第20話 爆誕、性剣エクスカリバー
「もうこんな時間ですか。すみません、私、先にお風呂いただいてもいいですか?」
「ああ。いいよ」
座椅子に座ってローテーブルの上に置いていたノートパソコンで執筆作業をしていた有彩が軽く伸びをしてから立ち上がる。
その際漏れ出た「んっ」という色っぽい声は聞かなかったことにしよう。
「あ。あたしも入る。いい?」
「はい、どうぞ」
最初は渋っていた有彩だったが、今はこうして度々一緒に入っているので、さすがに慣れたらしい。
うむ。仲が良くてなによりだ。
それから、2人が風呂に入って、30分くらい経っただろうか。
前から疑問に思ってたが、なんで女子ってこんなに長く風呂に入れるんだろうな?
男なんてシャワーでシャンプー、ガーっと身体洗うだけで終わるだけなんてしょっちゅうだし、湯船浸かったとしても10分かかるか、かからないかだよな。
「「——きゃぁぁぁぁぁあああああああ!?」」
「なんだ!?」
悲鳴!?
俺は慌てて立ち上がり、脱衣所に近づく。
「おい陽菜、有彩! どうした! 大丈夫か!? ……って、うお!?」
脱衣所の扉が急に開き、俺は中から飛び出してきたなにかに勢いよく抱きつかれて、受け止められずにその場に倒れてしまう。
その抱きついてきたものの正体は。
「お、おおおおおお!? おまっ!? お前らどうした!?」
バスタオル姿の陽菜と有彩だった。
2人は俺の腹にしがみつくようにして一緒に倒れてるせいで、なんかもう色々と危うい! なにこれ!? 俺明日死ぬん!?
「り、り、りっくん! じ、じじじいが!」
「だ、脱衣所にじ、じいが! なんとかしてください!」
「あ!? 脱衣所にじじい!?」
どういう状況だそれ!?
なんで脱衣所にじじい!? ってか人んちでなにやってんだじじい!
「ち、違いますよ! Gです! 黒い悪魔が出たんです!」
「た、退治してりっくん! 早く!」
「なんだじじいじゃなくてGか。……じゃなくてお前ら早くどいて!?」
安心してる場合じゃねえや! 俺にとってはGよりもこの状況の方がよっぽど危険だから!
どうにか2人の拘束から抜け出した俺は、改めて思案する。
「退治って言ってもな……武器がねえし」
「なんかないの!? 新聞紙とか!」
「1人暮らしの学生が新聞なんか取ってるわけねえだろ」
「理玖くんの現代っ子!」
「そんな罵倒のされ方ある!?」
仕方ねえだろ、養ってもらってる身なのに新聞なんて贅沢品なんだから。
「じゃあ雑誌は!?」
「いらないやつは全部処分したばっかだろ」
「そ、そうでした……なら、靴とかスリッパとか使わないものは!?」
「元々1人暮らしの俺がそんな余分なもの買ってるわけないだろ。和仁とか遥とか部屋に来る頻度そこまで多くないし、スリッパの予備もない」
「りっくんのぼっち!」
「てめえ表出ろやゴラァ!」
こっちは別にGの1匹くらい放置しといてもいいんだぞ!?
「な、なにか……なにか武器になるようなもの……あ、有彩! あれだよ! まだ使える雑誌がある!」
「え? そんなもの……あ! そうですね、陽菜ちゃん! ありましたね!」
「「りっくん(理玖くん)の大人の本が!」」
「待てその発想はおかしい」
俺にとっては黒い悪魔よりもこいつらが悪魔に見えてきたぞ。
「だって他に方法ないじゃん! いっぱいあるんだから1冊くらいいいじゃん!」
「お前男子高校生にとって1冊がどんだけ価値あると思ってんだよ! 大体俺も結構処分したし! 今、ここに残ってるのは俺の厳しい選考を勝ち抜いた謂わば代表だぞ!? それをG1匹の為に犠牲にしろってのかよ!?」
「女子高生にその価値を理解しろって方が無理がありますよ! 私たちにとってはここが1番の使い所なんです!」
「そうだよ! ここで使わずにいつ使うって言うのさ!」
「具体的な使い方については言及を避けさせてもらうが絶対にここじゃないってことだけは断言出来るわ!」
男にとって、そう簡単にお宝本を犠牲にするなんて決断出来るわけねえだろ!
……と、言いたいところだが、怖がってる女子を放っておくのはなんだか気が引ける。
あーくそっ!
「……使ってもいいが、その場合それなりの対価を要求させてもらうからな!」
「対価……そ、それならあとであたしたちがその雑誌の代わりになるような写真撮らせてあげるから!」
「はぁ!? お前自分がなに言ってんのか分かってるか!?」
「分かってるよ! 今はそれだけ切羽詰まってるの! お願い!」
「〜っ! いやいや! こ、こう言ってるが、有彩はさすがにダメだよな!?」
「は、恥ずかしいですけど……陽菜ちゃんにばかり任せてはいられません! 私も大丈夫です! なのでお願いします!」
まさかの承諾!? ウッソだろお前!?
というかそこまでの決断力と判断力があってゴキブリ1匹に立ち向かえないのおかしくね!?
でも、陽菜と有彩がそこまで言うんだ。今更、やめるなんて言えん。
というか、ぶっちゃけ2人のアレな写真とかマジ欲しい。
くそっ、やるしかねえか……!
腹を括った俺は、部屋から秘蔵の1冊を取り出してきて、丸めた状態で片手に装備してから、脱衣所の前に立った。
名付けるなら、聖剣……いや、性剣エクスカリバーと言ったところか。
敵は脱衣所の中……行くぞ、相棒!
俺は勇んで敵陣に突入していく。
あいつらはバスタオル姿のままだし、長引いたら風邪でも引くかも知れねえからな。なるべく早く敵を討たねえと。
「まず、洗濯機の下は……いないか」
となると次は、脱衣カゴの下か? って、こ、これは……!?
「陽菜と有彩の下着!?」
そ、そりゃこんなことになるなんて想定してないだろうし、隠してるなんてことはないだろうし、脱いだ順番的に下着が1番上に来るのは頷ける。
くっ……! 見てないで黒い悪魔を探さないといけないというのに、目が離せねえ……! なんて姑息なトラップなんだ!
——冷静になってみれば、片手にエロ本持って女子の下着をガン見してるこの状況ってただのど変態じゃね?
その思考に至った俺は、急激に落ち着いた。
「……っ!」
直後、視界の端で動く何かを捉える。
「そこかァ! グッバイG! そして俺の大人の本!」
決着は一瞬だった。
Gはその自慢の速さを持って、逃げ出そうとするが、日々バールやバットなどの殴打武器を見切って躱している俺にとっては止まって見える。
俺の振り抜いた大人の本は正確にGを捉え、勝負は決した。
ふっ、またつまらないものを切ってしまったようだな。
「さて、これは厳重に処置して処分しないとな……確かここに袋が——って殺虫剤あんじゃねえかこんちくしょうがァ!」
用具入れを開けた俺の目に飛び込んできたのは、殺虫剤。
今更見つかったところで、既にあとの祭りだ。
俺はただただ、呆然と使う機会を失った殺虫剤を恨めし気に睨みつけることしか出来なかった。
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