第27話 駅のホームで
今日からゴールデンウィークに入る。
そんな中、俺と陽菜と有彩はこの期間1、2を争うくらい人が集まると言っても過言ではない場所、新幹線の駅のホームにいた。
言わずもがな、今日から始まる旅行に行く為だ。
「俺たちが1番早く着いたみたいだな」
待ち合わせ場所にはまだ誰も来ていない。
さすがに30分前は早過ぎたか。
「そうだね。あ、今の内になんか新幹線の中で食べられるお菓子とか飲み物とか買って来るよ」
「ああ、そうだな。……有彩。頼めるか?」
「はい。分かりました」
「ちょっと! なんであたしが言い出したのに有彩に頼むの!?」
陽菜が肩に両手を乗せて揺さぶってくる。
「だってお前こういう時明らかに地雷臭が凄い謎の味のやつ買ってくるだろ。それも無駄に数買いやがるし。俺たちの誰も食べなくて、結局いつも自分1人で食べることになって体重が、とか言ってるだろ」
「……女子に体重のことを言うなんて、りっくんのデリカシーなし」
「口論で負けそうになったからって女子が絶対に勝てる話題にシフトしようとすんな」
その手には乗らんからな。
「では、行ってきますね」
「俺も一緒に行くか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
むくれる陽菜は置いておいて、買い出しに行く為に人混みの中に消えていく有彩に「気を付けろよー」と声をかけて送り出す。
そのままなんとなく人の流れを眺めていると、その中に見知った顔を見つけた。
遥だ。
まあ、こういう時って待ち合わせ時間より早く来るのは大抵あいつだからな。
待たせるのも悪いから、それに合わせて俺も早く出る癖が付いたってわけだ。
こっちに気が付いた遥は、ぱっと笑顔になり、片手を挙げながら近付いてくる。
相変わらずあいつの周りだけなんか空気がきらきらしてる。空気清浄機でも積んでんの? というか何気に彼女にしてほしい仕草ランキングの中で上位にくるやつ。
「おはよう、理玖。早いね」
「おう。そっちもな」
「小鳥遊君おはよー。旅行中はよろしくねー」
「うん、おはよう。こちらこそ」
俺と中学が一緒だったから、遥も陽菜と結構付き合いが長いからなのか、この2人って結構仲がいいんだよな。
それこそ、その内しれっと付き合い出しましたーって言い出してもおかしくないレベルだと思ってる。
「……なあ、陽菜」
「なぁに?」
「お前になら遥をやってもいい」
「「なんの話!?」」
おっと、脈絡がなさ過ぎたか。
「悪い、気にしないでくれ。色々とアレがアレしただけだから」
「……まあ、理玖がちょっと変なのはいつものことだもんね」
「うん。りっくんって結構そういうところあるから」
なんか2人で結託してディスられたんだが。
「ところで、竜胆さんは?」
「有彩なら今、新幹線の中で食べる用のお菓子とか買いに行ってくれてるぞ」
「そうなんだ。どこのお店か分かれば手伝いに行ってあげられるんだけど」
「あたし、連絡してみようか?」
「いや、多分買い物してて気付かない可能性の方が高いだろ。遥と入れ違い行ったから、そんなに遠くには行ってないと思うぞ」
買い出しでわざわざそんなに離れた所まで行かないはずだしな。
「じゃあちょっと探してみるね。荷物頼んでもいい?」
「手伝いなら俺が行くぞ?」
「ううん、僕に行かせて? 竜胆さんと2人っていう機会も中々ないし、ちゃんと話してみたいから」
そう言い残し、遥が人混みの中に入っていく。
あいついい奴過ぎるだろ、マジで。
再び、なんとなく人混みを眺めていると、
「——わっ!」
「おわっ!?」
「きゃっ!?」
背後からかけられた声に俺と陽菜が同時に驚き、振り返る。
そこには、いたずらが成功して笑う柏木の姿が。……こいつはマジで毎回毎回……!
「やほやほー! お2人さん!」
「お前普通に登場出来ねえのかよ!」
「それじゃ面白くないじゃん。人生にはサプライズが溢れてるくらいがちょうどいいんだって」
「……くそっ。なんかそれっぽいこと言いやがって……!」
ちょっと受け入れかけたが、やっぱり声かけてくる度に毎回驚かしてくるのはどう考えてもおかしいと思う。
「で、2人だけ?」
「有彩と小鳥遊君は買い出しに行ってくれてるよ」
「和仁は知らん」
あいつが時間にルーズなのはいつものことだからな。
多分今回もギリギリに来る。
まあ、多少余裕があるようにしてはあるが、それでも時間ギリギリに来る意味が分からん。
だからモテないんだよ、あいつは。
……いや、時間守っても普段からの行いがカスとゲスとクズの三拍子揃ってるからどうしようもねえや。
そんなこんなありながら、陽菜と柏木と話して時間を潰していると、買い出しに行っていた有彩と遥が戻ってきた。
どうやら無事に合流出来たみたいだな。
「お待たせしました」
「お帰りー、2人とも」
「買い出しありがとな」
袋を見るに、結構買ってきてくれたらしい。
その分のお金は新幹線の中で渡せばいいか。
「よし。とりあえずこれで全員揃ったな」
「しれっと和仁を省かないであげて」
「だってあいつ遅えしさぁ。もう最初から誘ってなかったか、そんな奴いなかったってことにならない?」
「ダメだよ。そんなこと言ったら」
……不服だが、遥が言うなら仕方ねえ。
ったく、あいつ……もう待ち合わせ時間ギリギリだぞ。いくら余裕あるからって、あまり遅くなるならマジで置いていってやる。置いていってもあいつなら執念で追いかけてくるだろうし。
「遥君、一応寝坊の可能性も考えて、和仁君に連絡してあげたら?」
「うん、そうだね」
そんなことしてもスマホのバッテリーの無駄だと思うがなぁ。
遥がスマホを取り出し、和仁に連絡を入れようとしていると、
「——おーい! お前らぁ!」
人混みの中から頭1つ抜けた長身の和仁が近寄ってくる。
「悪い、待たせたな」
「いやマジで遅えよ。なにしてやがった」
「まあ聞け。これには重大な理由があるんだよ」
「なんだよ、それ」
和仁はふっと無駄にニヒルな笑みを浮かべ、
「——超好みの女の子を見つけて思わず尻を追いかけてたら遅れかけた」
「んなことカッコつけて言うな」
うーん、この日本の恥。誰か取り締まってくれ。
「ちなみにストーカーと間違えられて警察を呼ばれそうになった」
取り締まりかけられてた。
さすが、ある意味で期待を裏切らない男だな。
ともあれ、これでメンバーが全員揃ったので、俺たちは新幹線に乗り込んだ。
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