第8話 触れるのに手に入れられないもの

 掃除も一通り片付いて、すっかり日も暮れてしまった。

 さすがに疲れたな。


 晩飯はさすがにコンビニ、スーパー、デリバリーのどれかにした方がいいだろう。

 

「とりあえず汗もかいたし、先に風呂入ってきてもいいぞ、2人とも」


 身体も汚れるだろうと、掃除をしている間に風呂を沸かしておいて正解だったな。


「うん、そうさせてもらうね。ね、一緒に入ろうよ、有彩」

「え!? い、一緒に……ですか……?」

「ほら、親睦を深める為にもさ。そういうのって裸の付き合いがいいって言うじゃん」

「……言いたいことは分かるのですが……そ、その、さすがに恥ずかしいので……」


 竜胆が、陽菜の身体を見て、自分の胸にそっと手をやった。

 なんとなく竜胆がなにを気にしてるのかは分かったが、ここでどういう触れ方をしてもセクハラにしかならないので俺は黙る他ない。

 ……あえて一言だけ言わせてもらうなら、小さいのも、全然ありだと思います。


「でも、2人で入った方が色々と節約になると思わない?」

「そ、そう言われるとそうなのですが……」

「ね、いいじゃん。1度入っちゃえば大丈夫になるって」

「う、うう……そ、そこまで言うなら……」


 ちょっろ。

 竜胆ってもしかして押しにめちゃくちゃ弱いのでは?


 俺が様子をうかがう中、着替えを取ってきた2人が風呂に向かっていく。


「じゃありっくんお先にー」

「すみません。なるべくすぐに上がるようにはしますので」

「いいよ別に。俺は晩飯でも買いに行ってくるから、ゆっくりしてくれ」


 そう言って、財布を取りに行くと、リビングには既に2人の姿はなかった。


「……はぁ」

「どうしたの? もしかして、あたしと一緒に入るのってそんなに嫌だった?」

「い、いえ! そういうわけではなく! ……その、陽菜ちゃんと一緒に入ると、自分の身体がものすごく貧相なものに思えてしまうと言うか……」

「え、そう? 有彩だってすっごくスタイルいいじゃん。ウエストとか本当に細くて羨ましいし」

「それなら私は陽菜ちゃんの大きな胸が羨ましいですよ……なにかやってたりとかするんですか?」

「んー特にはなにも?」

「……遺伝ということですか。世界はなんて残酷なんでしょうね」

「有彩が死んだ目に!? えっと、そ、そう! 胸なんて大きくてもいいことないよ!? 肩は凝るし、下着は可愛いのサイズなかったりするし、あと、男子からはえっちな目で見られるし!」

「……それ、私が人生で1度は言われてみたいセリフベスト3なんですけど」


 お前ら声聞こえてんだよ。もうちょっとボリューム落とせよマジで。思春期の童貞に聞かせたら鼓動高鳴り過ぎて心臓爆発すんぞ。

 あと、竜胆は強く生きろ。


 今の会話を聞こえなかったフリをして、俺はそそくさとコンビニに出かけるのだった。



 脱衣所に入った私たちは、服を脱いでいく。

 ……やっぱり、2人だといくらなんでも狭いですね。このお部屋、脱衣所もお風呂場も結構大きさあるはずなんですけど。


 というか、ここが理玖くんが普段使っているお風呂場だと考えたら、とても緊張してきました。

 それに、あまり人に裸を見せる機会なんてないので、それもまた緊張してしまいます。


 緊張と身体が陽菜ちゃんに当たらないように縮こまりながら着替えている私とは違って、陽菜ちゃんはまるで自分の部屋のように堂々とした感じでした。

 きっと、何度もこの部屋のお風呂を使ったことがあるのでしょう。


「じゃ、先に入ってるね」


 のろのろと服を脱いでいた私と違って、陽菜ちゃんが鼻歌を歌いながら浴室へと入っていく。

 その際、陽菜ちゃんの胸が歩く度に揺れているのを見て、私は唖然としてしまいました。


 ……現実は残酷過ぎます。

 あんなに可愛くて、スタイルもいい陽菜ちゃんが理玖くんのことを好きだなんて、どうやっても勝てる気がしません。ズルです。


 ため息をつきたくなるのを堪えて、服を脱ぎ終わり、脱衣カゴに脱いだ服を入れる。

 その時、陽菜ちゃんの方の脱衣カゴの中にある、自分のものとは比べ物にならないほど巨大なブラを見てしまいました。


 お、大きい……!


 私は呆然とそのブラを見つめてしまってから、慌てて頭を振って、逃げるように浴室へと入りました。

 そんな私を待っていたのは——。


「あ、やっと来た。少し遅かったけど、なにかあったの?」


 ——おっぱいだった。

 いやもう、真正面から見てしまうと目が離せない。そのくらい圧倒的な質量だった。


「ひ、陽菜ちゃん……」

「うん? なに?」

「ちょっと胸を触らせてもらえませんか!?」

「どうしたの急に!?」


 こんなのを見てしまったら敗北感より触ってみたいが勝ってしまいました!

 だってこんなに大きいのに、重力に負けないような綺麗な半球型をしているんですよ!? どうなってるんですかこれ!?

 

 ……って、そうじゃなくて!

 陽菜ちゃんの胸によって正気を失っていた私は、軽く頭を振って邪念を追い払った。


「す、すみません。あまりに大きくて綺麗な形をしていたものでつい……」

「あはは、ちょっと驚いたけど、いいよ。そう言ってもらえるのは嬉しいし。触られるくらいなら全然」

「い、いいんですか……?」

「まあ、減るものじゃないしね」


 ん、と軽く突き出された胸を前に、私の喉がごくり、と音を立てます。

 

「そ、それでは失礼して……!」


 私は、震える手をそっと陽菜ちゃんの胸に伸ばして、触れる。

 こ、これは……!


 伝わってきたのは圧倒的な質量と柔らかさ。

 私は魅入られたように、ペタペタと感触を確かめてしまう。


「す、凄い……!」

「あはは、そこまで手放しに褒められるとさすがになんかちょっと照れちゃうかも」


 少しに渡って陽菜ちゃんの胸を堪能した私は、そっとその両手を自らの胸に持ってきて、ペタペタと触りました。


「有彩? なにしてるの?」

「いえ、少しでも今受け取った巨乳因子を取り込めないかと思って」

「ほんとになにしてるの!?」

「止めないでください! 無謀なのは分かっていても! 少しでも可能性に縋りたいんです!」

「そこまで!? 有彩のも十分だってば! 形だって超整ってるし!」


 その後、陽菜ちゃんの制止を無視して、私は涙目になりながら必死に自分の胸にペタペタと因子を塗りたくるのでした。

 結果として、陽菜ちゃんのものに対して、自分のものの感触が慎まし過ぎて虚しくなっただけでした。


 ……なにやってるんでしょうね、私。






***


あとがきです。

いよいよ本日よりカクヨムコンがスタートしますね!


今年も例年の如く激戦になるとは思いますが、頑張って更新していくので、

この作品が面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、


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