2-6 新しい友達

 レオンハルトとアルノルト、そしてクラリスはすぐに治療を受けた。三人とも小さな傷を沢山負っている状態だったが、あっという間に魔術で治っていく。

 レオンハルトとアルノルトは激しい疲労が溜まっていたので、保健室での安静を命じられた。

 あの規模の魔獣を相手にして、致命傷を負わなかったのは奇跡的だとのこと。これにはリーゼロッテはほっとした。


 レオンハルトとアルノルトは、隣り合うベッドに横になったまま言った。


「今回は引き分けだな」

「ああ」


 邪魔が入ったため、結局二人の勝負はつかなかったのだ。

 だが、アルノルトに付き添っていたリーゼロッテは、勇気を出して言った。


「でも、アルは、頑張ったから……。キスを、あげるわ」


 ちゅ。


 リーゼロッテは寝ているアルノルトの頬に、優しくキスをした。アルノルトはしばらく呆然と固まった後、目元を赤く染めて目を細め、リーゼロッテを見た。


「リーゼ……大好きだよ」

「私も……」


 二人の間に甘い空気が流れる。そして果敢にもそれに乗っかった者がいた。

 

「それなら、レオンも頑張ったよね!」


 ちゅ。


 比較的軽傷で起き上がっていたクラリスは、油断しきったレオンハルトの頬に思い切りキスをした。レオンハルトはしばらく固まった後、茹蛸のように真っ赤になって奇声を発した。


「はあああ!?かかか、勝ったわけでもないのに!なんなな、何するんだお前っ!!」

「照れなくても良いのに〜」

「て、照れてねえ!!」


 そうやって大声を上げていると、保健室の先生がやってきて無言の圧をかけていった。他にも負傷者がいるのだ。静かにしないといけない。レオンハルトは黙り込み、頭から布団を被ってしばらくブルブルと震えていた。クラリスは罪な女である。

 

 しばらく時間が経ち、ようやく落ち着いた後、レオンハルトが不意に言った。

 

「なあ、前から疑問に思ってたんだけどさ。アルノルト、お前……もしかして、命を狙われてるのか?」

「!」

「前に、魔術暴走の事件があったろ。それに今回のことは、明らかにお前が疲弊したタイミングが狙われてた……。『呪い』なんてものが使われてるんだろ?その……大丈夫なのかよ?」

「何だ?……心配してくれてるのか?」

「そうだよ。お前はその……俺が認めた男だ。だから、お前の命を守るのに協力してやっても良いと思ってる……」

「……!」


 アルノルトは驚いたようだ。少し考え込み、それから言った。


「……思い返してみれば、お前も最初から変わっていた。遠巻きにされている俺に、いつも真っ直ぐ俺に挑みかかってきたのはお前だけだ」

「お……おう」

「お前の剣術と魔術はすごかった。……。改めて、俺のライバルになって欲しい」

「それはもちろん!」


 レオンハルトは起き上がり、良い笑顔で言った。アルノルトは言葉を続ける。

 

「実はリーゼとクラリスは、俺の命が狙われた時にサポートする約束をしてくれているんだ。それで最近、三人一緒にいることが多くなっていた」

「そうだったのか!」

「ああ。もしお前も協力してくれると言うなら……心強い」


 アルノルトはむくりと起き上がって、まっすぐにレオンハルトを見ていた。レオンハルトもアルノルトをまっすぐ見た後、太陽みたいに笑って言った。


「当たり前だ!。俺たち、もう友達だろ!」

 

 こうして、アルノルト陣営に小説のヒーロー、レオンハルトが加入したのである。



 ♦︎♢♦︎



 翌日、アルノルトとリーゼロッテは王太子フリッツのところに来ていた。


「今回も大変だったね、アルノルト。助けに入れなくてすまなかった」

「いえ。御身の安全が第一なので、当然のことです」

「しかし、【真実の瞳】で『呪い』の痕を見つけられたのは重畳だ。これで術者を特定できれば良いんだが……残念ながらこれは、我が国に資料のある『呪い』ではなかったんだ」

「つまり、この件は他国が関与していると……?」

「そうだ」


 フリッツは重々しく頷いた。事態は深刻である。


「それに、呪いを使うのには身体に大きな負荷がかかる。一人が生涯に習得できる呪いの数は、一つが限界だと言われている。つまり、アルノルト……お前を狙っているのは、複数犯だということだ」

「前回の呪いと、明らかに種類が違いましたからね……」

「敵もどんどん手段を選ばなくなってきている。派手な方法以外でも、暗殺されないよう注意してくれ」

「はい」


 リーゼロッテは不安になり、アルノルトの手をぎゅっと握った。アルノルトもそれに気づき、ぎゅっと握り返してくれる。


「大丈夫です。リーゼもいるし……頼りになる仲間も、増えましたから」

「人が苦手だったお前の交友関係が広がっているのは、喜ばしいよ」


 フリッツが指を立てていった。


「それともう一つ。俺は、敵のうち少なくとも一人は……学園関係者だと思っている」

「!」

「魔術暴走事故、魔獣の出現。どちらも学園で起こった。学園内に他国への内通者がいて、お前に接近しているのだろうと見ている」

「なるほど……確かにそうですね」

「公爵邸は守りが堅牢だから、学園にいる間が狙われやすいと言うのもあるんだろう。だから学園で過ごす間、特に……行事などの隙ができやすい時は、注意してくれ。次の大きな行事は……文化祭だね」


 リーゼロッテは気合を入れ、控えめながらはっきりと言った。


「学校ならば、私が四六時中、一緒にいられます……。アルのことは、必ず守ります……!」

「リーゼロッテ嬢、ありがとう。頼りにしているよ」


 フリッツは呪いのことを引き続き調べると言い、その場は解散となったのだった。

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