2-4 ライバル対決

 アルノルトとレオンハルトは、各ブロックで危なげなく勝ち進んだ。勿論クラリスもである。

 結果として、アルノルト対レオンハルトの勝負が最初に行われることになった。


「アル、頑張ってね。でも、怪我はしないで……」

「リーゼ。君のために勝利をもぎ取ってくるよ」


 リーゼロッテが心配そうに言うと、その頬をするりと撫でたアルノルトは甘く微笑んだ。アルノルトは、リーゼロッテ相手の時だけ随分と表情が豊かになったと思う。さらりと垂れた白銀髪の下でタンザナイトの瞳が輝き、とても綺麗だった。リーゼロッテは飽きもせずに彼に見惚れてしまう。


「アル…………」

「リーゼ」


 思わず二人の世界に入ってしまった。

 しかし、レオンハルトの声でそれは切り裂かれた。


「おい、アルノルト!勝った気でいるみたいだが、俺は今回こそお前に勝つからな!!」


 アルノルトは苛立った様子でこれに返事をした。


「せっかくリーゼと話をしていたのに……。まあいい。お前との実力の差を見せて、リーゼのキスをもらうから」

「おっ、おれは、勝って、くっクラリスのキスをもらうっ!!」

「男同士の勝負、熱いの見せてくれよっ!!」


 クラスのお調子者マティスがまた囃し立てている。彼はいつも元気だ。

 

 レオンハルトの様子を見ているクラリスは、何だかニヤニヤしている。クラリスはレオンハルトの想いに気づいていながら揶揄っているんだな、とリーゼロッテには分かった。大変罪な女である。


 さて、勝負の時間だ。

 リーゼロッテはクラリスと見物席に座った。手には一緒に勝ったクレープがしっかり握られていた。これまでしょっぱいものを色々食べたので、もうデザートだ。

 リーゼロッテはクラリスに尋ねた。

 

「クラリスは、どっちが有利だと思う?」

「断然、アルくんかな。剣術も常人の粋じゃないし、魔術は天才すぎて……もう自分の手足みたいに扱ってる。特異魔術が戦闘向きじゃないって言っても、基本のスペックがまず高すぎるよね〜」

「なるほど。あとは、レオンハルト様の特異魔術がどこまで対抗できるのか、といったところね……」


 二人が会場に進み出るのが見えた。注目の一戦とだけあって、賭けのオッズも随分割れているらしい。


 ――アル、頑張って。

 リーゼロッテは祈り、アルノルトだけを熱心に見つめていた。


「はじめ!」


 審判のするどい声が響く。するとアルノルトの周囲には、瞬時に無数の魔術陣が描かれた。


「あの数を一遍に……!?」

「すごい!!」


 周囲の生徒が騒いでいる。やはりアルノルトの魔術の才は突出しているのだ。

 アルノルトの背後には、無数の刃――――の形をした氷柱が浮かび上がった。その他にもまだ起動していない魔術陣が、大量に彼を囲んでいる。いつでもすぐさま発動できる状態にしてあるのだ。


「行くぞアルノルト!【時のはやて】!!」


 レオンハルトが大声で特異魔術を発動した。ブン、という残像が残り、彼は一気にアルノルトに向かっていった。


「は、速い……!!」


 自分だけ周囲より加速できる、という能力はシンプルだが強力だ。

 襲いくる氷柱の攻撃を、ものすごい手数の多さでレオンハルトは捌いていく。ついに彼はアルノルトに到達し、刃と刃がぎりぎりと鬩ぎ合った。


「重いな……っ」

「刃も加速してるんで、ねっ!!」


 レオンハルトが身を翻して二撃目を入れようとしたが、アルノルトはすかさず剣に風を纏わせ、レオンハルトを切り裂いた。


「ぐわあああっ!!」

「俺は、簡単には負けない」

「一本!!」


 レオンハルトの圧倒的な速さ、手数と攻撃の重さ。それをアルノルトは魔術の圧倒的な才能だけで、いとも簡単に退けて見せた。


「次は負けねえ……!」

「来い。いくらでも負かしてやる」


 二戦目、レオンハルトは先ほどよりも早く踏み込みを入れた。アルノルトは全くレオンハルトの姿を捉えられなかった。

 来ると思われる軌道上に氷柱の刃を打ち込んだが、全て外れた。そして背後に殺気を感じる。


 ガキン!!


 刃と刃がぶつかった。レオンハルトの奇襲を、アルノルトがなんとか受けた形である。

 体勢を崩しかけたアルノルトは、ごうっと大きな炎をレオンハルトに向かって出した。しかしそれも読まれていたようで、加速してひらりと交わされる。ものすごい速さで突きの連撃がやってきた。


「くっ…………!!」


 アルノルトは何とか応戦したが捌ききれず、一本食らった。


「ぐはっ!!」

「一本!!」


 今度はレオンハルトの圧勝である。

 リーゼロッテは息を呑んだ。

 ――この勝負、全く予想がつかない……!!

 煩かった会場もすっかり静まり返り、二人の激しい勝負に見入っているようだった。

 

 

 さて……結論から言うと、二人の勝負は大変長引いた。魔術はお互いの得意分野を生かしている上、剣術に至ってはほぼ互角だったのである。レオンハルトはやぱり小説のヒーローだけあって、強かった。


「ハァ、ハァ…………」

「次は……決める…………」


 二人とも既に傷だらけで、大変疲弊している。リーゼロッテは、見ている自分も痛みを感じるほどだった。

 現在二人が二本ずつ取っており、次の一本で勝負が決まるという局面だ。


「絶対に勝つ……!!」

「来い!!」


 レオンハルトが加速した踏み込みでアルノルトに挑みかかる。アルノルトは風を纏わせた剣でそれを迎撃した。

 氷柱の刃が一気にレオンハルトに襲い掛かるが、身を翻した彼に全て避けられる。

 しかしアルノルトはその隙をついて、レオンハルトを切り付けようとした。

 だがレオンハルトは諦めていなかった。加速した足でアルノルトの足を払う。バランスを崩した彼に切り掛かる――――と思われた。だが、それもレオンハルトが受け止めた。

 剣と剣がぶつかり合って大きく反発し、疲弊した二人はそこに倒れ込んだ。


「ア、アル…………!!」


 どうなってしまうのかとハラハラし、リーゼロッテが叫んだ……その瞬間である。

 会場中を突然、目も眩むほどのまばゆい光が包み込んだ。


「!?」

「何これ!?」


 クラリスは咄嗟にリーゼロッテを守る構えを取る。会場は大混乱だ。そして闘技場の中央に現れた巨体を見て――――会場は阿鼻叫喚へと変わった。

 

 そこにいたのは、大型魔獣。

 高さ3〜4mはあろうかというほどの、猪型の魔獣だったのである。

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