第25話 体育の授業にて
来週にはゴールデンウィークが迫った、とある日。
俺たちは体育の授業で体育館にいた。
今日の種目は男女ともにバスケ。
体育館を半分に区切り、男女で別れて試合をするということになっていた。
「桐島さん。フォーメーションはどうする?」
「もちろん
「「「シャアッ!」」」
和仁の号令に、俺以外のメンツが雄々しい雄叫びを上げる。
カッコつけたフォーメーション名ではあるが、AIKとは『アンチイケメン彼女持ち』の略で、その名の通り、イケメンと彼女持ちを徹底的に潰すというカスの極地のような作戦だ。
ちなみに別バージョンで
これは『あいついけ好かないメーン』の略で、イケメンでもないのになんかモテてるとにかくいけ好かない奴に対して発令される。なんでちょっとラッパー風なのかは俺にも分からない。
ひとまず、今から始まる試合に備えていると陽菜が近づいてきた。
「頑張ってね、りっくん」
「ああ、サンキュ。そっちはまだなのか?」
「あたしたちはこの次だから、りっくんたちの試合見てからになるかな」
既に始まっている女子の試合では、柏木が攻めに守りに大活躍しているところだった。動きが激し過ぎてもうコート上に柏木が何人もいるような錯覚すらしてしまう。
と、女子の試合をぼんやりと見ていると、こっちを見ている有彩と目が合った。
有彩はなにか迷うような素振りを見せ、口をぱくぱくとして、両手の胸の前で控えめに握る。
読唇術なんて使えるわけじゃないが、有彩は多分『頑張ってください』って言ったんだろうなってことがなんとなく分かった。
俺は返事の代わりに軽く頷くことでその激励に応える。
「桐島さーん。味方に1名女子に応援されている不届者がいまーす」
「やっちゃっていいっすよね?」
「待てお前ら。頭を使え。こういうのは試合中の事故に見せかけてさりげなくラフプレーすればいいんだよ。そうすれば合法だ」
「「「さすが桐島さんだぜぇ!」」」
合法でもなんでもねえよ。聞こえてんだよクズどもが。
とはいえ、このままだと味方からラフプレーを受けるとかいうわけ分からん状況になりかねん。
……やれやれ、仕方ない。
「なあ、お前ら」
「「「「ああん?」」」」
「陽菜がお前らも応援してくれるってさ」
「「「「マジで!?」」」」
「へ? あ、うん。頑張ってね、皆」
「「「「シャァァァァァッ!」」」」
体育館中に響く野郎どもの咆哮。
その様子はまるでインターハイ出場でも決まったのかと錯覚してしまうほどだ。
よし、これで試合の準備は整った。
「頑張ってね、理玖」
「おう」
前の試合が終わり、俺は遥と入れ替わるようにしてコートに入る。
相手のクラスはバスケ部が多い。これは苦戦しそうだ。
そんなこんなで試合が始まった。
「お前ら分かってるな! 運動部の野郎どもが活躍して女子の声援を浴びることだけは断じて許すんじゃねえぞ!」
「「「おう!」」」
理由はともかくとして、和仁の号令で1つになったチームメイトが全力で動き始める。
まあ、相手はバスケ部ばかりとはいえ、身体能力はこっちも引けを取ってない。
十分いい勝負が期待出来るだろう。
「理玖!」
和仁からいいパスが飛んでくる。
「ナイスパス!」
ディフェンスが構えるが、俺は全力のドリブルを仕掛けて、お構いなしにスピードで無理矢理引きちぎり、そのままレイアップをゴールに沈める。
「りっくんナイッシュー!」
はしゃいでる陽菜の声に、そっちを見れば、飛び跳ねて応援してくれていた。
そのせいで、陽菜の胸部が揺れに揺れている。
……うん。もうちょっと自分の身体と格好を考えて行動しようか。体操服薄着だから余計に目立つんだよ。
そうこうしていると、やけにあっさりと和仁が抜かれ、得点を決められてしまう。
お前絶対陽菜の胸に気を取られてただろ。
「クッソ……! おい、理玖! あいつらバスケ部ってだけあって結構やるぞ!」
「お前がやらな過ぎるだけだバカ」
さも苦戦してる風を装うな。
ってかチームメイト全員誰1人ボールを見ずに陽菜の方見てるから誰も拾いに行きやしねえ。揃いも揃ってバカばっかか。
誰も頼りにならないので、俺は仕方なくボールを1人で運んでいく。
「りっくーん! いけー! そこ!」
陽菜からの声援を受け、隙を探るも、さすが相手は本職。
今度はそう簡単には抜けそうになく、苦戦していると。
「——貰ったァ!」
ボールをスティールされてしまった。
……和仁に。
「お前なにやってんだ!? 味方だろうが!」
「うるせえ! てめえなんざ敵だ! 女子からの応援受けやがって! これ以上お前ばっかに活躍されてたまるかってんだよ!」
「知らねえよ! 自業自得だろうが!」
胸ぐらを掴み合わんくらいに和仁と言い争っていると、
「——シャァッ! いただき!」
和仁のボールがスティールされた。
……味方に。
「あ!? てめえざけんな! 味方からボールを奪うなんて恥を知れ! この外道が!」
「どの口が言ってんだよ」
数秒前の自分の所業を忘れたか。さすが和仁。なんて記憶力の低さだ。
そこからはもう、泥試合もいいところ。
味方のボールを奪い合い、味方のシュートをブロックし、敵のシュートももちろん止めるというわけの分からない状況に。
……マジでなにやってんだこいつら。
そんなことが数プレイ続いたあと。
「貰ったァ!」
「させるかァ!」
味方が謎の身体能力から繰り出された高さでシュートを叩く。
そのボールはまるでバレーのスパイクのように逆サイドの俺の近くに飛んできて、
「……っ!?」
いつの間にか近くに来ていた有彩と、陽菜の元へと真っ直ぐ飛んでいく。
2人は話していてボールには気が付いていない。
俺は咄嗟に駆け出し、すんでのところでボールを弾き飛ばした。
「あっぶねえな……! 2人とも、大丈夫か?」
振り返って確認すると、なにが起こったのか分からないらしく、呆然と俺を見てくるばかりだった。
「あ、は、はい。ありがとうございます……?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「なら、よかった」
微笑むと、2人はなぜか顔を赤くしてしまう。
……さて、と。
俺は言い争っているチームメイトの元へ向かう。
「お前のせいで橘の野郎の株が上がっちまっただろうが!」
「はぁ!? ざけんな! そもそもてめえが!」
「——おい」
「「ああ? ……ひっ!?」」
「とっとと2人に謝れ」
睨みとドスを利かせると、バカどもは慌てて陽菜たちに頭を下げに行った。
ったく、もし有彩と陽菜がケガしてたらどうするつもりだったんだ。
まあ、これでバカな暴走しなくなるだろ。
問題は、ここからどう勝つかだ。
幸いにも、味方が敵味方関係なしにブロックしまくるお陰で点差はあまり開いてない。……よし。
「おい、和仁。ちょっと耳貸せ」
「なんだよ?」
「実は、ゴールデンウィークに陽菜、有彩、柏木、遥と旅行に行く計画を立ててるんだが、一緒に行かねえか?」
「——オレ、今日だけはお前を親友と呼んでもいい」
「はは、よせよ。気持ち悪い」
マジで。
「で、なにが言いたいか分かるか?」
「てめえら絶対勝つぞォ!」
話が早くて助かる。
その後、俺たちは覚醒した和仁の力もあって、無事に試合に勝利したのだった。
*
あとがきです。
ここまで読んでいただき感謝です!
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