3-2 やってきた文化祭

「いらっしゃいませ、ご主人様!」


 文化祭当日がやってきた。リーゼロッテのクラスは皆メイドと執事の衣装を着ている。

 メイド衣装は膝下きっちり十センチ丈、パニエ多めのフリフリデザインだ。結局、手芸部が総出になってやってくれた。上にかけるエプロンも、頭につけるカチューシャも、フリル大きめの甘々デザインである。アルノルトが何だか随分と心配をして、下には一番厚手の黒タイツを履かされた。


「リーゼロッテ様!!そ、その……似合ってます!!」

「?ありがとうございます……」


 知らない男子生徒がもじもじしながらリーゼロッテを褒めてくれたので、笑顔で対応した。なおも何か言おうとする男子生徒の前に、サッとアルノルトが進み出た。


「ご主人様、こちらにご案内します」

「……………………はい」


 アルノルトが圧のある笑顔で案内していき、男子生徒は何故か酷く青ざめている。先ほどからリーゼロッテが接客しようとするたび、こうなのだ。


「アル、私、自分でできるわ」

「リーゼ、君のファンは本気のが多いから、厄介なんだよ。わかって?」

「ファンじゃなくて、お客様よ?」

「「「アルノルト様〜!!」」」


 アルノルトファンクラブの面々が黄色い声を出して呼んでいる。

 今日の彼は、いつにも増して格好良いのだ。シャツにベスト、黒いタイをつけて上から黒のロングテールコートを羽織っている。白銀髪で静かな雰囲気の彼に、衣装は抜群に似合っていた。


「ほら、皆呼んでるよ?」

「うっ。…………リーゼ、くれぐれも注意して。触ってくる輩もいるかもしれない。何かあったらすぐ大声を上げて」

「お客さんも貴族だから、さすがに大丈夫だと思うけど……」

「いや、わからないよ。とにかく、油断しないこと」


 アルノルトは小さく笑って、リーゼロッテの頭をふわりと撫でた。今度はファンクラブとは別のところから、悲鳴が上がる。


「美麗執事と美少女メイドの恋っ…………良いわっ!」

「絵になるわ〜!徹夜して衣装作って良かった…………」

「創作意欲が止まらない!湧き出る〜!!」


 お世話になった手芸部の皆だ。そこにクラスの人気者、マティスが行って賑やかな接客を始めた。


「ご主人様!オムライスはいかが?私が!ケチャップで、文字を書きますわ!」

「マティス、女装…………ぶふっ。に、似合ってるわ」

「結構可愛いよ!でもマティスって意外とゴツいんだね!」

「うふふ。それほどでもないですわ〜!!」


 マティスはウケ狙いで女装をしているのだ。クラス一の陽のオーラがすごい。彼は今日の一番人気を、アルノルトと競う勢いだった。


「私も頑張らないと……!!」


 リーゼロッテは気合を入れ直し、ケチャップで魔法をかけに行ったのだった。



 ♦︎♢♦︎



「リーちゃん、来たよ〜!うわあっ可愛いっ!!」

「お〜、いつもと雰囲気変わるな」


 しばらくして、クラリスとレオンハルトがやって来た。彼らのクラスはお化け屋敷をしているので、クラリスは魔女、レオンハルトはミイラ男の格好をしている。前世のハロウィン的な雰囲気だ。


「来てくれてありがとう。私も後で、お化け屋敷に行くね?」

「ふっふっふ。すんご〜く怖〜いから、アル君と一緒に来た方が良いよ!」

「でもアル、すごい人気じゃないか?ちゃんと休憩取れるのか、あいつ」


 女子生徒に引っ張りだこになっているアルノルトを指し、レオンハルトが呆れ声を出した。


「休憩は各自割り当てられてるはずだけど……できたら、一緒に行くね」

「お化けにかこつけて、キャーこわーいってアル君に抱きつくんだよ!」

「そっ、それは、恥ずかしいかも……」

「ふは。リーゼロッテの恥ずかしがるポイント、面白いな」


 レオンハルトが笑っている。だって、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「リーゼロッテもさ。あいつがあんなに女子にキャーキャー言われてると、さすがにちょっとは面白くないだろ?」

「…………仕方ないよ。アルは、もともと人気だもの…………」

「ほら、面白くないんじゃん。ちょっとくっついて、刺激してやれよ。リーゼロッテから行けば、あいつ絶対真っ赤になるからさ」

「そうだよ〜!やっちゃえやっちゃえ!」


 二人に応援され、リーゼロッテは赤くなる両頬を押さえた。


「……ちょっとだけ、頑張ってみようかな」

「その意気だ!」

「頑張れリーちゃん!」


 その後は二人のオーダーを聞いてオムライスを出し、リーゼロッテがケチャップでハートを描いた。


「オムライスまで出してるの、本格的だな〜」

「これは、学園の厨房の料理人が作ってくれているの。貴族相手に下手なものは出せないから」

「なるほど」

「リーちゃんあれやってよ!もえもえきゅん♡」

「もえもえ……?」


 一度で聞き取れなかったレオンハルトが疑問符を飛ばしている。リーゼロッテは照れる心を抑えて、友人のために、一肌脱いだ。ハートを手で作ってウインクする。


「もえもえ……きゅん♡」


 げほごほっ!


 少し遠くにいたアルノルトが突然咽せた気がするが、気のせいだろうか?とりあえずクラリスが大喜びしてくれたので、リーゼロッテはほっこりしたのだった。

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