第11話 明朗快活ショートポニテスポーツ少女

 そんなこんなありながら、時間は流れ。

 俺たちはショッピングモールへとやってきた。


「それで、これからどうしましょうか?」

「個別に行動して必要なものを買っていくんでいいんじゃないか?」

「せっかく3人で来てるのに? 一緒に回ればいいじゃん」


 そう言う陽菜に、俺は真面目な顔を向ける。


「いいか? ここは学校からそこそこ近いし、この辺に住んでる高校生は大体買い物はここだ。それに、遊ぶのも大体ここ。つまり、クラスメイトの暴徒どもにお前らといるところを見られる可能性がだな——」

「じゃあ3人で回るってことで決定ね」

「おい聞け! お前幼馴染の命がかかってんだぞ!?」

「もー大丈夫だってば。この広いモール内で鉢合わせる可能性の方が低いんだから。そもそもいるかも分からないでしょ」

「そうは言うがなぁ……」

「あの、理玖くん。私も3人で回った方がいいと思います。なにが必要か話しながらすぐに擦り合わせが出来ますし」


 竜胆まで……。

 

「はぁ……分かったよ。3人で回りますよ。回ればいいんだろ」


 2人に言われて、俺は白旗を上げる。

 これ以上ごねて時間をかけるのはよくないしな。


「ふふ、りっくんのそういうもの分かりのいいところ、あたし好きだよ? いい子いい子」

「うっせえ。頭撫でんな。子供扱いすんな」


 ったく、こいつは昔から隙あらば俺の頭撫でて子供扱いしてくるんだよな。

 俺と身長差が大体20cm近くあるんだから、背伸びしてまで無理して撫でてくんなっての。

 頭に乗せられた陽菜の小さい手を軽く振り解いていると、なぜか竜胆がそーっと俺の頭に手を伸ばしてくる。


「ん? どうした? 竜胆」

「あ、い、いえ! 肩に埃が付いていたので!」

「え、マジか。サンキュ」

「い、いえ……はぁ……」


 お礼を言ったらめちゃくちゃがっかりされた。なんで?

 とにかくそうと決まったら、なるべくクラスメイトだけじゃなくて学校の奴らには見られないように常に周囲をちゃんと見てないとな。


 噂にでもなったらそれは俺の処刑に直結するんだからな。

 そう思っていた矢先だった。

 

「——あれ? 理玖君と陽菜ちゃんと……竜胆さん?」


 名前を呼ばれて、思わず肩が跳ねる。

 声がした方向に視線を向けると、人懐っこそうなくりくりとした瞳とショートポニーが特徴的な女子がこっちに近づいてくる。


「やほやほー」

「やほー! なるちゃん!」


 陽菜が近づいてきた女子とイェーイとハイタッチを交わす。

 

「竜胆さんもやほー!」

「え、え? や、やほー……?」

「おいこら柏木。お前のコミュ力は人見知りには毒なんだからそういうの強制してやるな」


 戸惑う竜胆にハイタッチを交わそうとした女子——柏木鳴海かしわぎなるみを制止した。

 柏木は俺たちのクラスメイトで、身長は150後半で標準体型だが、運動神経が非常によく、バスケ部に所属している。


 ついでに、今のやり取りから見て分かる通り、明朗快活で距離感近い系だ。


「あはは、ごめんごめん。ついね」

「で、そっちは買い物帰りか?」

「うん。今日は部活が休みだからね。そっちは3人で買い物? にしたって珍しい組み合わせだね?」


 さて、なんて答えたもんだろうか。

 まあ、こういうのって変に捻った嘘をつくとボロが出やすいし、当たり障りのないこと言えばいいよな。

 俺はこっちを見てきた陽菜とアイコンタクトを交わす。


「あたしとりっくんで来て、ここで有彩にたまたま会ったんだー」

「へえ……って、あれ? 陽菜ちゃんって竜胆さんのこと名前で呼んでたっけ?」

「この間話してたら仲良くなってね」

「ふーん?」


 特に疑うところはないはずなのに、柏木が不思議そうに首を捻る。

 

「どうした?」

「いやー? なーんか引っかかるような気がしてさー?」

「なんかってなに?」

「上手く言えないけど、なんかそれだけじゃないような気がしたんだよね」


 ええ……? こいつあれだけのことで俺たちが秘密を隠してるのに気付いたのか? 野生の勘か?


「い、いやいや! 名前呼び始めたくらいでなにが引っかかるって言うんだよ!」

「そ、そうですよ!」


 やっべ、動揺したせいでめちゃくちゃなんか誤魔化そうとしてる奴みたいになってしまった。

 竜胆が慌てて便乗してきたことも相まってめちゃくちゃ隠しごとあるようにしか見えない。


「まあ、そっか。ごめん。変なこと言い出して。あ、わたしも有彩ちゃんて呼んでいい? わたしのことも鳴海でいいからさ!」

「は、はい! ど、どうぞ! かしわぎさ……えっと、な、鳴海……さん」

「もー硬いよー! 気軽になるちゃんでいいのにー」

「す、すみません……! 今はこれが精一杯ですっ」

「そっかー残念。まあ、名前で呼んでくれただけで1歩前進ってことでよしとしますか」


 ころころと鈴が鳴るような涼やかな笑い声を上げる柏木。

 まじこいつの距離感どうなってるんだよ。そんなんだから勘違いして告白してくる男子がいるんだぞ。


「っと、そろそろ行かないと。じゃあ、また学校でねー」


 ひらり、と手を振って柏木がこの場から去ろうとする。

 なんというか、台風みたいな奴だ。


 さて、気を取り直して俺たちも行きますかね。

 去っていく柏木を見送って、ショッピングモールの方に向かい始めると、背中から「あ、そうだ!」と大きな声が響く。


「さっきよ! もしかしたら鉢合わせるかもねー!」

「え」


 なん……だと……!?

 落とされた爆弾に固まる俺のことなんてつゆ知らず、今度こそ柏木は去っていった。



あとがきです。

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