第11話【閑話】孔雀の事情
○ 孔雀視点
チビデブハゲのヒロのおっさんから300円をもらうと、俺は徒歩でふもとの自宅に帰ってきた。
家賃の安さだけが取り柄の、風呂なしトイレ共同のオンボロアパートだ。
「ただいま」
声を上げて部屋に入ると、お母さんとお母さんの親友の
お母さんの名前は
お母さんの親友の葵さんは一言で言うとヤンキーだ。やんちゃばっかりしているように見える。一見怖そうだけど、とても気の優しい女の人だ。
「おー、邪魔してるぜ。ホムホム」
「お帰りなさい、
葵さんの言うホムホムは俺のあだ名だ。もっとも葵さんしか言わないが。なお、お母さんのいう誉が俺の本名だ。ヒロのおっさんが俺に名付けたあだ名の孔雀もカッコ良くて好きだけど、お母さんに誉って呼んでもらうとどこか嬉しい。
「ダンジョンで荷運びを手伝ったおっさんが、晩御飯を奢ってくれたんだ」
そう言うとお母さんも葵さんも喜んでくれた。よかったねと言って。
「今日は稼ぎもあったよ。300円だけだけど。お母さん受け取って」
俺が300円をお母さんに渡そうとすると、お母さんにその手を押し戻された。
「それはあなたが稼いだんだから、あなたのお小遣いにしなさい。気にしなくても大丈夫よ」
我が家は貧困家庭だ。葵さんに助けてもらいながらでやっと生活がしていける、それぐらいの。
事情を明かすことを許されるならば聞いてほしい。事情を話すことで、気分を害することを許してほしい。いわゆる胸クソ話ってやつだ。
○
お母さんは性犯罪の被害者だ。
小学校6年生の時にロリコンに強姦されて俺を身籠った。そして中学校1年生で俺を産んだ。
子育てのために中学校は中退して、お母さんの学歴は小学校卒だ。
とても厳しい状況になった。その上誰も、お母さんを助けてくれなかった。親友の葵さん以外は。
「強姦されそうになって、なぜ逃げなかったのか」
「強姦されそうになって、なぜ抵抗しなかったのか」
そう言われてお母さんが全面的に悪いことになってしまった。なお、犯人は捕まっていない。
お母さんは必死になって逃げた。必死になって抵抗した。それでも無理やり強姦されたんだ。
お母さんは家族にさえ見捨てられた。見捨てなかったのは親友の葵さんだけだった。
そんな葵さんも、お母さんと同類だということにされてひどい風評被害を受け、周りの人間から辛く当たられているらしい。本当に葵さんには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
小学校卒のお母さんでは、まともな仕事に就くこともできず、稼ぎの少ない仕事で何とか家計のやりくりをしている。葵さんが助けてくれなかったらどうなっていたことか。ゾッとする。
以前葵さんに、なぜ助けてくれるのかと聞いたことがある。その答えは、
「ダチを見捨てることはできねえ」
たった一言そう言っただけだった。
自分の信念を曲げずに生きる葵さんが、とてもかっこいいと思った。
○
荷運びで稼いだ金を受け取ってもらえなかった俺は、閉店間際のスーパーに行ってシュークリームを3つ買ってきた。
賞味期限切れ間近で半額シールが貼られたシュークリームだ。
それをお母さんと葵さんと俺の3人で食べた。
「うめぇ!」
葵さんの驚きの声。
「美味しいね」
お母さんの喜びの声。
その後にお母さんがポツリと呟いた。
「幸せ。誉を産んで良かった」
それを聞いて俺は泣きそうになった。
これだけ苦しい生活をしてて幸せなはずがないじゃないか!
家族にすら助けてもらえず苦しい生活をしている。それなのに、お母さんは幸せだというんだ。俺の買ってきたシュークリームを食べて幸せだって言うんだ。
涙は我慢したのに鼻水が垂れてきた。
グシュグシュと鼻を鳴らして、俺はシュークリームを食べた。
「このシュークリーム、ちょっとしょっぱい」
俺がそう言うと、お母さんと葵さんは笑った。
うちは間違いなく貧困家庭だけど、この家には確かに幸せな笑顔があった。
だからこそ俺は、強い探索者になって、絶対に、お母さんと葵さんを幸せにするんだ!
──────────
【あとがき】
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