4-4 魔術対抗戦
学園の一大イベント、魔術対抗戦の日がやってきた。リーゼロッテは飾り付けられた会場を見渡しながら、クラリスと言葉を交わした。
「わあ。去年も思ったけど、大規模ね」
「騎士団とか冒険者ギルドのスカウトも、わんさか来てるからねえ〜!それに、一年生と三年生は観戦客として盛り上がってるし。誰が一番になるか、賭けもやられてるみたいだよ!一番人気は、アル君!そして何と、二番人気はボク、クラリスです!」
「クラリス、すごいわ!」
リーゼロッテはにこにこ笑って拍手をした。クラリスはふんぞり返っており、レオンハルトが呆れている。
学園は沢山の旗で飾り付けられ、観戦客の沢山詰まったコロシアムには、魔導式の巨大映写機が置かれていた。リアルタイムで戦いがスクリーンに映し出される仕組みなのだ。
「そろそろ組み分けの結果が貼り出されるね」
「リーゼ、一緒に見に行こう」
「うん」
アルノルトと一緒に前方へ向かう。
組み分けされるグループは三人組だ。ルールは簡単。一番敵に多く攻撃を入れ、長く生き残った者が勝者である。
フィールドは、学園の裏の森。フィールド上でのみ効力を発揮するバリアに、選手は全員守られている。これのお陰で、実際に怪我を負うことはない。ただし、受けた攻撃の数はしっかりとカウントされるのだ。魔法でも剣でも、何らかの攻撃を三度以上入れられたら、そこで敗退となる。リタイア者が出ると、協力できるグループの人数が減っていくのだ。
ちなみにこのバリアの仕組みは、国家機密らしい。教師であるリーゼロッテの母が、自慢げに語っていた。
敵に攻撃を入れた数字はカウントされ、常に選手の頭の上に、魔法で表示される。入れた攻撃の数と、生き残った時間の長さで総合的にスコアがつけられ、それにより成績が付けられる仕組みだ。例えば隠密に特化した能力を持つ者なら、敵と戦わずに逃げ続けて、生き残り時間にだけ注力する――――なんていう戦略もありなのだ。
個人優勝者と優勝グループは表彰され、代々のトロフィーを受け継ぐ仕組みである。このトロフィーを授与されることは、貴族の中でも大変重要視されているもので、生涯の大きな功績となる。
「あ!リーちゃん、一緒のグループだよ!」
「本当だ。嬉しい!宜しくね、クラリス」
リーゼロッテはクラリスと一緒のグループだった。文化祭で仲良くなった、手芸クラブのエミリーとも同じグループだ。
しかし組み分けを見ている人々が、何だかざわついている。表をよく見て、リーゼロッテにもその原因が分かった。
「アル、レオンと同じグループなのね。あともう一人は……同じクラスのマティスかぁ。彼も、確か結構、強かったと思う」
「そこだけ、戦力集中しすぎじゃない?狡いぞ!狡いぞ!!」
「くじ引きなんだから、仕方ないだろう。リーゼとは、分かれてしまったね」
「うん。アルに負けないよう、全力を尽くすわ」
リーゼロッテとアルノルトは握手をした。横にいるレオンハルトは、肩を落としてがっかりしている。
「せっかくアルと、白黒はっきり勝負が付けられるチャンスだと思ってたのに!同じグループなら、ダメじゃん……!!」
「俺はお前と一緒で、心強いけどな」
「ま…………まあな!!俺、強いし!?グループ総合の成績もあるから、優勝目指そうぜ!勿論、個人優勝は譲んねーぞ!!」
そんなわけで、組み分けは決まった。少しの打ち合わせ時間を置き、対抗戦の開始である。
♦︎♢♦︎
「リーちゃん!右から来るよ!!」
「了解!!」
瞬時に無の空間を生み出し、相手の攻撃を全て飲み込む。その隙にクラリスが相手の一人に突撃し、剣で二撃を一気に入れた。
「ぐあああ!!」
怪我は負わないが痛みはあるので、相手は叫び声を上げている。
「私も行きます!!」
エミリーが魔法で風の刃を沢山出した。相手に最後の一撃が入る。他のメンバーにも、次々と攻撃が入っていく。
「これで最後…………!!」
リーゼロッテは少し時間をかけて空間同士を繋ぎ、手だけを出して、魔法で氷柱をいくつか繰り出した。
「痛い痛い!痛いいいい!!!」
相手にダダダッと連続ヒットし、敵は全員リタイアとなった。
「やった〜!!」
「すごいわ!!」
「ふふん!!美少女チームの勝ちですわ!!」
三人で喜び合う。エミリーも勝ち誇った顔をしていた。
「つ、強すぎだろ……!!」
「クラリス嬢がいるだけでも強いのに。リーゼロッテ嬢まで、あんな特異魔法を持ってるなんて……」
「か弱そうな女子のグループだと思って、戦いを挑んだ俺たちが馬鹿だった……」
相手のグループは、ぶつくさ文句を言いながら去っていった。こちらは、エミリーが1つ攻撃を食らっただけだ。ほぼ完全勝利である。
対抗戦が始まり、リーゼロッテのグループはかなりの無双をしていた。
「すごいよ〜!!これなら総合優勝、狙えるんじゃない?」
「この調子で頑張ろう!」
そんな風に、ぴょんぴょん跳ねながら激励し合った時である。クラリスが突然、鋭く叫んだ。
「伏せて!!!」
全員咄嗟に伏せて、防御壁を張る。しかし、信じられないほど――――あまりにも多数の氷柱の攻撃が、リーゼロッテたちを襲ってきた。防御壁にどんどんヒビが入っていき、最後には破られる。そこに突進してきた者がいた。
「逃げてエミリー!!」
「もらったぜ!!」
ダダダッと剣で、素早く連撃を入れられ、エミリーがあっという間に敗退してしまった。慌てて生み出した無の空間に一旦退避したリーゼロッテとクラリスは、少し離れた位置から出て、突然現れた敵を見据える。
アルノルトとの特訓によって【異次元の扉】は実践レベルに到達したが――――――まだ、視認できないほど遠く離れた空間同士を繋げることはできない。敵から完全に逃れることはできないのだ。
圧倒的な強者のオーラを放ってそこに立っているのは、愛しいアルノルトと、友人レオンハルトだった。
二人とも、頭上に表示された攻撃カウントは既に30を超えている。こちらはクラリスでも15、リーゼロッテに至っては7だ。大きな数値はそのまま、彼らの強さを示していた。
「リーゼ、容赦はしないよ」
にやりと不敵な微笑みを浮かべたアルノルトは、まるで作り物のように美しくて――――リーゼロッテは大好きなはずの彼の姿に、ぞくりとした悪寒を覚えざるを得ないのだった。
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