第16話妹と再会

 


『ううん、出来ない……』


『そうだよね、お父様にもお母様にも、信じてもらえなかったんだよね?』


『……』


 エミルの言う通り、お父様もお母様も、私の話を一切信じてくれなかった。嘘つきだと、妹の名声に嫉妬する戯言だと、妹の足を引っ張る気かと、怒鳴られた。


『ねぇ、それなら、このまま私が聖女だってことにした方が良いと思うの』


『え――』


『だってそっちの方が、家族皆が幸せになれるんだよ! お父様もお母様も、回復魔法を使える私の方が聖女に相応しいって言ってるし、私も、聖女として今、皆に認めてもらえてきた所だし、ここでユウナお姉様の方が聖女だなんて知れたら、皆がっかりするよ』


『がっかり……』


『そうだよユウナお姉様。家族のために、私が聖女でいた方が良いの。ね? ユウナお姉様なら分かってくれるよね? 家族のために、私のために、生きてくれるよね?』


『……う、うん』


『良かったぁ。ありがとうユウナお姉様。私、ユウナお姉様が大好きです。ずーっと、一緒にいましょうね。大好きですユウナお姉様』


 ――その家族の幸せの中に、私はいないの?


 そう口にしかけて、言葉を飲み込んだ。

 口に出したところで、自分を聖女だと証明出来ない私には、どうすることも出来ない。それに、家族のために――妹のために生きることは、姉の役目なのかと思った。

 私の大切な双子の片割れ……でも結局は、最後までエミルは私を傷付けた。馬鹿みたい、両親も妹も、私のことを家族だなんて認めていなかったのに。


 もう家族のために生きるのは止めた。これから先、どうなろうと助けてなんてあげない。


 私はエミルが大嫌いよ。




 *****



 私の予想通り、コトコリスの聖女は一年以上ぶりに、皇室からの依頼を受けた。


 コトコリス男爵は皇室からの依頼に、『ほら見ろ! 結局はエミルを頼るのだ!』なんてほざいていらしたようだけど、もう知らない。地下牢に閉じ込められたのに懲りないなと思ったけど、きっと皇室からの依頼で蘇ったのでしょうね。また不敬罪で牢屋にぶち込まれてしまえ。

 永久に戻ってこれない遠い監獄にでもぶち込まないと、お父様は反省しないと思います。


「元の家族と対峙することになるが、本当に大丈夫か? ユウナ」


「平気です、寧ろ早く引導を与えたくてウズウズしています」


 私の心の中に一ミクロンでもあの人達を思いやる心は残っていない。


「エミルにコトコリス男爵、男爵夫人、あとは、ルキ様――ユウナの夫のシャイナクル侯爵令息も来るんですよね」


「ああ」


「きっと、あの人達は私を連れ戻す気満々でしょうね」


 エミルはお父様に、『ユウナお姉様を連れ戻して!』と懇願していた。どうせ、『ユウナお姉様がいないなら聖女として活動しない!』とか泣きついたんでしょう。私がいないと聖女の活動、いわゆる土地の回復なんて出来ないんだから、当たり前なんだけど。


 私が陛下にファイナブル帝国の聖女の称号を与えられたことも、彼等はもう知っている。私が妹の足を引っ張るために偽物の聖女を名乗り、上手く陛下を騙したとでも思っているんでしょうね。

 この機会は彼等にとって、またとない絶好の機会。

 ここで私の嘘を暴き偽物の聖女と吊るし上げ、エミルを本物の聖女として知らしめる。そうして、私からファイナブル帝国の聖女の称号を奪い、エミルの確固たる地位を築こうとしている。


「ユウナは僕が守るよ」


「頼りにしています、レイン様」


「レイン様、ユウナ様、来ました。コトコリスの聖女です」


 約束の日から遅れること数日。

 エミル達はのんびりと馬車を走らせ、今回、土地の回復が必要な町 《メルト》にたどり着いた。


「わぁ、土地の腐敗が進んでいますね……可哀想。早く私が、力を与えてあげないと」


 時間に遅れているにも関わらず、のんびりと馬車から降りたエミルは、メルトの惨状に目に涙を溜め、悲しむ素振りをした。


 じゃあもっと早く来いよ。なんて思ったら負け。

 コトコリスの聖女が約束していた日より遅れて来るのはいつものこと。主役は遅れて登場が基本! とか思ってるなら、すぐに考えを改めて欲しい。


「! ユウナお姉様!」


「……」


「良かった……ユウナお姉様が無事で! 私、凄く心配していたんです! ユウナお姉様の身に何かあったらと思うと……私、私っ!」


 私の姿を見付けるや否や、輝くばかりの笑顔を見せた後、反転して、悲しい表情を浮かべるエミル。

 両親に家を追い出され、今まで行方不明だった姉にやっと出会え喜ぶ、心から安否を心配していた心優しい妹。そんな風に、今だけを見た人は思うのでしょうね。


「ユウナお姉様、絶縁状を叩きつけたお父様を許してあげて下さい。お父様は、私を思いやって行動を起こしてしまっただけなんです。私がちゃんと、次からはユウナお姉様を追い出したりしないでと頼んでおきましたから、安心して下さい」


「……」


「ね? 分かってくれますよね? 私達、たった二人の双子の片割れだもの。だから、早く私の元に戻って来て下さい。大好きです、ユウナお姉様」


 エミルを思いやって、私に絶縁状を叩きつけた。エミルが頼んだから、私を追い出さないなんて、よくそんなこと私に言えるわね? 全部、私のことなんて考えていないじゃない。

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