第23話 秘密、暴かれる

「小鳥遊君、なんて?」


 スマホを片手に分かりやすく動揺していると、陽菜が声をかけてくる。


「……今俺の家の前にもういるらしい」

「……そ、それって、まずい、ですよね?」


 脛を強打して痛みに動けなかった有彩もようやく痛みから復活(まだ涙目)したらしく、事態を把握したみたいだ。


「ああ、まずいもまずい。緊急事態だ。電話を切ったってことは恐らくもうマンション内にはいる。今から部屋から出てる暇はない」

「ど、どうすれば……!」

「陽菜はいるって言ったし、有彩の存在だけを隠せばなんとか乗り切れる可能性がある」


 その為には。


「有彩。——ちょっと透明になれないか?」

「出来るわけないじゃないですか!?」

「ですよね」


 うん、知ってた。

 落ち着いてる風に話していた俺だが、実は普通にパニックになってます。


「と、とりあえず有彩は自分の部屋に隠れておいてくれ! 絶対に物音を立てるんじゃないぞ!?」

「わ、分かりました! 痛っ!?」


 大慌てで部屋に走っていく有彩がその場で転ける。

 もう、このドジっ子! これ音立てるフラグじゃねえか? 本当に大丈夫か?

 他になにかやらないといけないことは……そうだ、部屋に有彩がいたって痕跡を消さないと!


 そう思って、部屋内を見渡すと、


「とりあえず有彩が使ってたコップとかは片付けておいたよ、りっくん」

「サンキュー陽菜! 愛してるぜ! お前がいてくれてよかった!」

「へ!?」


 なんて出来た幼馴染なんだ!

 俺が最大限の感謝の気持ちを伝えると、ガタンっと大きな音が有彩の部屋から聞こえてきた。あいつなにやってんだ。物音立てんなって言ったばっかだぞ。

 

 陽菜は陽菜で「もうっ、りっくんってば」と凄え嬉しそうにはにかんでるし。

 褒められたのがそんなに嬉しかったのか?


 とか考えていたら、インターフォンの音が鳴り響いた。

 ぶっちゃけ、処刑開始の時間を告げられている気分にしかならねえ。


「なんで自宅でここまで緊張しないといけねえんだよ……」


 ぼやきながら、玄関に行き、深呼吸をしてからドアノブを静かに回して扉を開けた。


「——わっ!」

「おわぁっ!?」


 瞬間、扉の影から飛び出てきた誰かに、俺は数センチほど飛び上がってしまう。

 そんな俺のリアクションに、飛び出てきた誰かこと柏木が、けらけらと笑い声を上げる。


「いいリアクションどうも、理玖君!」

「な、なんで柏木がここに!?」

「実は電話してる時からいたんだけど、柏木さんが驚かせたいって言うから黙ってたんだよ。ごめんね」

「2重の意味でドッキリ大成功ってね!」


 ま、まずいぞ……!

 楽しそうに笑う柏木を前に、俺は冷や汗だらだらだった。


「というわけで、お邪魔してもよろしいか?」

「帰っていただいてもよろしいか?」


 本当に、マジで、切に。

 かと言って、本当に追い返すわけにもいかず、俺はバレないことを願って2人を部屋に招き入れる。


「あれ? 陽菜ちゃんの他に誰か来てるの?」

「は!? な、なんで!?」

「だって、靴が3足あるから」


 柏木の言葉に、俺は慌てて下を向く。

 そこには、俺の靴と陽菜の靴、それに有彩の靴が並んでいた。


 し、しまった! ここまで気が回らなかった!

 ど、どうする……!? 


「あ、ああ! 2足とも陽菜のなんだ!」

「へ? そうなの? でもなんで2足?」

「あいつ、俺の家に予備の靴いくつか置いててさ! 家に置き場がないとかで! なあ、陽菜!」


 俺はリビングの方にいる陽菜に向かって呼びかける。

 すると、陽菜がひょこっと姿を覗かせた。


「う、うん! 実はそうなんだよね!」

「ふーん、そうなんだー?」


 まずいな、柏木の奴、微妙に納得してなさそうだぞ。

 そりゃ苦しい言い訳だったもんな。


「こんにちは、高嶋さん。ごめんね、急にお邪魔して」

「ううん、大丈夫だよー」


 遥は遥で逆になんも言わねえのが怖えんだが。

 普通に疑い持ってる柏木の方が正しいのに、なんだこいつ聖人か? もう結婚してくれ俺と。


「あ、ごめん。理玖君。来て早々なんだけど、ちょっとお手洗い借りてもいい?」

「……別にいいが」

「ありがとー」


 柏木が再度リビングから姿を消す。


「あいつ自由過ぎんだろ」

「そこがなるちゃんのいいところでもあるんだけどね」

「いつでも元気なの、凄いよね」


 三者三様。

 それぞれが柏木についての評価を口にしていると、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。


「理玖君理玖君!」

「なんだ騒々しい」

「お手洗いだと思って開いたら脱衣所だったんだけど、なんか女性用の下着がカゴの中に入ってたよ!?」

「お前は人んちでなにサルベージしてやがんだぁ!」


 柏木の手に握られていたのは白色のブラジャー。

 サイズ的に有彩ので多分洗濯しようと思って置いてたやつだ!

 こいつよりによって最悪なもん見つけてきやがったな!


「き、昨日陽菜がうちに泊まったんだよ!」

「へえ、そうなんだ! やっぱり2人って仲がいいね」

「はは……ま、まあな」

「え? けど、陽菜ちゃんが付けるにはちょっと小さ過ぎるような?」


 ——ガタッ! ガタガタンッ!


「え、なに!? 今のなんの音!?」

「き、気にするな! ただの風だきっと!」


 さては有彩の奴聞き耳立ててダメージ負ったな!?

 あいつ胸大きくないの気にしてるっぽいし!

 

 って、それより陽菜のという嘘が通じなくなった今、俺はどうやってこの場を乗り切れば……そうだ!


「すまん! やっぱり俺のだ!」

「やっぱり!? なに言ってるの、理玖!?」

「遥。俺が最近学校でなんて呼ばれてるか、知ってるか」

「え!? あの女装趣味ガチ勢って本当だったの!?」

「ああ! それは俺が買ったブラジャーだ!」

「そんなに力強く胸張られても困るよ!? 僕、これから理玖にどういう顔して接すればいいの!?」


 秘密を守り通す為なら、俺は友情にヒビを入れてでもど変態の道を歩もう……!


「いやー理玖君にそんな趣味があったなんてねー」

「あ、ああ。実はそうだったんだ」

「——なんてね! そこだ!」


 柏木が止まった状態から急加速して、有彩の部屋の扉に向かう。

 そして、早過ぎて止める間もなく、俺の目の前で扉が開け放たれてしまい——。


「きゃっ!?」


 急に開け放たれた扉に有彩が驚きの声を上げた。

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