なぜかクラスメイトと幼馴染との同棲生活をすることになってしまった件。

戸来 空朝

第1話 実は俺、同棲しています。

「……なぁ、理玖。なんでオレには彼女が出来ないんだろうな」


 昼休みになった途端、黒髪をワックスで整えた俺より10cmくらい高い180cm近い身長の、細身で筋肉質な大男、悪友の桐島和仁きりしまかずひとが近づいてきて、唐突にぼやいた。

 そんな和仁を一瞥し、俺こと橘理玖たちばなりくはめんどくさいと軽く鼻を鳴らして答える。


「そんなもんお前だからだろ」

「あ? お前の顔は見るに耐えないから前世ぐらいからやり直してこいってか?」

「言ってねえよ。思ってはいたけど」


 お前に色々と含み過ぎだろ。

 あと前世の自分を勝手に巻き込むな。


「はんっ! 自分は勝ち組だから焦りもなく余裕ですってか!」

「はあ? なんで俺が勝ち組なんだよ」


 認めるのは大変癪だが、俺はこいつと同じく彼女いない暦イコール年齢ってやつだ。

 勝ち組呼ばわりされる謂れはない。


「あぁ!? あんな可愛い幼馴染がいるような人間が勝ち組じゃないわけねえだろうがよ! 将来勝ち確約束されてんだろうが!」

「ただ幼馴染がいるってだけで勝ち確になるわけないだろうが」


 ……まあ、にただのと言ってもいいのか微妙なところではあるが。


「そのただの幼馴染がいる人生を世の中のどれほどの男が望んでると思ってんだてめえ!」

「知らねえしうるせえし近えんだよ! 陽菜とはなにもないって言ってんだろうが!」


 いつも通り、和仁といがみ合っていると、


「——あたしがどうかしたの? りっくん」


 背後から、話題に上がった幼馴染の声が聞こえてきた。


「おう、陽菜。飲み物買いに行ってたのか?」

「うん。りっくんのも買っておいたよ」

「お、サンキュー」

「はい。おしるこソーダ」

「いらねえよ! なんだそのゲテモノ!?」


 俺は受け取りかけた手を引っ込めた。

 毎度のことながら、幼馴染のチョイスがおかし過ぎる。というかこんなもの売る方も売る方だ。なんで作ったんだよ。


 このゲテモノドリンクをほんわかとした笑顔で差し出してきている彼女は高嶋陽菜たかしまひな

 

 150cm前半くらいの小柄で、首筋まで隠れる程度のふんわりとした茶髪のセミロングと可愛いらしい顔付きの童顔で、常に愛想よくニコニコとしていて、下に兄妹がいるからか、世話焼き気質で、男女共にから人気がある。


 ついでに、身長の割にスタイルが良く、頑張っている胸部の布地がトレードマークのお隣さんだ。


「えー? 美味しいのにー。好き嫌いは良くないよ?」

「これ俺の好みの問題じゃねえだろ! お前の舌がおかしいんだよ! この味音痴め!」


 その可愛らしい容姿からかなりモテる陽菜ではあるが、実はとてつもない味音痴で料理下手という爆弾を抱えている。


 その腕前は、過去に高嶋家が全員食中毒で全滅したことがあるという折り紙付きだ。


「おいおいオレを無視してイチャつくとはいい度胸だなぁ!」

「いや別にイチャついてないだろ」

「うるせえ! ……なあ、高嶋さん! 今からでもオレが幼馴染ってことにならねえかなぁ!」


 すごいこと言い出したなおい。なるわけねえだろ。

 とんでもない発言に、陽菜も困ったような顔になっていた。


「え、えっと……それはさすがに無理があるかなぁ……」

「クソがァ!」


 和仁がドンッと机を叩く。

 人が悔しがり過ぎて血涙を流すところ初めて見た。


「おのれ橘……許すまじ……!」

「桐島さん! もう殺っちまいましょうぜ!」

「俺もう我慢出来ねえっすよ! 毎度毎度見せつけるようにイチャイチャしやがってよぉ!」


 やばい、殺意に駆られた暴徒が集まってきやがった!

 というか普通に話してるだけなのにこいつらにはイチャついてるように見えるのかよ!


「まだだ! 理玖の隣には高嶋さんがいる! 彼女が離れたら殺るぞ! 各自、獲物の手入れは怠るな!」

「「「おう!」」」


 まずい、いつの間にか復活した和仁が暴徒共の統率を取り始めやがった!

 バールだの金属バットだの、どこから持ってきたか分からん獲物を手入れし始めやがった!


「待て、和仁! 話せば分かる!」

「分かった分かった。まず死ね。話はそれからだ」

「死んだら会話も出来ないと思うんだが!?」


 こいつ死体と会話出来んのかよ!?


「そんなんだからお前はクズひとだのカスひとだのゲスひとだの言われんだよ!」

「はーっはっはぁーっ! 褒め言葉だぜぇ! いい響きだなぁ!」

「「「さすが桐島さんだぜぇ!」」」

「ダメだこのクラスクズしかいねえ!?」


 だからモテないんだぞ!

 くそっ! とにかくこの窮地をどうにかして脱しないと……!


「それになぁ! お前は高嶋さんだけじゃねえ! この高校で1番の美少女と名高い竜胆りんどうさんとも仲が良い! そんなの万死にしか値しねえよなぁ!」

「それもただの嫉妬だろうが! お前らも普通に話に行けよめんどくせえ!」

「「「「話しかけるなんて恐れ多いだろうが! よって死刑!」」」」


 理不尽過ぎる!?

 自分たちから遠ざけておいて仲良くしてるのが羨ましいとか自分勝手にもほどがあるだろ!?


 そんなやり取りをしている間にも、殺意を高めた和仁たちが獲物を手にじりじりと間合いを詰めてくる。

 くそっ……こうなったら!


「陽菜!」

「ん? なぁに? りっくん……きゃっ!?」


 俺は陽菜の肩を掴んで抱き寄せた。

 

「な、なに!? どうしたのりっくん!? 嬉しいけど、そんないきなり……!」


 俺の胸の中で驚いている陽菜の耳元で、俺はささやく。


「——絶対に俺から離れるなよ」

「……! う、うん! えへへー!」


 なぜか俺の言葉に顔を赤くした陽菜がぎゅっと抱きついてきて俺の胸元で陽菜のおっぱいが潰れ!?

 

「クソがぁ! なんて羨ましい!」

「橘の野郎……! 末代まで呪ってやる……! お前が末代だけどなぁ!」

「もう我慢出来ねえよ! 桐島さん! 許可を! あいつに鉄槌を下す許可をォ!」

「まだだ! あの卑怯者の胸の内に人質がいる! 落ち着くんだ!」


 言葉だけ聞いたら完全に俺が悪者!

 多人数で武器持って1人を囲う方がよっぽど卑怯者だろ!

 ともあれ、これでこいつらは俺に手出しが出来ない。この間に移動してしまおう。

 

「あ、ところでりっくん」

「ん? どうした? 見ての通り今俺は命がかかってるから話ならあとで——」

「——あたし、今日お弁当作ってきたんだけど、一緒に……」

「今すぐ俺から離れろこのテロリスト」


 俺は陽菜を引き剥がす。

 弁当!? あの作る料理全てがバイオ兵器の陽菜が!? 俺に!? 冗談だろ!?

 あ! だからこいつ!?

 

「今だてめえら! あのカス野郎を仕留めるぞォ!」

「「「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」」」

「やべっ、しまった!? クッソ上等だこのクズ共! かかってこいやァ!」


 こうして、俺と和仁たちの死闘が幕を開けた。

 クラスメイトたちを蹴散らし、和仁との一騎打ちに持ち込んだあたりで、チャイムが鳴って、それが試合終了の合図となった。


 昼飯食い損ねたじゃねえか。



「あぁ……腹減ったぁ……」


 すっかり昼を食い損ねた上に休み時間の度に暴徒に襲われたせいで飯食う時間が取れなかった俺は、空腹感を覚えたまま帰路に着いていた。

 

 コンビニでも寄って帰るか……? いやでも、晩飯入らなくなったらから怒られそうだし……お。あの後ろ姿は。


「おーい、竜胆」


 前方を歩いていた見知った黒髪ロングの女子の名前を呼ぶと、くるりとこっちを振り返ってきた。

 なぜかちょっと口角が上がって嬉しそうに見える。なんか良いことでもあったのか? まあいいや。


「理玖くん。お疲れ様です」

「おう、お疲れ」


 俺は返事をしつつ、黒髪ロングの少女、竜胆有彩りんどうありさの横に並んだ。

 身長は160cmくらいでどこか眠たげな半眼に黒髪ロングが特徴の彼女こそ、昼に和仁が話していたうちの高校で1番の美少女と呼ばれている女の子。

 陽菜と違ってスレンダーな身体つきだが、それはそれで清楚感に拍車をかけて人気の理由の1つとなっているらしい。


 そんな彼女だが、実はネットで書いていた小説の書籍化が決まっている作家でもある。

 まあ、そのことは俺と陽菜しか知らないことだが。


「竜胆はこれから真っ直ぐ家に帰るのか?」

「いえ、お醤油が切れそうだったので買って帰ろうかと」

「あれ、そうだっけか」


 言われてみれば少なかった気がするな。……よし。


「なら、俺が買って帰るよ。ちょうどコンビニに寄りたかったし」

「え? それなら私も一緒に……」

「いいよ。このくらい任せとけ。それに、一緒に帰ってるの見られると色々とまずいだろ?」

「……そうですね。では、お願い出来ますか?」

「おう。ちなみに今日のメニューは?」

「生姜焼きの予定です」

「お、まじか! いやー竜胆の料理ってマジで美味いから楽しみだ」

「……もうっ。そんなこと言ってもお料理しか出ませんからね? では、私はお先にお部屋に戻ってますね」


 そう言い残し、嬉しそうにはにかんだ竜胆がの方に向かって歩いていくのを見守る。

 さて、そんじゃ……俺も買うもの買ってとっとと帰りますかね。



「ただいまー」


 買うもの買った俺は、自分が住んでいる部屋に戻ってきた。

 リビングの扉を開けつつ、俺が声をかけると、


「おかえりー。りっくん」

「お帰りなさい。理玖くん」


 先に部屋に帰ってきていた陽菜と有彩が俺を出迎えてくれた。


「竜胆、ほら。醤油」

「ありがとうございます。腕によりをかけて作りますね」

「頼んだ。マジでもう空腹が限界」

「いいなー。ねえ、有彩? あたしも料理したいんだけど……」

「「絶対ダメ」」

「もー! 2人揃ってケチ!」


 ケチもなにもあるか。命がいくつあっても足りんわ。

 むくれる陽菜を横目に、俺はソファに深く腰をかけた。


 あー……今日も疲れたー……。ったく、あいつら……毎度毎度、俺が陽菜と幼馴染で竜胆と仲がいいってだけで襲ってきやがって。


 だからこそ、言えるわけがない。

 ——俺、橘理玖と高嶋陽菜と竜胆有彩の3人がこうして一緒の部屋で住んでいる、なんてことは。


 俺たちがどうして一緒に住んでいるのかということを説明すると、話は1週間前に遡ることになる。





***


あとがきです。

この作品は以前投稿していた作品のリメイク版になります!


この作品の投稿に際し、リメイク前は非公開となりますが、パワーアップしたこちらの作品を楽しんでもらえれば幸いです!


カクヨムコンにも参加予定なので、

この作品が面白そう、続きが気になると思っていただけたら、


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