4-5 ヒーローたちの猛攻

「……ありゃ?二人だけ?マティスはどしたの?」

「早々に敗退した。でも俺たち二人で、十分だぜ」


 クラリスの問いかけに不敵に答えたレオンハルトは、真っ直ぐにクラリスに向かってきた。

 一方で青い魔術陣を大量に纏ったアルノルトは、リーゼロッテに向けて炎と風の刃の攻撃を同時に繰り出してくる。リーゼロッテは後ずさりながら無の空間を生み出して、何とか全て飲み込んだ。クラリスのサポートなど、少しもさせてもらえなさそうだ。


「リーゼ!成長したね。これはどう?」


 アルノルトの背後に、百はあろうかという氷柱が浮かび、全てバラバラのでたらめな軌道で、リーゼロッテを襲ってくる。


「くっ…………!」


 無の空間を最大限に広げ、自分の周りに円形に動かして呑み込んでいく。リーゼロッテ自身も身体強化の魔法をかけて逃げたが、最後に隙を見て放たれた一撃だけを食らった。


「っ!!!」

「まだまだいくよ」


 既に今までの戦いで受けた攻撃もあるので、リーゼロッテの残りライフは残りたった一つである。一矢でも報いたい――――そう思い、リーゼロッテは歯を食いしばった。



 ♦︎♢♦︎



「【魔力のいろどり】!!」


 少し離れたところでは、クラリスがレオンハルトの動きを先読みして、攻撃に転じようとしていた。しかし動きを予測した途端、レオンハルトの動きが一段変化する。


「【時のはやて】」


 レオンハルトは動きのギアをのだ。彼の動きは、最大六倍速まで変化する。それは知っているが――――ほんの一瞬で変化するので、上手く対応しきれない。


「ぐっ!!」


 素早い先制攻撃をクラリスは食らった。今まで無傷だったライフが一つ減る。しかしクラリスは体勢を立て直し、素早いカウンターに転じた。


「はあっ!!」


 レオンハルトの足元を薙ぎ払う。彼がジャンプして避けた隙を狙って、中段に素早い突きを入れた。


「はいっ!!」

「ぐっ!!くそっ…………」


 レオンハルトは一撃食らい、ギアを上げながら後ろに下がって、体勢を立て直した。


「お前なぁ、バケモンかよ!」

「それはこっちの台詞!!」


 ――レオンハルトは、強い。以前よりずっと、強くなってる……!!

 クラリスの背筋がぞくぞくとして、口角が一気に上がっていく。強者を前にすると、本能的に――――彼女の体は、歓喜してしまうのだ。


「まだいくぞ!」

「来てみなよ!!」


 レオンハルトが突進してくる。また魔力を見て動きを読むが、ギアを何段階にもでたらめに変化させられる。


 ――無理、読めない!勘で対応するしかない!!


「くっ!!」


 素早く上段から振り下ろされた剣を受けた瞬間、レオンハルトが視認できないほどの速さでそれをいなして、クラリスの腹に一突き入れた。


「ぐあっ!!」


 遅いくる鋭い痛みに耐えながらも、クラリスは舞うように身を翻してレオンハルトへ剣を薙ぎ払う。しかしそれは、刃でしっかりと受け止められた。クラリスはまたそれをいなし、何とか下段に一撃入れようとした。


「そこだ!」


 その瞬間、レオンハルトはギアを一気に上げ、あっという間に魔術陣を描いて発動した。無数の風の刃がクラリスの上に降り注ぐ。


「ぎゃーっ!!」


 防御壁を慌てて展開するが、間に合わない。クラリスは一気に大量の攻撃を受け、敗退となった。


「魔術陣描くスピードまで、速くなるの?チートすぎるよ!!」

「一応、原作ヒーローなんでな、俺!」

「むむむー!!」

「俺のこと、ちょっとは見直したかよ?」


 クラリスはいじけたように下を向いて、ぽつりと言った。


「いっつも、レオンはすごいなって、思ってるよ……」

「あ?何て?」

「ああもう!そういうとこ!だからダメなんだよ、レオンは!!」


 クラリスは大声を出して、ぷんぶんしながら去った。こうしてクラリスは、レオンハルトに完全敗北したのである。



 ♦︎♢♦︎



「くっ…………!!」


 リーゼロッテの周囲で、小爆発が連続して起こる。爆発の中心から時間差で、先の尖った粉塵が次々飛び出してくるのだ。複雑な複合魔法なのだろう。

 攻撃を吸収するのが精一杯で、反撃になど転じられない。大きな無の空間を生み出したり、手だけアルノルトに近づけて魔法を出したりできれば良いのだが――――そんな隙を、全く与えてもらえないのだ。


「リーゼの魔法はすごく脅威だけど、その時間を与えなければ良いことだからね」


 何たってアルノルトは、リーゼロッテの特訓に付き合ってくれていたのだ。師匠のようなものである。だからどの動作に、どのくらいの時間がかかるのかも、全て知られてしまっていた。【異次元への扉】は確かに実用レベルには達したけれど、鬼才アルノルトの相手を単身でできるほどではなかった。


「そこだ」


 アルノルトがダダダダッと氷柱の攻撃を繰り出してくる。リーゼロッテが受けるのに苦労する間に、いつの間にか――――後ろから声がした。


「これで、終わり」


 トン、と優しく何かを当てられる。多分、刃を潰した模擬刀だろう。完全に手加減されたのだ。リーゼロッテのライフは、これでゼロになってしまった。


「うう…………悔しい…………!!」

「これだけ戦えれば、上々だよ。よく頑張ったね、リーゼ」


 優しく微笑まれて、頭を撫でられた。


「一撃入れるとまでは言わないけど、せめて攻撃魔法くらいは出したかったわ…………」

「もう少し早く空間を繋げられれば、まだまだ化けるよ。また一緒に頑張ろう」

「うん…………」


 敵のはずのアルノルトに励まされ、リーゼロッテは非常に悔しい敗退を喫したのであった。

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