3-3 逃げて密着

 忙しい接客を終えて、リーゼロッテは休憩時間になった。同じ時間に休憩が重なっているはずのアルノルトの姿を探すが、見当たらない。


 ――できれば、一緒に回りたかったけど……。


 リーゼロッテはしゅんとしながら、自分の教室から出て歩き出した。アルノルトと一緒に見られると思っていたので、展示など何を見ても味気ない。


 しかし、しばらく進んだところで突然手をぎゅっと握られ、引っ張られた。


「リーゼ!探した!」

「アル!」


 アルノルトは、ゼェゼェ言いながら走り続けている。衣服も随分乱れているようだ。リーゼロッテは必死に彼についていきながら、尋ねた。


「どうして逃げてるの?」

「追い剥ぎ…………ファンに、追われてるんだ。もう、しつこくてしつこくて…………!!」


 後ろを振り返れば、女子の集団が奇声を上げながら駆けてくるのが見えた。少し恐怖を感じる絵面だ。

 二人は人気のない教室に入り込んだ。衣装部屋になっていて、クローゼットがいっぱい置いてある。


「アルノルト様、どこ〜!?」

「ねえ、この教室に入ったんじゃない?」


 外から声が聞こえる。アルノルトは一つ舌打ちをしてから、手近にあったクローゼットを開けて、中にリーゼロッテを引き込んだ。リーゼロッテはバランスが取れず、もつれ込むように中に入った。アルノルトがクローゼットの扉をバタンと閉めた途端、教室のドアがガラガラと開けられる音がした。


「居ないよ〜?」

「あれ、見間違いかなあ」


 女の子たちが、うろついている音がする。でもそれ以上にリーゼロッテは、今の状況にドキドキしていた。


 ――こ、この体勢、なんか、なんか……えっちじゃない…………!?


 狭いクローゼットにもつれ込んだ二人の、胸と胸はぴったりとくっついている。入りきらないアルノルトの長い足は折り曲げられているのだが、その足がリーゼロッテの短いスカートの中の――――ペチコートの真ん中、股の間のところを、ぐっと押し上げていた。アルノルトが体勢を何とかしようと身じろぎするたびに、胸と股に振動と刺激が来て、変な声を出しそうになってしまう。二人の顔と顔はほとんどくっついていて、いまにもキスしてしまいそうだ。

 リーゼロッテは心臓が飛び出しそうなほどドクドク鳴るのを感じながら、女の子たちが立ち去るのを必死に待っていた。


 だが、女の子たちがもう少しで立ち去ろうという時、リーゼロッテの脳裏に――――先ほどのレオンハルトの言葉が響いた。


『ほら、面白くないんじゃん。ちょっとくっついて、刺激してやれよ。』


 確かにリーゼロッテは、ここまでボロボロになるほどアルノルトを追いかける女の子たちに怒りを覚えていたし――――彼女たちから、リーゼロッテをまるで隠すみたいにするアルノルトにも、ほんの少しだけ腹が立っていた。

 だからなのだろうか。自分でもよく分からないが、大胆な行動に出てしまったのである。リーゼロッテはアルノルトの首に手を回し、なんと、ちゅっとキスをした。


「リー…………!!」


 アルノルトが叫びそうになるので、必死にその口を塞ぐ。しばらく呆然としていたアルノルトだったが、急に火がついたように力を入れて、リーゼロッテの口内を貪り始めた。しかも、足をわざとぐっぐっと動かして、リーゼロッテの股の間を刺激してくるのだ。


「ふっ…………ンぅ………………」


 自分でも聞いたことのないような甘ったるい吐息が漏れそうになるが、それごと喰らいつくされる。すぐそばに、人がいるのに。こんな――……。それにすら、多分興奮してしまっていた。


「ねえ、今なんか変な音しなかったぁ?」

「え、わかんない〜」


 女の子たちがそんなことを言ったので、リーゼロッテはびくりと震えてしまった。だがアルノルトは、まるでそれを咎めるように、舌をじゅっと吸って、リーゼロッテの胸に手を這わせてきた。


「っぁん………………っ」


 抑えきれない声が漏れてしまう。どうか気付かれませんようにと必死に祈りながら、リーゼロッテはアルノルトの激しい愛撫を享受していた。胸を這っていた手は、段々と大胆な動きになっていく。


「ここには居ないみたい」

「行こっか〜」


 女の子たちの声がして、教室のドアがガラガラと閉められる音がした。その音を聞いた瞬間、リーゼロッテはかくんと腰が抜けてしまった。


「っんぁ………………!」

「……っ!リーゼ」


 アルノルトが暗闇の中で焦った声を出し、クローゼットの扉を開ける。

 明るいところに出たリーゼロッテの顔は、首筋まで真っ赤で、目は潤み、息が荒くなっていた。服も大きく乱れていて、下着が見えそうだ。完全にいけない姿である。


「…………!ごめん。ごめん!俺は、何を…………!」


 アルノルトは真っ青になって謝ったが、リーゼロッテは押し留めた。


「い、いいの。私もちょっと怒って、変なことしちゃった、から……!」

「……リーゼ」

「アルが女の子たちに追われてるの、お、面白く……なくて。私と一緒に回れないのも……寂しくて」

「……ごめんね」

「で、でも…………距離は、近づいた……かな?」


 リーゼロッテが真っ赤になって首を傾げると、アルノルトも頬を真っ赤にしてこくんと頷いた。



 ♦︎♢♦︎

 


 衣服の乱れを直した二人は、少し休んで気持ちを落ち着けてから、気を取り直して文化祭を回った。クラリスたちのお化け屋敷にも行ったが、リーゼロッテはホラー系が全然怖くないので、そこでくっ付いたりするイベントは特に発生しなかった。

 

 だが、ルートを回り終わった二人に、レオンハルトがにやにやしながら「どうだった?」と言ったのに対し――――アルノルトが赤くなりながら「柔らかかった…………」と言ったので、リーゼロッテも一緒に赤くなってしまったのだった。

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