第14話 幼馴染、風呂場に乱入してくる

「はぁー……今日もつっかれたー……」


 今日も今日とて和仁たちとの鬼ごっこを乗り切った日の夜。

 俺は風呂に入って疲れを癒しながら寛いでいた。

 あいつらの嫉妬に狂った暴走には困ったもんだ。


「まあ、教室で陽菜とか竜胆とかと話さないようにすればいいのかもしれねえけどな……」


 あいつらの思い通りにしてやるのは癪だし、俺が嫌だ。


「ったく、ああいうことをやってるから女子から敬遠されるんだっての」


 もっと普段から落ち着いて冷静に行動すればいいんだよ。俺みたいに。

 さて、そろそろ髪とか洗わないとな。竜胆と陽菜があとに控えてるし。


 いつもは風呂の順番を女子たちに譲っている俺だが、今日は2人ともやることがあると俺が先に入ることになった。

 竜胆は執筆だって分かるけど、陽菜は一体なにやってんだろうな。


 ……ん? 今脱衣所の方で音がしたような?


「誰かいるのか?」

「あー、えっと……あたし」

「陽菜か。どうした?」


 タオルでも取りに来たのか?

 なんでもいいが、自分が全裸の状態で薄い壁を挟んだだけの向こう側に女子がいるのはいくら相手が幼馴染でも居心地が悪い。

 

 早く出て行ってほしいが、なんか脱衣所でずっとごそごそやってるな。なにやってんだ?

 怪訝に思っていると、控えめな「……よし」というなにか覚悟を決めたような呟きが聞こえてきた。


「——は、入るから!」

「……ん? は!?」


 今なんて……!? 聞き間違えじゃなければ陽菜の奴、入るって言わなかったか!? どこに!? 洗濯機とか!? そんなわけねえよな!?


 パニックになって動けずにいると、風呂場の扉がゆっくりと開いていき。


 ——バスタオル一枚で身体を覆っただけの陽菜が入ってきた。


「お、おおおおおまっ!? なにやってんだよ!?」


 俺は慌てて後ろを向き、自分の身体を陽菜から隠す。

 しかし、振り向くまでの間に今見たことが鮮烈過ぎて、一瞬の間に網膜に焼き付いてしまった。


 恥じらうように頬を赤くした陽菜に、タオルという頼りない装備だけで隠されたより強調された胸の大きさとか、というか谷間がっつりで、生足が艶かしく太ももとかむっちりとしてた。


 というか、振り返ったところで鏡越しに映ってしまっていて、俺は咄嗟に下を向く。

 くそっ、こいついつの間にこんなに成長して……ってそうじゃねえ!


「なんで入ってきてんだよ!?」

「せ、背中とか流してあげようと思って……」

「はぁ!? いきなりなんでそうなるんだよ!?」


 この状況とか、陽菜の思考とか、全然理解出来ない!

 というか、マジでなんだこの状況! 神様、俺がなにかしましたか!?

 ラブコメの神が微笑むどころか大爆笑しちゃってね!? ああ、もういいから落ち着け俺!


「だ、だって積極的にって話したし!」

「あれは恋愛面に関してだろ!? それがなんでこの行動と結びつくんだよ!」

「そ、それは……ほ、ほら! 予行演習だよ!」

「はぁ!?」


 陽菜が顔を赤くしたまま、目をぐるぐるとさせて叫ぶ。

 こいつ自分でもなに言ってるか分かんなくなってきてんな!?


「いいから背中流したげるって! もうここまで来ちゃったんだし!」

「お前が勝手に入ってきたんだろ!? おいやめろ! 近づいてくんな!」


 下を向いていても、ぴちゃりという足音がこっちに近づいてくるのが分かる。

 くそっ……! 陽菜の奴、こうなると話を聞かねえからな……!


「だーくそっ! どうせなに言っても聞かねえんだろ!? 分かったよ! とっととしてくれ!」


 どうせ、風呂場から出るにも後ろに立ってる陽菜のせいで逃げるに逃げられない。

 そりゃ、押しのけて強引に出ることは出来るが、こんな状態の陽菜に触れるなんて出来るわけがない。

 俺は覚悟を決めてやけくそ気味に叫んだ。


「さ、最初から素直にそう言ってくれればよかったんだよ。あ、あたしが背中流したあとはりっくんにもあたしの背中、流してもらうからね」

「もう勘弁してくれよ!? なんなのお前! さては付き合ったことがない俺を弄んで楽しもうって魂胆だろ!? そうなんだろ!?」

「そ、そんなんじゃないってば! もう、いいからじっとしてて……きゃっ!?」

「……っ!?」


 なんか背中に温かくて暴力的なまでに柔らかい圧倒的質量の2つの塊の感触が!?

 ま、まさか陽菜の奴、足を滑らせて俺に抱きつきやがったのか!? ってことはこの背中の感触は陽菜のおっぱいかありがとうございます!?


「ご、ごめんりっくん! あ、あたしや、やっぱり出るね!?」


 脱兎の如くとは正にこのこと。

 陽菜はあっという間に風呂場から出ていったらしく、慌ただしい足音が遠ざかっていく。


「なんなんだあいつ……」


 俺が空いたままの風呂場の扉を呆然と眺めていると、またドタドタと足音が聞こえてきて、再びバスタオル姿の陽菜が脱衣所に戻ってきた。

 どうやら服を回収し忘れたらしい。

 俺と目が合った陽菜は、顔を更に赤くして、またもの凄い速度で脱衣所から姿を消した。


 その際、ぽろっとなにかをその場に落としていった。

 ……あれ、ブラジャーじゃね?


 うっかり5秒くらい見つめてしまって、悩んだ末、俺は立ち上がり、大きな薄い黄色の下着が見えないように風呂場の扉をそっと閉めることを選んだ。

 その後、俺は風呂から出るのにしばらくの時間がかかってしまったことを伝えておく。

 

 理由の1つは陽菜が下着を回収するの待っていたこと。

 2つ目はすぐに出て陽菜と鉢合わせても気まずくなるから。

 そして3つ目は……まあ、気持ちとか色々と鎮める時間が必要だったからだ。






***


あとがきです。

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