第28話 新幹線の中にて

 新幹線が揺れるのに合わせて、窓の外の景色が飛ぶように流れ去っていく。

 見える天気は快晴で、正に旅行日和と言っても過言じゃないだろう。


「にしても、いくら親戚とはいえゴールデンウィーク1週間前に決まった予定なのに、よく予定空けといてくれたよな」


 俺は対面の座席をこっち側に回した状態で、真ん中に座る俺から見て右前の窓側に座る柏木に話しかける。


 ちなみに、席順は廊下側から有彩、俺、陽菜。

 対面は廊下側から和仁、遥、柏木の順だ。


「だよね。京都の旅館なんて普通はゴールデンウィーク前にギリギリで予約取れないよ」


 俺の話題に陽菜が乗っかってくる。


「実は皆で行きたいと思って、前々から話はしてあったんだよ。もし無理でもわたし1人でも行くつもりだったし」

「ああ、なるほど」

「では、鳴海さんが計画していた旅行に乗っからせてもらった形になるんですね。ありがとうございます」

「うん。無理を聞いてくれた柏木さんの親戚の人たちにも感謝しないとね」

「ふふん、もっと褒め称えよ」


 うわー分かりやすく調子乗ったな。

 こいつ普通に可愛いからこういうドヤ顔でもサマになるのがちょっとムカつく。

 

 ……にしても、京都か。修学旅行くらいでしか行ったことねえんだよな。

 

「なあ、京都ってどんなものが有名なんだっけか」

「はぁ? なんだよ理玖。んなことも知らねえのか」


 疑問を口にすると、和仁が小馬鹿にするように鼻を軽く鳴らす。


「知ってるわ。ただ色々ありすぎて逆に絞れねえから話聞いて整理したいんだっての。そういうお前は知ってんのかよ」

「当たり前だろ。京都と言えば、そう! 美人が多い!」

「お前が京都に対してどんなイメージを持ってるのかはよく分かった。今すぐ京都府民に頭を垂れて土下座しろ」


 こいつもう急に鏡とかに吸い込まれて消えればいいのに。


「あはは……もう、和仁。他にもたくさんあるでしょ?」

「他……? なるほど、そうか。舞妓さんか!?」

「結局女じゃねえか」


 マジでこいつどうしようもねえな。

 まあ、俺も寺とか和とか抹茶のイメージが強いし、知識自体は和仁といい勝負だろう。

 

 けど、それはなんかムカつくし調べとくか。

 そう思い、スマホを取り出していると、横から袖が控えめにくいくいと引かれた。


「理玖くん、これ食べますか?」


 有彩が俺に有名なきのこ型のお菓子を差し出してくる。


「お、サンキュー。もしかして、有彩もきのこ派なのか?」

「はい。なんとなくこっちの方があっさりしてて食べやすいんですよね」

「ああ、分かる分かる」


 同士を見つけて、上機嫌で箱から1つ摘み、口に放り込んでいると、


「はん。頭がバカなら舌もバカってか? 普通たけのこだろ」

「お前こそ頭が残念なら舌も残念だな。きのこ一択だろ」


 というか、それだと有彩までバカにしてることになるんだが? そこに気付いてないあたり、こいつは本当に残念な奴だ。


「あぁ!? 誰が残念だてめえ! 今日という今日は決着つけてやらぁ!」

「てめえこそ誰がバカだ! 上等だ! 謝るなら今の内だぞ!」

「ちょ、理玖も和仁も落ち着いて! ケンカはダメだよ!」


 一触即発になった俺たちに、遥が仲裁の声を上げる。

 その声を聞きながら、俺たちは同時に鞄の中に手を突っ込んだ。


「「ゲームで勝負だ!」」

「あ、ケンカじゃないんだ……」

「この2人、普通に仲良いよね」

「えっと……これは仲が良いということになるんでしょうか……?」


 さすがの俺たちでも、新幹線の中で殴り合うようなことはしない。

 和仁1人ならともかく、周りの人に迷惑をかけるわけにはいかないしな。

 TPO、大事。


「とりあえず、ゲームならわたしも混ぜてー。あ、ちなみにわたしはたけのこ派だから理玖君の敵ってことで」

「よっしゃ、柏木。あの愚か者に思い知らせてやろうぜ」

「クッ……いくらなんでも2対1は分が悪いな。きのこ派の仲間はいないか!?」

「すみません……私はきのこ派ですし、味方をしてあげたいんですが、そのゲーム機を持っていないので応援させてもらいます」

「私はどちらかと言えばたけのこ派だから。ごめんね、りっくん」


 孤立してしまった。

 いや、俺にはまだ遥がいる。


「遥。俺たち親友だよな」


 期待を込めて遥を見つめる。


「僕はきのこもたけのこも両方好きだよ?」

「……そうか」


 世界中の人間がこの考え方なら世界に戦争は起こらない。ラブアンドピース。


「でも理玖の方のチームに入るね。ゲーム機はあるし」

「やっぱり頼れるのはお前だけだ」


 こいつが女だったら今すぐ告白して振られてるところだ。

 ほんと、なんでこいつ男に産まれてしまったんだろうな……。


 神の最大のミスを嘆いていると、今度は陽菜が俺の袖を引いてくる。


「りっくんりっくん。あたしもお菓子あるよ。いる?」

「……変なのじゃなければ」

「大丈夫、普通のやつだよ。はい、カレー味のチョコ」

「それただのカレールゥじゃねえか」


 こいつ、お菓子とカレールゥのパッケージの違いすら分からなくなったの? いよいよ心配だ。


「違うってば。ほら、パッケージ見てよ」

「はあ? そんなわけ……マジでカレー味のチョコって書いてんな!?」


 こんなのあんの!? ってかどこに売ってあるんだよこれ!?

 正直興味は惹かれるが、俺は誘惑を振り払い、陽菜にパッケージを返す。


 その後、俺たちはゲームと雑談を繰り返して、移動時間を過ごしたのだった。

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