3-5 真犯人の手がかり
「時間の繋ぎ目……!?」
「教室を封鎖して犯人を探しますか?」
「いや、無駄だ。また時間を止めて逃げられるだろう。その残ったお茶は鑑定にかけろ、アルノルト」
「はっ」
「あまりにも極秘事項だ。俺が気づいたことにも、なるべく気づかれたくない。場所を移動するぞ」
ヒソヒソ声で話したフリッツは、またフリーゼの演技に戻って言った。
「私というものがありながら婚約者がいたなんて信じられない!!このクズ男!!」
「!?」
「あんたなんかもう知らない!さようなら!!」
チラとフリッツに見られる。ついてこいということだろう。カップが落ちたことにざわついていた教室は、なんだ痴話喧嘩か、となっている。「アルノルト様が二股してたなんて」という悲しみの声も聞こえるが、仕方がないだろう。
「待ってくれ!フリーゼ!」
アルノルトは残った毒入りのお茶を持ち、演技をしながらフリッツの後を追った。リーゼロッテも後に続いた。
♦︎♢♦︎
結果は黒だった。
カップのお茶からは微量で即死効果のある神経毒が混入されていたのだ。これにはアルノルトもリーゼロッテも驚いた。
「さっきの小芝居でアルの評判がすごく落ちた気がするけど、お茶が零れたことはうまくごまかせたと思うわ……。仕方ないわね」
「それだけの事態だ。こちらが気づいたことに、犯人が気づいていなければ良いんだが……」
リーゼロッテとアルノルトは鑑定結果を見ながら話した。女装を解いて戻ってきたフリッツは、神妙に話し始めた。
「毒が混入される直前……時と時に、不自然な綻びがあるのが少しだけ見えたんだ。ほんの僅かな違和感だから、これまで気づかなかった。僕の記憶を見てご覧、アル」
「はい」
アルノルトがうなずき、フリッツの手に触れた。アルノルトは目を見開いた。
「確かに……よく注意して見るとですが、不自然に、繋ぎ合わされているように見えます……」
「恐らく、お前の命を狙う真犯人は……時の流れを操る魔術を持っている。だからあの場にいる者を全員拘束しようとしても、逃げられてしまっただろう」
これに対し、リーゼロッテは少し考えながら言った。
「でも、時を操るほどの強力な魔術……魔力消費も相当ですよね。止められる時間には、制限があるはず。犯人は、学園の内部にいる人物と考えても良いのでは……?」
これにフリッツは微笑み、頷いた。
「ご名答だ、リーゼロッテ嬢。僕もそう考えているよ。特に、君たちと同じクラスの人間が怪しい。クラス別の試験の時にも、事件はあったからね」
「今までの呪いを仕掛けるのにも、時を止める魔術が使われていたということか。いつ呪いを仕掛けているのか謎でしたが、色々納得できますね……。そして、犯人は、高い確率で学園内にいる。と言うことは……これからも、学園内で俺が狙われる可能性が高いと言うことですね」
「そうだ。できることなら学園の人物に、端からお前の過去視をかけていければ良いんだが……王太子権限でも、それは難しいだろうね。一子相伝の秘密を抱えている者もいる。むやみに人の記憶に対する魔術をかけることは、法律で禁止されているから」
フリッツは腕を組んでため息を吐いた。三人とも考え込んでしまい、重たい空気になっている。時を止めるなどといった反則級の魔術に、一体どうすれば対応できるのか分からないからだ。
「……より一層、身辺に気をつけます。飲食物は口に入れる直前に、再度こっそり毒味の魔法をかけなおします」
「そうしてくれ。今日は間一髪だった。あとは……特に今日のようなイベント時は、警戒を強めた方が良い。学外からも人が入ってきていて、犯人特定が難しくなる隙を狙っているんだと思う」
「前回の剣術大会も、そうでしたからね」
あの時は突然魔獣が現れたように見えたが、あれも時を止めて呪いを発動させたということなのだろう。
「そうなると、次の大きなイベントは二年に上がってからの、魔術対抗戦でしょうか。その後……林間学校もありますし……」
「そこはきっと危ないね。しかも、僕は今年で学園を卒業だ。執務もあるし、恐らくイベントに同伴することもできないだろう」
「フリッツ様は三年ですからね。俺たちでできる対策を、これから考えてみます。例え犯人を捕まえることができても……このままだと時を止めて逃げられるでしょうし、逃げられないようにする工夫が必要でしょうから」
アルノルトが生真面目に言い、全員頷いた。こうして、アルノルトの毒殺未遂事件は静かに幕を閉じたのである。
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