第56話憎悪――エミルの気持ち
◇◇◇
ああ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
コトコリス男爵邸、リビングルーム――
「回復魔法が使えない!? あれは、ユウナの力だったと言うのか!?」
お父様は、奇跡と呼ばれる回復魔法が使えなくなった私を、今まで私に向けたことが無い冷たい目で、睨み付けた。
「は、はい、そうなんです、お父様。私、ユウナお姉様にずっと騙されていたんです……!」
いつものように、傷付いた私を、慰めて欲しかった。
だって、ずっと自分の力だと思っていた回復魔法が、ユウナお姉様の手によるものだったなんて、思いもしなかった。私はユウナお姉様に騙されていた、可哀想な被害者なの。
お父様とお母様は、いつだって私の味方で、私を愛してくれた。
私も、ずっと家族の幸せのために頑張ってきた。だから、またいつものように、私の味方になってくれる。そう信じて疑っていなかった――
「なんて事だ! 本物の聖女がユウナの方だったなんて!」
「お、お父様?」
「ああ、なんてことなの……それなら、初めからユウナだけを可愛がっていたのに!」
「お母様……?」
「この嘘つきが! お前が余計な嘘をついた所為で、我が家は滅茶苦茶だ!」
「っ!」
生まれて初めて、お父様に怒鳴られた。
こんな風にお父様に叱られるのは、いつもユウナお姉様だったのに……!
「で、でも、お父様もお母様も、私の方が聖女に相応しいって言ってくれたから……! だから、私が聖女になった方が、家族皆が幸せだと思ったから――」
「黙れ! この愚か者が!」
「お父様……!」
「ああ、どうしましょう。ユウナを家から追い出してしまったわ。私達の可愛い娘なのに……」
ユウナお姉様が可愛い娘?
「今すぐにユウナを連れ戻そう! 絶縁を取り消すと言えば、ユウナも喜んですぐに家に戻ってくるだろう!」
まるで私なんか眼中に無いように、ユウナお姉様のことを話すお父様とお母様。
何これ? どういうこと? お父様もお母様も、可愛い娘はエミルだけだって、いつも言ってくれていたのに。
「お、お父様、お母様……」
「五月蝿いぞ! お前などもうワシの娘では無い!」
「そんなっ!」
「すぐにユウナにかわって、絶縁状を叩き付けてやる! そのまま修道院にでも何でも行くがいい! 二度とワシ等の前に姿を現すな!」
「お父――」
伸ばした手は届くことが無くて、私は部屋に一人置き去りにされた。
どうして? 私は今までずっと、家族のために生きてきたのに……! それなのに、こんな仕打ち酷い!
元はと言えば、ユウナお姉様が私の傍を離れたりするから――私のために、生きてくれなくなったから!
「酷い……酷いよ、ユウナお姉様」
可愛い妹のために生きるのは姉として当然なのに、どうしてこんな酷いことするの? 私から聖女の立場を奪い、お父様やお母様も奪い、私の大好きなレイン様まで奪う。
私はこんなに、ユウナお姉様を好きでいてあげたのに!
「……嫌い、嫌い、ユウナお姉様なんて、大嫌い!」
もう好きじゃない、私に酷いことするユウナお姉様なんて、嫌い。
もう、ユウナお姉様なんていらない。
「全部全部……私に返して、消えて、ユウナお姉様」
◇◇◇
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