第22話 訪問者と訪れるピンチ

 気付けば、もう4月最後の休日。

 この同棲が始まって、もう1ヶ月近くが経とうとしていた。

 最初はどうなるかと思ったが、ようやく部屋で美少女とすれ違うのが普通というこの状況にも慣れてきた。


 まあ、風呂上がりのいい匂いには未だに慣れる気がしねえけども。

 あと、トイレ行こうとしてトイレの中から陽菜と有彩が出てきた直後とかだいぶ気まずいけども。


「来週からゴールデンウィークだが、陽菜と有彩はなんか予定あるのか?」

「あたしはいつも通り、家族で出かけようかって話が出てるけど、今年はどうしようか考え中ー」

「私は特になにも……。お父さんたちは海外ですし。強いて言うなら小説を書くことですね。理玖くんは?」

「俺もこれと言って特に予定はないな」


 それは毎年のことだけどな。

 たまに陽菜のとこに混ぜてもらってどこかに遠出したりとかはしてたが、毎年お世話になるわけにいかねえし。

 

 けど、俺1人だとなんとなく出かける気にはならなくて、部屋でゆっくりして終わることが大体だ。

 そもそも、ゴールデンウィークなんてどこに行っても人は多いから出かける気にならねえしな。


「今年は有彩もいるし、どこかに出かけるのもいいかもな」


 そう口にした直後。

 ローテーブルの上に置いていた俺のスマホが振動し始めた。

 遥から電話?


「もしもし?」

『もしもし。ごめん、急に電話して』

「大丈夫だ」

『なら、よかった。今、時間は大丈夫?』


 遥からの問いかけに、俺はちらっと陽菜と有彩を見て、唇の前に人差し指を立ててみせた。

 2人共、同時に頷いたので、俺は「いいぞ」と話を続ける。


『えっと、理玖はゴールデンウィークになにか予定ってある?』

「いや、なにも。ちょうどどうしようかって考えてたところだ」

『じゃあさ。一緒にどこかに出かけない?』

「お、いいな」


 遥と出かけるのって、結構久しぶりなんだよな。

 こいつ、基本的に部活で忙しいし、最後に遊んだのって春休みの時くらいだったか?


「ん!?」


 陽菜の奴くしゃみしそうになってなってやがる!?


『へ? な、なに? どうしたの?』

「ああ、いや! なんでもないんだ!」


 堪えてるがあれはもう限界が近いやつだ!

 俺は咄嗟に有彩に部屋の外に連れ出すようにアイコンタクトを送る。


 すると、有彩はこくりと頷き、陽菜の方に向かって動き出す。

 よかった。これでどうにかなりそうだ。

 

 そう思った瞬間、有彩がローテーブルの角で脛を強打して、派手に音を立ててすっ転んだ。

 

「——くちゅんっ!」


 そうしてその瞬間、炸裂する陽菜のくしゃみ。

 なにやってんだあいつらァ!?


『え、な、なに!? なんかもの凄い音がしたと思ったら明らかに女の子のくしゃみが聞こえてきたんだけど!? 理玖!? 大丈夫!?』

「き、気にするな! 急にちょっと派手な音を立てて女子がくしゃみをするようなシーンがテレビから流れてきただけだから!」

『なにそのピンポイントなワンシーン!? そんなわけないよね!?』


 くそっ! 和仁ならこれで誤魔化せるというのに……!


『あ、もしかして高嶋さんがいるの?』

「あ、ああ。実はそうなんだよ」


 しくじった。

 陽菜が俺の部屋にいるのはなにも不自然じゃないんだし、遥の言う通り、最初から陽菜が遊びに来てるってことにしておけばよかった。

 同棲してることを隠さないといけないせいで、ついその点を失念していたわ。


『ううん。高嶋さんもいるならちょうどよかったよ』

「ちょうどよかったってなにが?」

『ゴールデンウィークの予定。高嶋さんも誘う予定だったから』

 

 あーなるほど。

 でも、陽菜の奴、家族で出かけるか迷ってるって言ってたよな。


「陽菜ー。なんか遥がゴールデンウィークどこかに出かけないかって言ってるんだが、お前どうする?」

「え、行く。家族の方は大丈夫だから」

「だ、そうだ。予定は改めて今度決めるってことでいいか?」


 電話で長話して決めるような話じゃないだろうしな。

 

『えっと、実はね。今、理玖の家の前にいるんだ』

「そうなのか? なら——待て、今なんて?」

『え? だから、もう理玖の家の前にいるって』

「……マジ?」

『うん。もうマンションが目の前にあるよ? どうしたの?』


 俺は無言ですぃーっと息を吸い込んだ。


「悪い遥。今、俺の家ではインフルエンザが流行っててとても人を呼べる状況じゃないんだ」

『そんな局地的なインフルエンザないでしょ!? というか高嶋さんが遊びに来てるんだよね!?』

「部屋が散らかっててとても人に見せられるような状況じゃないんだ」

『だから高嶋さんが来てるんだよね!?』

「本当は大人のDVDとお宝本を部屋中に並べてお楽しみ中なんだ!」

『それは本当になにやってるのさ!? 理玖、さっきからなにを隠そうとしてるの!?』


 学校一の美少女と幼馴染と同棲してるという事実です。

 なんて言えるわけねえだろうがよ!

 くそっ、遥は頭もいいから言い訳がまったく通用しねえ!


『とにかくもう着くから、電話切るよ!』

「あっ、おい!?」


 無慈悲にも、スマホが沈黙してしまう。

 ……さーて、どうしようこれ。

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