第24話 秘密バレのあとで

「竜胆さん!?」


 扉の向こうから出てきた有彩に、遥が目を大きく見開く。

 ああ、もうダメだちくしょう! 

 ゲームオーバーを悟った俺は頭を抱える。


「やっぱり有彩ちゃんだったかー」

「な、なんで私がいるって分かったんですか?」

「だって明らかに理玖君の様子が変だったから」

「それはそうだけどさ。なるちゃんはどうしているのが有彩だって分かってたの? 口ぶりからして有彩だって確信してたよね」

「んー。匂いかな。理玖君と陽菜ちゃんの匂い以外に有彩ちゃんの匂いがするなーって思って」

「野生児がよぉ!」


 なんなんだ、こいつ! もう超能力だろそれは!

 

「で、なんでここに有彩ちゃんが? なんかその部屋も理玖君んちの部屋って感じじゃないよね?」

「そ、それは……」


 有彩が口ごもり、俺の方を見てくる。

 ただ遊びに来てるだけ、と誤魔化すにはもう遅過ぎるだろう。

 

 俺は諦めて全てを打ち明けることにした。



「なるほど……同棲かー。まさか僕が部屋に来ない内にそんなことになってたなんて……」

「いやーもしかしてだけどわたし、とんでもないことしでかしちゃったかな?」

「そうだよ! 反省しろよお前マジで!」

「てへ! いやーごめんごめん、秘密があったら暴いてみたくなる性分なんだよね」

「迷惑過ぎる性分だな、おい!」


 こいついつか友達いなくなるぞ!

 ……いや、こいつめっちゃ友達多いんだったわ。悔しいが、その心配はなさそうだ。


 それはそれとして、だ。

 俺はそっと頭を下げる。


「……ことがことだから、公には出来ないんだ。ここで見たことは、誰にも言わないって約束してくれ」

「あはは、分かってるよ。うん、秘密は守る」

「わたしもさすがに守るって。信用ないかもだけど」

「ああ、2人とも信用してるぞ」

「あれ? わたしのこともあっさり信じるんだね? 意外だった」

「え? だってお前は確かに余計なこととか結構やらかすけど、人の頼みを無碍に扱ったり人の秘密を吹聴して回るようなことは絶対しねえだろ」


 こいつとは去年から同じクラスで付き合いあるが、悪い噂とか全然聞かねえし。

 友達の多さがこいつがいい奴ってことを物語ってるだろ。


「ん? どうした? そんな呆けた顔して」

「い、いやーちょっと不意打ちのときめき? 的な?」

「はあ?」


 なに言ってんだこいつ。よく分からん。って、痛っ!?


「ちょ、陽菜!? なんで今叩いてきた!? 結構な強さだったぞ!?」

「べっつにー」

「別にってお前な……痛っ!? 有彩までどうした!?」

「べっつにー、ですよ」


 びしん、ばしんと餅つきのように交互に叩かれる俺。

 なんなんだこいつらはよ。

 遥と柏木もやたらと微笑ましい目をしてくるのが尚更わけ分からん。


「って、そうだ。今日の本題これじゃねえだろ」

「あ、そうだったね。ゴールデンウィークの話なんだけど、よかったら竜胆さんも一緒にどうかな」

「え? いいんですか?」

「うん。これを機に仲良くなれたら嬉しいし」


 なにこいつ。光属性過ぎん?


「柏木さんもいいよね?」

「うん、もちろん。わたしも有彩ちゃんと距離縮めたいし」

「あ、ありがとうございます。では、私もご一緒させていただきます」


 有彩が嬉しそうに笑う。

 まあ、そもそも。この場にこうして有彩がいるのに有彩だけ除け者にしてどこに行くか話し合うなんてことするわけないよな。


「で、結局遠出する感じでいいのか?」

「せっかくの連休なんだし、あたしは遠くに行きたいかな」

「有彩はどうだ?」

「私もせっかくなら遠くに行ってみたいですけど……けど、その場合行き先の選択肢が広がり過ぎて決めるのが大変そうですよね」


 そうなんだよな。

 もう1週間後に迫ったゴールデンウィークの予定を今日決めるのでも、遅いくらいなのに、今から遠出する場所を決めるとなると、話をまとめるのが余計に難しくなってしまう。


「ふっふっふっ。それがこのなるちゃんには君たちの悩みを解決する為のとっておきの考えがあるんだよ」

「そうか。遥はどこに行きたい?」

「スルー!? そこは聞いてよ理玖君!」

「いやいや、やけにもったいぶるからトリにしてやろうっていう粋な計らいだろ?」

「……で、本当は?」

「とっとと話せやウゼえなって思ってた」

「酷過ぎない!?」


 目を剥いた柏木だったが、気を取り直すように咳払いをこほんと1つ。


「実は、わたしの親戚が旅館やっててさ。そこに行かない? 景色も綺麗でいいところなんだよ」

「旅館!? いいね、なるちゃん! あたしそこに行きたい! ね、りっくん!」

「そうだな……ちなみに、どこか行きたい所があるって奴はいないか?」


 ぐるりと全員を見回す。


「うん、いないみたいだな。なら、いいんじゃないか? 有彩と陽菜もそれでいいか?」

「うん。僕もそれで大丈夫だよ」

「私もです。となると、旅行ということになるのでしょうか」

「ああ、そうなるな」

「……友達と旅行なんて、初めてなので楽しみです」


 微笑む有彩を見て、俺も軽く口角を上げる。

 

 その後、俺たちはゴールデンウィークの旅行についての細かい部分を詰めていったのだった。


 あ、和仁のこと忘れてたわ。

 あいつどうすっかな……まあ、誘わない方があとで面倒そうだし、誘っておいて懐柔しておくことにしよう。忘れてなければ。


 とにかく、秘密はバレてしまったが、協力してくれる奴が出来たって思えば、なんとなく肩の荷が下りたような気分になった。

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