リストラされた50歳チビデブハゲのおっさんダンジョンに潜る
@pontakiche
第1話 リストラと家庭追放
「山田課長、人事部長からお電話です」
スタッフの紅一点である女の子がそう言って、俺のデスクに電話を転送した。
「もしもし、換わりました山田です」
俺がそう言うと、受話器から人事部長の声がする。
「ああ、私だ。大事な話がある。すぐにこちらに来れないか?」
深刻そうな声の響きだ。
••••••ついに来たか。
「ああ、いいですよ。5分で行きます」
俺は、どんな話をされるのか、ある程度の予測は立っていた。経営状況を考えれば誰にでもできる予測だ。
人事部に行くための準備をしながら、すでに用意してあった対応策を頭の中でそらんじた。
○
人事部に行くとミーティングルームに案内された。
中に入ると部長が待ち構えていた。
「山田です、失礼します」
「ああ、まず座ってくれ」
部長の対面に座り、まず当たり障りのない会話をする。
やがて部長が本題を切り出した。
「経営不振のため人員整理をしたい。君の部署からリストラの対象を2人選んでくれ」
そう、わが社は、経営難に直面している。
会社再建計画では、3年後には黒字に転換できることになっている。だが、その前提条件が人員整理────つまり、リストラだ。
完全に予想の範囲内だ。 ゆえに、あらかじめ用意してあったセリフをここで言う。
「今現在の状況で人員が2人も減ると、業務が立ち行きません」
「しかたないだろう、やらねばならんのだ」
「そこで私に代案があります。聞いていただけますか」
「代案? なんだそれは」
部長の言葉に私は、息を大きく吸ってはっきり言った。
「部下2人の代わりに、私をリストラしてください」
部長は慌てて大きな声を出した。
「君に出て行かれると困る!」
対して私は冷静に返した。
「部下たちは十分に鍛えてあります。私がいなくても業務は回ります。業務の取りまとめはリーダーの田島にしてもらい、課長の業務は企画課の藤田課長に兼任してもらうのです。藤田課長の負担は増えますが、これで支障はなくなるはずです」
すでに根回しは済んでいる。
「しかし••••••」
部長が渋面をつくる。
部長にもわかっているはずだ。
これがベストだと。
懊悩にたっぷり時間をかけた後、部長は諦めのため息をついた。
それを肯定と受け取って、俺は言った。
「2週間で引き継ぎを終わらせます。では失礼します」
部長は、失意にうなだれた。
ミーティングルームを出る俺の背中に、部長の小さな声が届いた。
「すまない」
俺は、それになにも言えず、黙ってドアを閉めた。
○
俺は約束通り、2週間で引き継ぎ業務を終わらせた。
2週間後、会社を去る時、部下全員に引きとめられた。
「課長、行かないでください!」
「課長がいないと、この会社はどうなるんですか!?」
紅一点の女の子なんか泣いていた。
なんとかみんなを説得して、俺は逃げるように会社を出た。
○
家に帰って家族にリストラを報告した。
妻から離婚届を突きつけられた。
離婚届にサインをしてハンコを押し、家も貯金も取られて100万円だけ握らされて家から追い出された。
しかたないだろう、悪いのは俺だ。
俺は、仕事ばかりで家庭を一切かえりみなかった。
俺は家では、会社で働いて金を持ってくるだけの男だった。
金を持って帰ることができなくなれば用済みになるのは当たり前だ。
家の玄関を出ると息子が追ってきて、100万の中から10万を抜き取った。
「何をする!」
「うるせえ、このクソじじい!」
息子は俺を乱暴に突き飛ばし、尻餅をついた俺の胸に蹴りを入れた。
呆然とする俺の前で、玄関の扉は冷たく閉ざされた。
○
ビールとつまみを大量に買って、ネカフェで個室を取った。
飲んだ。
飲んで飲んで飲みまくった。
愚痴る相手がいないので、俺は神様に愚痴った。
なあ、神様。
俺はいつだって最善を選んできた。
いつも一番いいと思う行動をしてきたつもりだ。
いつだって全力で頑張って、死ぬかと思うほど一生懸命に働いた。
愛する人たちのために、必死で尽くしてきたつもりだ。
なのに、この仕打ちはなんだ?
俺のなにがいけなかった?
俺のなにが間違っていた?
俺のどこが悪かった?
教えてくれ。
••••••わかってる。俺は家庭を犠牲にしたんだ。
仕事にかまけて家族には金だけ与えて、全く愛情を注がなかった。
俺が悪い。
全部、俺の責任だ。
会社のみんなは大丈夫。再建計画は実現可能だ。
家族も今まで貯めた貯金があれば十分に生活できるだろう。家のローンも終わってるしな。
俺は、金だけは稼いでたからな。
会社が色をつけて渡してくれた退職金も全額妻に渡した。ああ、もう俺の妻ではなくなったか。アハハ。あ~あ、不二子ちゃん、いい女だったのになぁ。
会社も家族も大丈夫だ。
だが、俺はこれからどうすればいい?
なあ、神様。
このままじゃ俺は野垂れ死にだ。
いくら待っても神様から返事はなかった。
仕方がないのでオレは俺に言った。
『よお、ヒロ。ポーカーしようぜ』
そう、俺はヒロ。
本名、
50歳チビデブハゲのおっさんだ。
『ヒロの手札はなんだ?』
「90万円と失業保険。あと小銭が少々」
90万円を入れた封筒とは別に、財布には1万円と少々の小銭が入っていた。
『ほお。じゃあ貧乏生活ができるな』
「貧乏生活か」
『ああそうだ。誰もが羨む素敵な貧乏生活をしようぜ!』
「贅沢ができないのは辛いなあ」
『なぁに、死んでるわけじゃない』
そう言ってオレは俺に向かって不敵に笑った。
生きてるだけで丸儲け。
「せいぜい稼いで老後資金を貯めようか」
ネットで検索すると老後資金は大体2,000万円必要らしい。
生きる目標が決まった。
貯金を2,000万円貯めよう!
─────────────
【あとがき】
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