと抱きしめた。
なんかドラマが始まってる。
俺とミミは、映画を鑑賞するような、あるいはテレビでドラマを見るような気持ちで夢エルフを見ていた。
やがて落ち着いたのか、泣き止んだ夢エルフが俺たちに何か必死で訴え始めた。
身振り手振りを見ると、どうやらこのモンスターカードが欲しいらしい。土下座はやめてくれ、外聞が悪い。
「どうしますか~?」
「こういった類のアイテムって、譲渡してもいいものなのか? ギルドを通さなければいけないとかそういうルールはないのか?」
「ありませんね~。魔石以外のアイテムは基本的にそのアイテムを取ってきた探索者の所有物になります~。私物扱いです~。気をつけなければならないことは、売ったりしてお金に変えると税金が発生するくらいでしょうか~?」
「じゃあ、俺の好きにしていいってことか?」
「そういうことです~」
「じゃあやるよ」
俺は夢エルフに、どうぞどうぞとジェスチャーで、そのモンスターカードをあげることを伝えた。
「そんな気軽にあげていいのですか~?」
「いいんだいいんだ。ほら、夢エルフとダークエルフってなんかまるで姉妹のように似てるじゃん。たぶん身内だよ。きっと2人とも喜ぶ」
俺のジェスチャーを見た夢エルフは、感極まったような感動の顔をして喜んで、俺のことをまるで神さまのように祈りだした。やめてくれ、背中がムズムズする。
そのまま夢エルフは立ち上がり、何か呪文のようなものを唱え始めた。声は聞こえないが。すると足元に幾重もの魔法陣が浮かび上がり、神々しい光を放ち始める。魔方陣が目も開けられないほどの光を発すると、いきなりダークエルフが実体化した。
驚いたミミが言う。
「夢エルフさんは、モンスターカードの仲間モンスターを実体化する魔法を知っているのでしょう~。きっとそういうスキルなどがあるのでしょうね~」
手を取り合って再会を喜び合う百合百合しい夢エルフとダークエルフ。
やがて、夢エルフはリュートを構え、ダークエルフはアイテムボックスから
朝の食堂に響き渡る曲は、歓喜の溢れるとても楽しい嬉しい幸せな心あふれる曲だった。
曲が終わると、夢エルフが潤む瞳で俺を見て、なにかを告げていた。
俺には、夢エルフがなにを言ったのかわからなかったが、どうもミミには通じたようだ。
ミミは危機感を募らせた真剣な顔をして、まるで宣戦布告するように言った。
「私は負けません」
声が、間延びしていなかった。
○
食堂で、こんな会話があった。
「なあ、あれってダークエルフだよな?」
「肌の色からしてそうだな」
「でも、ダークって闇だろ?」
「ああ、そうだが?」
「なんか、闇って感じじゃないよな」
「そうだな。夢エルフが白っぽいから、2人並ぶと、朝と夜みたいだな」
「じゃあ、ダークエルフじゃなくて、夜エルフだな」
「「「「「それだ!」」」」」
「ダークエルフは、今日から夜エルフと呼ぶことにする。おうけい?」
「いいじゃん、いいじゃん。夜エルフで、けってー!」
「じゃあ、夢エルフは朝エルフに改名するか?」
「いや、夢エルフは夢エルフだろ?」
「「「「「それな!」」」」」
──────────
【あとがき】
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