第21話 お礼の撮影会(なお、肝心な記憶は忘却する模様)

「その……ごめんね、りっくん。慌ててたとはいえ、雑誌を使ってもらっちゃって」

「……ああ、大丈夫だ。男子たるもの、女子を守れるのは誉れみたいなもんだからな」


 放置しておいてもいいとは言ったが、脱衣所にゴキがいるままなんて俺も落ち着かないからな。


「そ、それで……約束の写真の件ですけど……」

「それもいいよ、別に。付き合ってもない同級生の女子にそういうのを要求するとかただの変態だろ。本ならまた探して買うよ」


 あれ? もしかして女子に向かってまたエロ本買う発言してる俺って結構やばくない?


「……いや! りっくんは約束を守ってくれたんだもん! あたしたちも約束は守るよ! 撮るったら撮る!」

「そうですよ! 理玖くんが大切なものを使ってまで退治してくれたんです! 今度は私たちが覚悟を見せる番です!」

「お前らなんでそんなチャレンジャー!? 本当にいいって! あとから気まずくなんだろうが!

「大丈夫! なんとかなる!」

「気合いで乗り越えてみせます!」

「まさかの根性論!?」


 こいつらさては変なテンションに当てられてまともに思考出来てねえな!? 引くに引けなくなってんじゃねえか!

 でも、こうなったこいつらを説得するのは骨が折れるぞ……って、なんで俺が説得する側に回ってるんだよ、おかしいだろ、色々と。


 けど、こいつらを納得させるいい案は思いつかねえし、こうなったらさっさと撮って終わらせた方がお互いの為だ。


「よーし分かった! そこまで言うならお前らのそのバスタオル姿を撮らせてもらおうか!」

「の、望むところです! さぁ、撮ってください!」

「りっくん! 早く! スマホ!」


 マジであとで恥ずかしくなっても知らねえからな!?

 けど、この2人のバスタオル姿を写真に収められるなんて男子に撮って超お宝写真だ! 


「ほら、2人とももっと詰めろ! はい、撮るぞ!」


 せっかくなら無駄に連写で撮ってやる!

 陽菜と有彩がカメラに収まり切ったところで、俺はシャッターを切り始めて——。


「——へ?」

「——え?」

「——は?」


 ——2人のバスタオルが同時に緩み、ぱさっと下に落ちた。

 

 多分、慌ててたのもあって元々緩かったんだろうし、それに、さっき俺をタックルで押し倒した時に更に緩んで、今、陽菜と有彩がくっついたのがとどめになって解けたんだろう。


 2人はまだ事態に認識が追いついていないらしく、裸体を俺に晒したまま呆然としている。


 って、分析してる場合じゃなくて、連写にしてたってことは、今のはもちろんしっかりと……!

 俺がスマホの写真を確認すると、そこにはしっかりと、コマ送りのように、下にどんどん落ちていくバスタオルと共に露わになっていく2人の裸体がしっかり写り込んでいた。


 そこまで確認したところで、


「「きゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」」


 2人が叫び声を上げながら、俺から身体を隠すようにその場にしゃがみ込んだ。

 

「み、見ないでください!」

「早くあっち向いてよ!」

「お、おおおおおう! ご、ごめん!」


 俺が慌てて身を捻って、ひとまず自分の部屋に戻ろうとした瞬間。


「って、うお!? あっぶね……っ!?」


 足をもつれさせ、転びそうになってしまい、踏ん張ろうとしたが俺はずるりとなにかで足を滑らせてしまう。

 そのなにかとは、水滴。


 それは陽菜と有彩が身体をまともに拭かずに慌てて飛び出してきたせいで、そこらに散らばって、小さな水溜まりになっているところすらあったのだ。


 そして、そんな足を滑らせた俺を待ち受けるは、壁。

 

「がっ!?」


 俺はその勢いのまま、頭から壁に突っ込んでしまい、衝撃に視界がぐらりと揺らぐ。

 ……あ、これ気を失うやつだ。


 揺らぐ視界と徐々に暗くなっていく視界、痛みの中で、俺は察する。

 だ、だったら、せめてさっきの光景だけは忘れたくねえ……! 


 薄れゆく意識の中で、俺はそう思った。



「——う、うーん……?」


 あれ? 俺、いつの間に寝てたんだ? 

 確か、Gを退治して……それから……っ! なんか頭痛えし、ダメだ。思い出せん。

 俺はひとまず考えるのをやめ、自分の部屋から出てリビングへ。


「あ、り、りっくんおはよう!」

「お、おはようございます! 理玖くん!」

「あ、ああ。おはよう? なぁ、昨日のことなんだけど……って、なんで2人揃って目を逸らす」


 なんかこいつら様子変じゃないか?


「な、なんでもないよ! ね、有彩!」

「は、はい! あ、今すぐ理玖くんの分も朝食用意しちゃいますね!」

「お、おう。あのさ、俺、昨日Gを倒してからの記憶がないんだけど、あのあと俺どうしたんだ? なんか風呂にも入ってねえみたいだし」

「え、えっと……ほら! りっくんあたしたちの写真を撮ったあと、疲れてすぐ寝ちゃったんだよ!」

「そ、そうです! 相当お疲れだったみたいですね!」

「ふーん? そっか?」


 さっきから2人がなんか慌ててるのが怪しいんだよな。

 怪訝に思いながらも、俺がスマホを確認すると、そこには確かにバスタオル姿の2人の写真が1撮られていた。


「ま、いいか。とりあえず、俺シャワー浴びてくるわ」

「う、うん! ごゆっくり!」

「いやゆっくりしてたら遅刻するだろうが」


 2人がよそよそしいのが気になるが、この感じ、聞いても答えてくれないやつだな。


「ねえ、有彩。りっくん。あそこの記憶だけピンポイントに飛んでるっぽいね」

「はい。頭を打って気絶したからでしょうね」

「あらかじめ、スマホの写真は全部消して新しいのを撮っておいたけど、ここまで都合良く忘れてるなんてことあるんだね」

「おいなにこそこそしてるんだ?」

「べ、別になんでもないってば! 有彩、おかわり!」

「はい任されました!」


 ……いや、マジでなんなんだよ。

 2人の態度に疑問を覚えながら、俺は大人しく浴室に向かうのだった。

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