第四章

4-1 二度目の春

「とうとう二年生だね、リーちゃん!」

「うん。時が経つのは早いね」


 リーゼロッテたちは、学園の二年生に進級した。


「またリーゼと同じクラスになれて嬉しいよ」


 アルノルトが甘く笑ってリーゼロッテの髪をとかす。リーゼロッテは赤面しながらも頷いた。


「お二人さん、仲が良いのはいいけど、私たちのことも忘れないでね!」

「そうだぜ。今年から俺たちも同じクラスなんだからさ。まあ、宜しくな」


 そう言ったのはクラリスとレオンハルトだ。勉強をこまめに教えていた甲斐があって、クラリスとレオンハルトの成績は順調に上がり、成績上位クラスに上がることができたのだ。今年からは二人ともクラスメイトである。


「クラスが変わっても一緒なんて、私たち運命かもね♪レオン〜」

「なっ!!おまっっ!!そ、そーゆーこと軽々しく言うんじゃねえっ」


 クラリスに揶揄われて、レオンハルトは顔を真っ赤にしている。二人の関係性も相変わらずだ。つかず離れずという感じである。

 レオンハルトからは、明らかに好意が滲んでいるのだが、クラリスの本心がよく分からない。二人でいる時にリーゼロッテが尋ねてみても、はぐらかされるのだった。謎多き女、クラリスなのである。


「リーゼ、今日は時間があるんだ。放課後、うちに来ない?」

「本当?行くわ」


 言ってから、その時のことを想像して少しだけ赤面してしまう。二人でお茶するということは、『秘密の触れ合い』があるということだ。

 文化祭以降、二人は時間を見つけては、触れ合うようになっていた。といっても、「歯止めが効かなくなるから」とアルノルトが言い、服を脱がせずに触るという暗黙のルールは徹底されているのだが。

 それでも甘く、激しい睦み合いであることには変わりないので、恥ずかしがり屋のリーゼロッテは思わず赤面してしまったのである。


「リーちゃん、また赤くなってる。可愛いなぁ〜」

「クラリス。お前はもう少し、赤面したりさ、可愛げを持てよ」

「余計なお世話だよっ!レオン!!」


 クラリスとレオンハルトが言い合っている。仲の良い証拠だ。

 と、そこでレオンハルトが、ふと思い出したという風に、ぽんと手を叩いて言った。


「そうだ!今回の担任、新任の先生らしいぜ!」

「へえ。新人か?」

「いや、他の学園から転任してきたらしい。なんか、すっっげー美人だって、男子が騒いでた。傾国レベルだって噂だぜ。ちょっと、見るの楽しみじゃねえ?」

「いや、俺はリーゼ以外、興味ないから」

「相変わらず面白味のねえやつだな、お前は!」


 レオンハルトとアルノルトは、そんな会話をした。リーゼロッテは思いを馳せる。新しい先生……一体どんな先生なんだろう。アルノルトは今はこう言っているが、そんなに美人だというなら、出会った時に少しくらりとしたりするのかもしれない。

 なんだかそこはかとなく心配な気持ちになってきて、リーゼロッテはアルノルトの袖を少し引っ張った。


「アル…………」

「リーゼ?……もしかして、今のでもうヤキモチ妬いたのか?本当に可愛いな…………」

「ち、違うわ。ちょっと、ちょっとだけ不安になったの」

「大丈夫だよ。俺は本当にリーゼ以外、同じに見えるから」

「アル……」


 アルノルトは目を細めた。タンザナイトの瞳は、相変わらず暮れかけの空みたいな不思議な青をしていて、綺麗だ。リーゼロッテはほうっと見惚れてしまう。


「リーゼロッテ以外同じに見えるって、もはや病気じゃねえ?」

「アルくんの溺愛に耐えられるのは、リーちゃんだけだよね」

「お互いにベタ惚れだからな。ああ、俺も恋人欲しいなあ〜」


 クラリスとレオンハルトがやや呆れた声で会話しているのも、二人の耳には入っていなかった。教室のど真ん中だというのに、すっかり二人の世界に入ってしまっていたのである。

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