第15話思い出話
ルキ様とは、婚約者とは言っても名ばかりのもので、ろくに会話もしたことが無かった。
婚約当初、よく私に会いに来てくれると思っていたけど、それは私では無く、エミルに会いに来ていただけなんだと、今なら分かる。
私とエミル、ルキ様と三人で話している時、いつもルキ様は妹の近くにいた。妹にだけ話しかけ、妹にだけ微笑みかけ、妹にだけ優しくする。
妹を無事に手に入れ、結婚してからは、殆ど私に会いに来なくなった。たまに顔を見せに来たけど、あれはエミルに言われて、渋々見せかけの婚約者を続けるためのものだったんでしょうね。
話しかけても素っ気ない、無視される、ただ一緒の空間にいるだけの時間。それでも、私は忙しい時間に私に会いに来てくれていたんだと、嬉しかったのに……ルキ様にとって私は、本当にただの聖女との足掛かりに過ぎなかったんですね。
でも残念、苦労して手に入れたエミルがまさかの偽物の聖女だなんて、滑稽過ぎて笑えます。
「化けの皮が剝がれるのは時間の問題じゃし、現状、偽物の聖女だと立証することは難しい。放置しておくしかないのぉ」
その間、コトコリス男爵の犠牲者が出ようとも――
「いえ、陛下に一つご提案がございます」
「提案?」
ここまでお父様やエミルを野放しにしていた自分にも責任がある。
だから、エミルが聖女でないことを立証する。
「次、土地の回復が必要な町が出てきたら、そこにエミルも呼んで下さい」
「! それは……」
「そこでエミルが偽物の聖女だと証明してみせます」
エミルは、私が本物の聖女であることは知っているけど、私が既に力の制御を出来るようになったことと、本来の私の力が他者に力を与えるものということを知らない。
それを利用すれば、エミルの化けの皮を一気に剥がすことが出来る。
「だが、コトコリスの聖女は呼んでも来ないのではないか?」
「いいえ、エミルは私が来ると知れば、必ず来るはずです」
怖いくらい私に執着する妹は、必ず、私を連れ戻すためにやってくる。
「妹は私が力の制御が出来るようになったことを知りません。幼い頃と同じように、力が勝手に漏れ出していると思っているので、私の力を、自分のものとして話すでしょう」
悪びれる様子も無く、妹はいつも、私の力を自分のものとして話した。『私が、大地に力を与え、木々に癒しを、作物に実りを与えているんですよ』なんて、嘘ばっかり。でも、皆は妹の言い分を信じた。
「妹は私と違って回復魔法を使えました。それも、強力な奇跡と呼ばれるほどの回復魔法。対して、力を上手く制御出来なかった私は、何も証明出来ませんでした」
足元や手から勝手に流れた私の力は、瞬間的に効果を発揮するものでもなく、土地はゆっくりと回復し、実りが花開く。妹はそれを利用して、全て、自分の力だと話す。今回もきっと、同じことをする。
「土地の回復を自分の力だと言い、私が嘘を付いていると見せかけると思います。回復魔法を使える自分の方が、本物の聖女だと証明出来ると思っていますから」
あの人達は私を、聖女を騙る偽物だとし、糾弾する。でも、妹はきっとこういうでしょうね。
『ユウナお姉様、私は許します。だって、私はユウナお姉様が大好きですもの。だから、私と一緒に帰りましょう。ユウナお姉様、大好きです』
偽物の聖女を名乗る姉を許す、心優しい妹を演じる。そしてまた、大好きなんて都合の良い言葉を言って、私を自分だけのものにして閉じ込める。
なんて地獄。絶対に嫌。
「今は力の制御が出来ますから、私が聖女だと証明出来ます。妹なんて怖くありません。妹を聖女にしてあげていたのは、私の恩情です」
でも、それも枯渇した。今はもう、家族のために、妹のために生きていく気なんてこれっぽっちも無い。だから私が直接、引導を与えてあげますね。
覚悟して、エミルの大好きな姉は、もういないのよ。
*****
まだ私達が幼い頃――まだ私が、エミルのことを、好きだった頃――
『え? 土地に元気をあげているのって、ユウナお姉様なの?』
『う、うん。そうだと思う』
私は両親に話したように、エミルにも、自分が土地に力を与えていると話した。
『エミルも言ってたでしょう? 魔法を使う時、自分が使うって感覚がハッキリあるって。私も、あるの。自分が土地に元気をあげてるって、分かるの』
赤子の時から自然とあったその力が、皆の言う聖女の力だと気付いた時には、エミルの方が聖女だと称えられていた。
『土地に力を与える子のことを、皆、聖女って呼んでるんだよね? だから、それならエミルじゃなくて私の方が聖女だと思うの』
最初にエミルを聖女だと言い出したのは両親で、エミルは祭り上げられただけだった。
エミルはただ、私と自分の力の区別もつかず、ただ、両親に言われるがまま、祭り上げられているだけだと、そう思っていた。
『……ユウナお姉様は、聖女の力を自分のものだって証明出来るの?』
『え?』
その時のエミルの表情は、私が今まで見たことがないくらい、怖い顔をしていた。
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