第9話 同棲生活のルール
「この同棲生活におけるルールを決めておこう」
テーブルを囲んで夕食のコンビニ弁当を食べながら、俺はそう切り出した。
俺の言葉にパジャマ姿の竜胆と陽菜が食事の手を止め、こっちを見てくる。
髪の毛を緩く二つ結びのおさげにした竜胆が首を傾げると、それに合わせてさらり、と髪が揺れた。
どうでもいいが、パジャマ姿の女子っていいよな。ちょっと無防備なあたりが。
「ルールって言うと、家事の分担とかですよね?」
「ああ。それに、こういうことは絶対してほしくない、だとかそういう細かいことだな」
「うん、大事なことだね」
ただでさえ、俺たちは赤の他人同士。
早い内に色々と擦り合わせておいた方がいいだろう。
「とりあえず掃除は自分の部屋は自分ですること。共有スペースは全員で協力してやることだな」
うんうん、と竜胆と陽菜が頷く。
「それから、料理当番だが。陽菜、分かってるな」
「分かってるよ。3人でローテーションだよね」
「なにも分かってねえ! 俺と竜胆でローテに決まってるだろうが!」
お前さっきの所業でまだキッチンに入ること諦めてねえのかよ!
「陽菜ちゃんの腕は見せてもらいましたけど、理玖くんって料理出来るんですか?」
「まあ、これでも1人暮らし歴長いからな」
と、言っても簡単なものしか作れないけど。
いつもは大体スーパー、コンビニ、デリバリーの三種の神器か、陽菜の家で一緒に食べさせてもらってる。1人暮らしの男子高校生にとって惣菜はマイフレンド。
「だから、結局ほとんど竜胆に任せきりになっちゃうと思うんだが……いいか?」
「任せてください。住まわせてもらう身ですし、当然のことです」
「悪い。俺も出来るだけ手伝うから」
「あたしも!」
「すっこんでろ」
隙あらばキッチンに踏み入ろうとしやがる。
「それから、洗濯だが……俺は自分の分は自分で洗うから、2人はそっちで分担してくれ」
「そ、そうですね。さすがにし、下着とかを男の子に洗ってもらうわけにはいきませんもんね……」
そんなことになってみろ。洗濯の度に理玖くんの理玖くんが大変なことになっちゃうでしょうが。
どうしてもと言うなら洗濯をする前に毎回賢者タイムにならないといけなくなる。
「あ、じゃあ洗濯物はりっくんだけ分担から外すのは? あたし、お父さんとか弟ので下着も見慣れてるから任せてもらって大丈夫だよ?」
「俺が大丈夫じゃないんだよ?」
「む。それなら、私だってお父さんので見慣れてますから、大丈夫です」
「うん、聞いてた? 俺が大丈夫じゃないんだよ?」
2人で火花を散らすな。どこで対抗心燃やしてんだ。俺のパンツの洗濯権を取り合うな。同い年の女子に洗われるとか罰ゲームだろ、もはや。
「とにかく、洗濯に関しては俺が最初に言った通りにしてくれ。くれぐれも洗濯機の中に下着を忘れないように。もし発見した場合はもれなく俺が死にます」
俺は有無を言わせず、洗濯に関してはそういうことで押し通すことにした。
一応2人は渋々と納得してくれた。
……なんでこいつらちょっと不服そうなの?
*
「よし。とりあえず家事についてはこんなとこでいいとして……最後に大事なことが1つある」
「大事なこと? なんですか?」
「りっくんが持ってるえっちな本とかを勝手に触ったり探さないようにとか?」
「この状況でそんなこと言うわけねえだろ!? 隠し場所は死んでも教えねえよ!」
ハプニングで見られはしたが、隠してる場所まではバレていないはずだ。
「まあ、大体分かるけどね。クローゼットの中にあるオフシーズンの服の間だったりとか、靴の空箱の中だったりとか」
「は!? お、お前なんでそれを!?」
「だって凛も同じような所に隠してたから」
「凛……! あの野郎……!」
凛は陽菜の弟で、中学3年生。俺にとっても弟みたいな存在だ。
しかし、あいつのせいでこの家でトップシークレットの存在がバレてしまっているらしい。迂闊な奴だ。ふざけやがって。
ちなみに、凛は双子で、蘭という姉がいる。
蘭は陽菜に負けず劣らずスタイルがよく、めちゃくちゃ負けん気が強いタイプだ。
最近は反抗期なのか、なんか俺に対してものすごい素っ気なくて、ちょっと悲しい。
「というか、りっくんが教えたんじゃないの? 前に見つけちゃった時、凛がりっくんに教えてもらった所ならバレないって思ってたのにって言ってたし」
「……」
そういえばそうだった。どうやら迂闊な奴は俺だったらしい。
「ひ、陽菜ちゃんってそういうの結構平気なんですね? 私は聞いてるだけでも結構恥ずかしいんですけど……」
「まあ、他の子よりは耐性がある方だし、理解もしてるよ。凛もよく、夜中やたらとスッキリした顔でリビングに降りてくることあるし」
「やめたげて!? 色々とバレてるって気付いたらあいつ部屋から出てこれなくなっちゃうぞ!?」
思春期で多感なお年頃の男が姉に致したタイミングを悟られてるなんて知ったら……俺なら迷いなく窓からダイブを選ぶ。
って、そうじゃなくて!
「俺が言いたいのはお宝のありかじゃなくて、俺たちが同棲してるってことを絶対誰にも話さないってことだ」
「はい、もちろん気を付けます。……まあ、私の場合話せるような知り合いもいないんですけど」
「それはそれで悲し過ぎるからちゃんと友達を作るように」
俺が全面的にサポートするから。
「あたしも大丈夫。遊ぶ時は大体外か、友達の家だし。……あとはうっかり口を滑らせなければ」
「不安になること呟くな!」
そういうのが無駄にフラグになるんだからな!
もし幼馴染と学校一の美少女と同棲してる、なんてことを学校の連中に知られてみろ? 死ぞ?
どういう目に遭わされるのか、という過程をすっ飛ばして俺の脳内に死というビジョンが浮かぶ。多分最後は山に埋められるか野犬の餌にされる。
「あとになって出てきたことはその時ちゃんと擦り合わせるとして、最後のルールだけは絶対に守ること! いいな?」
問いかけると、陽菜と竜胆は揃って頷いたのだった。
こうして、同棲生活1日目は過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます