4-7 担任の正体

 対抗戦の結果は、優勝がアルノルト。優勝チームがアルノルトとレオンハルト、そしてマティスのチームとなった。アルノルトとレオンハルトは途中敗退したが、敵に攻撃を入れた数が圧倒的だったため、総合ポイントが高くついたようだ。


「アル、二冠おめでとう!」

「適当に切り上げたから駄目かと思ったけど、貯金が効いたね」


 アルノルトは少し嬉しそうだ。レオンハルトは悔しそうに言った。


「総合優勝もあとちょっとでアルに勝てたのに……くそー」

「まあまあ、レオンもよく頑張ったじゃん!圧倒的な実力を見せつける形になって、皆びっくりしてるよ?」

「お、おう。まあな?」


 クラリスに慰められて、レオンハルトは顔を赤くしている。相変わらず分かりやすい。


「授賞式に行こう、レオン」

「おう!」


 授賞され、栄誉あるトロフィーを掲げるアルノルトは爽やかな笑顔を浮かべていた。リーゼロッテは嬉しくて、手が痛くなるほど夢中で拍手をしたのだった。



 ♦︎♢♦︎



 今日はアルノルトの部屋で二人になり、お茶をしている。彼は真面目な顔になって切り出した。


「リーゼ。エミリー先生の話をするよ。彼女は隣国……ダール帝国の間諜であったことが、明らかになったそうだ。自白魔術で判明したんだ」

「えっ!?隣国の……?」

「そう。隣国の関与が明らかになったのは、今回が初めてだ。もしかしたら俺の暗殺未遂にも、ダール帝国が関わっているのかもしれない。…………今回は、リーゼが標的になった。多分、俺の婚約者だから狙われたんだ…………。俺の、せいだ」


 アルノルトが目を伏せて辛そうな表情をしたので、リーゼロッテは珍しく大きな声を出した。


「そんなこと言わないで。アルは、何も悪いことしてない!私はアルとずっと一緒にいるって、もう決めてるの。だから何があったって、絶対に貴方の味方よ」

「リーゼ……」


 アルノルトは目を見開いた。タンザナイトの瞳は、暮れかけの空みたいな不思議な色で煌めいている。彼は目を細め、嬉しそうに言った。


「リーゼ……ありがとう。君がいてくれるから、俺は自分が狙われてもこうやって前向きに生きていけるんだ」

「それなら嬉しい。私でも、アルの力になれてるかな……?」

「なってるよ。十分」


 アルノルトは柔らかく笑った。出会ったばかりの頃に比べて、こういう表情をすることが格段に増えたと思う。


「でも、エミリー先生が怪しいって、よく分かったね。アルは裏で一生懸命動いてくれていたのに、私ったらヤキモチを妬く始末で……情けないわ……」

「それは良いんだよ。今回は、標的の可能性があるリーゼには言わない方が良いだろうと判断したんだ。それで、レオンと二人で動いていただけだから。先生と二人になることが多くて、リーゼには辛い思いをさせたね」

「ううん、もう良いの」


 アルノルトは眉を下げ、思案げな顔になって言った。


「今回……リーゼが標的になって。もしかしたら君を失うかもしれないと思ったら……正直俺は、ずっと怖かった。自分が狙われるよりもずっと怖かった……りだから、守れて良かった……」

「ありがとう、アル……」


 アルノルトはリーゼロッテの頬に、するりと手を這わせた。触れられた部分が熱い。彼に触れられると、身体中の細胞がさわさわと喜びだす感じがするのだ。


「ねえ、リーゼ。愛してるよ」


 そう言ったアルノルトの声は、まるで蜂蜜を溶かしたみたいに甘かった。

 彼の顔が不意に近づいてきたのを感じたので、リーゼロッテは目を瞑った。二人は、甘い甘いキスをしたのだった。

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刺客の令嬢になる予定でしたが、標的に溺愛されています。 かわい澄香 @kawaiwai

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