第三章
3-1 文化祭実行委員
季節は秋になった。
もうすぐ学園の文化祭がある。リーゼロッテは文化祭実行委員になってしまい、毎日慌ただしく動いていた。大人しく控えめな彼女だが、くじ引きで決まってしまったのだ。だが、やるからにはきちんと成し遂げたいと思って張り切っていた。
クラスの出し物の中心になってくれているのは、手芸クラブのエミリーだ。彼女は目をキラキラさせて言った。
「私の出した案、メイド喫茶が実現できるなんて嬉しいです!!」
この案を聞いた時は、エミリーはもしや転生者なのかと一瞬疑った。だが、そんなことはなかった。彼女はただ純粋に(?)、クラスメイトにメイド服や執事服を着せたかったらしい。まあ、クラスメイトたちも妙にノリノリだったので、大丈夫だろう。
「衣装の準備は、大変じゃない?大丈夫?」
「ばっちりです。既製品のメイド服や執事服をアレンジして作っていますから、手間もそんなにありませんわ。あ、でも!手伝って欲しいことがあって……!!」
「なあに?何でも協力するわ」
「リーゼロッテ様に、メイド服を着まくって欲し…………っ、じゃなくて、試着をお願いしたくて!」
「分かったわ。じゃあ今日の放課後に行くね?」
「やったああああ!!あ、叫んですみません。楽しみにしています!!」
エミリーは大きなガッツポーズをして去って行った。よっぽど試着の人員が不足していたのだろう。
そんなことを話すと、アルノルトとレオンハルトには苦い顔をされた。
「リーゼは、人が良すぎる……」
「そうかな?」
「その女、絶っ対、リーゼを着せ替えして楽しみたいだけだぜ」
最近はレオンハルトも加えて、四人組でいることが多い。アルノルトとリーゼロッテが勉強を見ているお陰で、クラリスとレオンハルトの成績もじわじわ上がってきた。来年は同じクラスになれると良いのだが。
リーゼロッテの隣で鼻歌を歌っていたクラリスが言った。
「でもメイド喫茶、良い案だよね。簡単で、かつ集客見込めるし。ファンクラブがあるほどのアルくんと、美少女のリーちゃんがいれば、売り上げすごいかも……!!」
「俺らのとこはお化け屋敷だよ。毎日ベニヤ板切ってる。本当、作るのが大変だし、当日もお化け役、やんなきゃいけないし……」
「でも、集客力はありそうね」
「お化け屋敷に文句言ってるけど、レオンはなんだかんだで張り切ってるじゃん。皆に、すごーく頼りにされてるよ?」
「そ、んなことねーし……」
クラリスに褒められて、レオンハルトは顔を赤くしている。この二人の距離感は相変わらずだ。
「メイド喫茶は飲食物を扱うから、その申請が大変かな……」
「そっか。まあお化け屋敷は、そういう手間はないな」
「火は使わなくても良いメニューにするもりなんだけどね。でも、寒いから温かいお茶くらい出したいし、魔術の使用許可を取ってるの。あとは貸してもらえるテーブルとかも数の制限が厳しいから、工夫しなくちゃ」
「どの出し物でも、大変な部分はあるよね」
ううんと考え込むリーゼロッテの手を握り、アルノルトが心配そうに言った。
「リーゼはちょっと頑張りすぎじゃないか?まあとにかく、放課後の試着にはついていくからね」
「そんな。アルに負担をかけるわけには、いかないわ」
「男の試着要員も、居た方が良いと思うよ?」
「……それもそうね。ありがとう」
リーゼロッテが微笑むと、アルノルトは目元を緩めて言った。
「俺一人でいたら、クラスの出し物とか……絶対に無視していたと思う。リーゼのお陰で、俺も色んな体験ができるんだよ」
「そっか。それなら嬉しいな」
♦︎♢♦︎
「リーゼロッテ様とアルノルト様が一緒に来てくださるなんて!!百人力ですわ!!」
放課後二人が行くと、手芸クラブはわっと盛り上がった。あっという間に大量のメイド服と執事服を渡され、試着室へ通される。
リーゼロッテはもらったメイド服のうち一つを着てみて、鏡を見てから――――頬を真っ赤にした。
――ス、スカート、短くない……?薄いタイツを履いているとはいえ、貴族がこんなに脚を出して良いのかな……??
スカートは、なんと膝丈より20センチ上くらいだった。この世界では、かなり攻めたデザインである。
赤くなったままおずおずと試着室から出ると、執事服を着こなしたアルノルトが一瞬目を丸くした後、珍しく首元まで赤くして言った。
「ス、スカートが短すぎる!!却下だ!!」
アルノルトは却下と言いつつも、リーゼロッテの白い脚を凝視していた。手芸部の面々が一気に集まってくる。
「滅茶苦茶可愛いです!眼福だわ〜!!」
「リーゼロッテ様、脚が綺麗〜!!」
「腕もほっそりしてるから、パフスリーブが似合いますね。もっとふんわりさせてもいいかも〜」
「このメイド服は、世界に革命を起こすわ!!」
「ペチコート、もう少しボリュームアップしても良いんじゃない?甘々の、フリフリにしようよ〜」
「いっそタイツを黒くして、膝上丈で切ってしまうとかどう!?」
「鎖骨のとこ、ガバッと布を取って開けちゃうのは?こう、谷間をチラ見せする感じで…………」
話がどんどん、どんどん怪しい方向に進んでいる。これにはアルノルトがぴしゃりと一喝した。
「スカートは制服と同じ、膝下10センチ以上!!必ず、一番厚手の黒タイツを着用!!既製品の魔改造は、一切禁止!!リボンやフリルを足す程度にしろ!!」
アルノルトの出した条件に、手芸部員たちは肩を落とした。
「ちぇー」
「アルノルト様……まるで風紀委員みたいだわ」
「その割には、リーゼロッテ様のミニスカートを目に焼き付けてるわ」
「むっつり…………」
「お前たち、あまり文句を言うと……リーゼにこれ以上、協力させないからな!!」
「「「……はーい」」」
やる気のない返事だ。だが、影響力のあるアルノルトが止めてくれて助かった。
それからは膝丈より長いスカートのメイド服を何着か試着して、サイズ調整などに協力した。メイド服と一言に言っても、エプロンがヒラヒラしているタイプやお仕着せタイプなど、様々である。
こんな風にして、文化祭の準備期間は平和に過ぎていったのだった。
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