2-2 ヒーローは標的のライバル?

 レオンハルトの決闘宣言に、クラスは湧き立った。クラス一のお調子者であるマティスなど、「男と男の勝負っ!熱いねーっ!!」とはやし立てている。


 しかし、当のアルノルトは大変迷惑そうな顔をしているだけだった。リーゼロッテは二人の関係を尋ねてみる。


「因縁の……ライバルなの?」

「向こうが勝手に、そう言っているだけだ。何かにつけて、俺を目の敵にしてくる……」

「そうなのね……」


 どうやら、レオンハルトから一方的にライバル認定されているようだ。


「レオンはボクのクラスメイトなんだよ!」


 クラリスが横から補足してきた。クラリスと一緒ということは、成績下位のクラスだ。レオンハルトは、勉強は得意ではないらしい。

 そんな会話をしていると、レオンハルトは苛立った様子で言ってきた。


「聞いているのかアルノルト・シュナーベル!」

「一応は……」

「よく聞けよ!俺は特訓の末、特異魔術を開花させた!もうお前には負けない!」

「!」


 リーゼロッテとアルノルトは、揃って少し目を見開いた。レオンハルトは小説の登場人物なだけあって、優秀な特異魔術を有している。

 彼の特異魔術は【時のはやて】。自分だけが周囲より加速して動けるという、シンプルかつ強力なものだ。とにかく速く、手数が多く、そして攻撃の威力自体も大きくなる。

 その魔術が開花した上で、剣術大会での勝負となれば……レオンハルトの方に分があるかもしれない。

 レオンハルトは意気揚々と続けた。

 

「アルノルト!やる気のないお前に提案だ。賭けをしよう」

「賭け?何を?」

「賭けるものは……リーゼロッテ嬢のキスだ!」

「きゃー!!」


 周囲で見ていた女生徒たちがワッと盛り上がった。ただし、アルノルトファンクラブの女性たちは面白くなさそうだ。彼女らはリーゼロッテを目の敵にしている。

 

 リーゼロッテは、賭けの対象が自分になるとは思いもしなかったので、仰天した。

 これに対し、アルノルトは大変冷たい声で一蹴した。

 

「何故俺が婚約者のキスを賭けなければならない。馬鹿馬鹿しい」

「何だ?愛しの婚約者の前で無様に負けるのが怖いのか?」

「お前なんかに負けない。リーゼはお前にキスしたりしない」

「じゃあ賭けが成立だな!」

「おい」


 アルノルトが少し煽りに乗ってしまい、賭けが成立しかかっている。リーゼロッテは頭がクラクラしてきた。しかし隣にいるクラリスは、とても楽しそうに言った。


「そーれーなーらー、おまけに、ボクのキスをつけてもいいよ!」

「なっ!!なっ……!!!」


 先程までの勢いはどこへやら。レオンハルトは真っ赤になって固まった。


「な、なんで、お前なんかの……っ!」

「せっかくなんだからつけときなよ、バーカ」

「バカって言った方がバカなんだぞ!」


 クラリスと言い合いをするレオンハルトはとても嬉しそうだ。

 リーゼロッテは察した。レオンハルトは多分、寂しかったのだろう。クラリスは最近、リーゼロッテとアルノルトと一緒に、三人でばかりいるからだ。彼はきっと、クラリスを取られたように感じていたに違いない。

 微笑ましく見守っていると、アルノルトがはっと思いついたように言った。


「待てよ。リーゼのキスってことは……キスしてもらえるってことか?」

「俺はそのつもりで、言ってるけど?」

「わかった。よし、賭けに乗る」

「アル!?」


 急にやる気を出したアルノルトにリーゼロッテが慌てて縋ると、彼は柔らかく微笑んで言った。


「リーゼは照れ屋だから、自分からキスしたりしてくれないだろう?これはチャンスだと思ったんだ」

「そ、そんな。恥ずかしいわ……」

「必ず勝つよ。だから、ご褒美を頂戴?」


 タンザナイトの目を細めて首を傾げられ、思わず降参してしまう。


「わ、わかったわ……。アルが、勝ったら……」

「じゃあ、賭けの内容はこうしよう。俺が勝ったら、俺はリーゼにキスをしてもらう。レオン、お前が勝ったら、お前にクラリスがキスをする」

「!?おっ、おう!俺はそれでも……別に良いけど!?人の婚約者からキスしてもらうのは、ちょっと気が引けるしなあ!?」


 アルノルトは、しれっと賭けの内容を書き換えてしまった。しかし、レオンハルトは明らかに喜んでいる。リーゼロッテも、これには少しホッとしてしまった。


「絶対負けないからな!!」

「俺だって。勝ってリーゼにキスしてもらう」


 二人はやる気になったようだ。おおっと教室は盛り上がっている。

 こうして、きたる剣術大会での決闘が決まったのであった。

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