2-3 武闘派主人公クラリス
剣術大会の日がやってきた。剣術と言っても、魔術の使用制限はない。剣と魔の複合競技だ。
学園には様々な色の旗が飾られ、外部からきた露店が立ち並んでいる。見物客も沢山来るのでお祭りの様相だ。騎士団や魔術師団のスカウトもやって来ているらしい。出世を目指す者には絶好のアピールチャンスだ。
「ああぁ――っ、俺とアルノルトが当たるのは準決勝か……」
レオンハルトが頭を抱えて叫んだ。二人は隣り合うグループに入っていた。
「やっぱり、『因縁』のライバルでも何でもないな」
「アルノルト!そういうことを言うな!!」
アルノルトが溜息を吐きながら言い、レオンハルトが吠えた。クラリスが上機嫌で言う。
「二人のうち勝った方が、ボクと決勝だね!」
「は?お前も出場してるのか!?」
「そうだよ!ボクも特訓の成果、披露するから!見ててね、リーちゃん♪」
クラリスが鮮やかな礼を取ってみせた。美しいピンクブロンドは、今日はきっちりと結えている。真っ赤な羽根つき帽子が似合っており、麗しい男装騎士と言った風情だ。
「クラリス、格好良い……!」
「負けられない……」
「くそぅ……」
リーゼロッテがうっとりとして言い、アルノルトはクラリスに対抗心を燃やしている。レオンハルトは歯噛みしていた。
♦︎♢♦︎
最初に総当たり戦が行われるのはクラリスのグループだ。リーゼロッテ、アルノルト、レオンハルトは並んで見物席に座り、見物していた。手には屋台で買った食べ物とジュースを持っている。
戦いは三本先取制。模擬刀を使って行う。魔術の発動は自由だ。怪我人が出た時のために、治癒師たちがすぐそばで待機している。
アルノルトがリーゼロッテに耳打ちをした。
「クラリスは、特異魔術を開花させたらしい」
「そうなんだ!でも、クラリスの特異魔術は戦闘向きではないよね……?」
「ああ、そのはずだ。俺と同じで戦いに向かないタイプだ」
クラリスの特異魔術は、【魔力の
「クラリスの剣の技術はすごいけどなぁ。簡単にはいかないぞ。一回戦から、運が悪かったな……あいつ」
レオンハルトがぽりぽりと頭を掻きながら言う。リーゼロッテは質問をした。
「あの、相手のギュンターって人……強いの?」
「強い。騎士だよ。騎士団では出世頭だと言われてる。今回の優勝候補、筆頭だ」
「そうなのね……」
ぬっと出て来たギュンターは、クラリスより二回りほど身長が高かった。体格もとても良い。大きな剣を両手で構えていて、見るからにパワータイプだ。
対するクラリスは女性としては平均的な身長ながら、痩せ型なのでかなり小さく見える。しかし彼女は不敵に微笑み、片手で小さな剣を持ち、もう片手を背に回した構えを取っていた。
二人の体格の違いを見て、リーゼロッテはとてもハラハラした。クラリスが怪我をしてしまうのではと、気が気ではない。
「クラリス、頑張って……!」
両手を組んで祈るようなポーズを取る。リーゼロッテが震えているので、アルノルトがそっと肩を抱いた。
「大丈夫だ、リーゼ。クラリスは簡単には負けない」
「うん……っ」
「はじめ!」
審判が鋭く叫び、戦いの火蓋が切られた。ギュンターはすぐに魔術を発動する。嵐のように切り裂く風の塊が二つ出現し、わっとクラリスを襲った。
「……!!」
リーゼロッテは唇を噛み締めたが、クラリスが叫んだ。
「【魔力の
クラリスの目に魔術陣が浮か上がる。新緑の目が光り輝く。
すると彼女はいとも簡単に、ひらりひらりと風の塊をを避けて行った。最短のコースを取ってギュンターに斬りかかる。
「させるか!」
ギュンターが大きく振りかぶり、力で押し返そうとしたが――クラリスは見切っていたらしい。直前でひらりと身体を翻してそれを避け、素早くギュンターの背中を斬りつけた。
「ぐあ!!」
「一本!!」
審判が叫ぶ。クラリスが先取する大番狂わせの展開に、会場はワッと湧き上がった。
「すごい!!」
「あれは……
「ああ」
アルノルトが顎に手を当てて言い、レオンハルトは目を見開いて驚愕した様子だった。リーゼロッテは疑問符を飛ばす。
「どういうこと?」
「クラリス……あいつは相手の魔力の流れを瞬時に見極めて、相手の次の動作を予測して動いてる。魔術も、剣術も、全ての動きが見えていると思う」
「えっ…………」
何だか、小説と大分能力の使い方が異なる。推理特化スタイルから、ゴリゴリの戦闘特化スタイルにジョブチェンジしているような……。
レオンハルトはゴクリと唾を飲み込みながら言った。
「ヤバいな。あれはもう、短期の未来予測の域だぞ……」
「えっ…………!?」
「俺たちの一番の敵は、俺たちじゃない」
アルノルトが冷静に言う。
三人が言葉を交わす間にも、クラリスは相手の火魔法を全て正確に水で打ち消し、一撃入れた。
「俺たちにとって……クラリスが、最大の強敵だ…………!」
最後はクラリスが風の刃で斬り込み、すぐさま先制攻撃を決めて、あっという間に勝負を付けてしまった。
「勝者、クラリス・ハイネマン!!」
わあっと会場が盛り上がる。一回戦から拍手喝采のスタンディングオーベーションだ。磐石の賭けをしていたらしい大人たちは、紙を放り投げて頭を抱えている。
怪我一つないクラリスがぶんぶんと手を振って、こちらに向かって笑顔で叫んだ。
「リーちゃん!!ちゃんと見てた〜!?」
「クラリス!!すごいわ!!」
これには大人しいリーゼロッテも思わず立ち上がり、懸命に手を振った。
一連の様子を見ていた男性陣二人は、冷や汗をかいていた。
「リーゼに無様なところは見せられない。俺は負けない……!」
「お、俺だって!クラリスにだけは、絶対……!負けるわけにはいかない……!!」
こうして。
アルノルトとレオンハルトのライバル対決のラスボスは……なんと、クラリスとなったのであった。
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