第30話 モンスターハウスと子供たち

総勢29人で、ダンジョンを行く。


これだけ大勢だと、多くのモンスターを引き寄せるのだろう。スライムが大量に、しかも、ひっきりなしにやってくる。これがあるからパーティーの人数は、5人程度を推奨されているんだ。


「石投げ隊、てーっ!」


まとめ役の孔雀の合図で、一斉に子供たちが石を投げる。


ステータスの共有で、トップランカークラスに強化された筋力によって放たれた投石が轟音を上げて飛ぶ。空気が破裂するような音だ。おいおい、音速を超えてるんじゃないか?


数を数えるのが億劫になるほどのスライムの大群が、一斉に蹴散らされる。子供達は大興奮で喜んでいる。わかる。気持ちいいよな。まるで無双ゲームのようだ。


はっきり言って暴力だ。スライムが可哀想だ。俺とミミの出番がなくなってしまった。


「全くもってチートですね~。天邪鬼のスカーチークまえださんが、30人近くいるようなものですから~」


「本当に、共有スキルを手に入れてラッキーだよな」


俺たちはルンルン気分で、ダンジョンの奥に進んだ。


殺人部屋の転移罠は比較的近い位置にある。5分も歩かないうちに、その場所に到着した。


「子供達、準備はいいか?」


子供達は興奮冷めやらぬようで、浮かれたようにはいっと返事する。


「モンスターハウスに転移したら、まず投石。それから、すぐにミミの結界の中に避難して大人しくしてること。いいな?」


少し気を引き締めたくて、厳しい声を出した。


「「「「「はいっ!」」」」」


緊張した面持ちの子供たちが、力強く返事した 。いい空気だ。


「じゃあ、行くぞ!」


俺は転移装置の起動レバーを引いて、魔法陣を出現させた。


地面に巨大な魔方陣が現れる。その光に照らされて、俺たちはモンスターハウスへと転移した。


モンスターハウスの中は、スライムでひしめきあっている。


大津波を目の前にしたような、思わず足がすくむような、生きることを諦めてしまうような危険を感じる。骨の髄からくる真の恐怖だ。


「「「きゃああああ!」」」


何人かの気の弱い子供達は、悲鳴をあげてその場にうずくまった。


「石投げ隊、てーっ!」


孔雀の号令がかかる。


子供達が一斉に石を投げる。


ジャン♪ドン!


その時、勇壮な曲が鳴り響いた。


「夢エルフ! それに、夜エルフ!」


音の出所を見るとそこに、勇ましい曲を奏でる夢エルフと夜エルフがいた。


その励ましの曲に奮い立ち、うずくまっていた子供達も泣きながら立ち上がり、弱々しくありながらも必死で石を投げた。


「いいぞ! 撤収! ミミさんのところに集まれーっ!」


孔雀の声が上がる。


押し寄せる津波から逃げるように、子供たちが後ろのミミのところに集まる。俺は子供たちとは逆に、悠々と前に出た。


「絶対障壁!」


頼もしいミミの声。


俺は背後に結界が貼られた気配を感じ取って、もう一歩、津波に向かって足を進めた。


「変態(物理)スキル、サウザンド・ニードル!」


俺は変態スキルを使って、千本の針を生やした姿に変身した。


「「「ヒロのおっさん!」」」


「「ヒロおじさん、ファイト!」」


子供達の声援に、俺は背中を向けたまま親指を立てて見せた。


俺のハゲが、キラリと光る。


さあ、ショータイムだ!


──────────

【あとがき】

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