第46話横恋慕
「……やっぱりユウナお姉様、レイン様を好きになったんですね」
「っ!」
目の前にいる私だけに聞こえる声で小さく呟くエミル。
レイン様に聞こえていなくて良かった! 恋心を自覚した瞬間に玉砕させるとか止めてよね!
「……それが何? エミルには関係無いでしょう!?」
「関係あります! レイン様は、私のことが好きなんですよ?」
ん?
「私、お父様からレイン様の名前を聞いて、思い出したんです。レイン様は以前、私の婚約者候補の方だったと」
……知ってるけど? と言うか、それって、お父様がアイナクラ公爵令息のレイン様にエミルとの縁談を打診したけど、断られたって話ですよね?
「だけど私がルキ様と結婚してしまったから、レイン様は泣く泣く私を諦めるしかなかったんです」
それ、お父様とルキ様が、エミルや自分の見栄のためについた嘘じゃない? まさか、そっちを信じているんですか?
「……えっと、それ、違うと思うけど」
「だから、私! レイン様に会って、あの時のことをちゃんと謝りたいと思ったんです!」
そうですか、私の話を聞く気はありませんか。
「レイン様! あの時は、レイン様の縁談を断ってしまって、ごめんなさい! 私、レイン様がこんなに素敵な人だったなんて知らなくて……縁談を断ってしまったことを、後悔してるんです」
エミルは私の後ろにいるレイン様に向かって、恋をしている女が送るような熱烈な視線を送りながら、頬を赤らめ、恥ずかしそうに言葉を紡いだ。
「私、レイン様が好きです。レイン様に恋をしてしまいました。どうか、私をさらって下さい!」
いや、まだエミル、既婚者ですよね! ルキ様と結婚していますよね!? 堂々と浮気宣言しないでくれます!?
「アイナクラ公爵令息であり、最強の魔法騎士であるレイン様なら、ルキ様から私を手に入れるのは容易いですよね? もし慰謝料とか請求されても、レイン様なら余裕で私の分も払ってくれますよね?」
他力本願……
私が新たに好きになった相手がルキ様よりも素敵な人だから、余計に奪おうとムキになってるの?
「レイン様、大好きです。早く、私を抱き締めて下さい」
私から婚約者を奪っただけでは足りず、また、私から好きな人も奪うつもりなんですね。そうやって私を平気で傷付けるエミルが、嫌い――大嫌いよ。
「――――誰が君なんて抱き締めるか。絶っ対に、嫌だ」
「へ?」
きっとエミルの中では、ここでレイン様が告白に応えてくれて、相思相愛になった二人で抱きしめ合うつもりだったんでしょうね。そして、そんな光景を見て傷付き悲しむ私を見る予定だった。でも、エミルの思惑とは裏腹に、レイン様はハッキリと拒絶した。
「あ、あれ? レイン様、私のこと、好きですよね?」
「君みたいな性悪女、僕が好きなワケがない」
「う、嘘! だって、私は皆から愛されている女なんですよ? 男の人は皆、私のことが好きって……!」
「それは君がコトコリスの聖女だったからだろう? 今となっては、誰も君を求めていない」
今までは、エミル目当ての男の人がいつも誰かしら傍にいて、エミルを手に入れようとあの手この手でチヤホヤされていたのに、今のエミルの周りには、誰もいない。
今まで男の人にチヤホヤされるのが当然だったエミルには、未だに自分の置かれている状況が理解出来ないのでしょう。
「ユ、ユウナお姉様さえ私の所に戻って来てくれれば、私はコトコリスの聖女に戻れるんです! 皆、ユウナお姉様じゃなくて、私が聖女の方が幸せなんです! 私はユウナお姉様と違って愛嬌もあるし、明るいし可愛いし、私が聖女であるべきなんです!」
「……」
そう言えば、エミルは幼い頃の私にそんなことを言って、私を自分の陰にしましたね。
「私がコトコリスの聖女に戻ったら、ルキ様では無く、レイン様を選びます! レイン様のような方こそが、私に相応しいんです! ね? レイン様、私はレイン様が好きです」
間にいる私の存在なんて無視して、熱烈にレイン様を口説き続けるエミル。
「『私に相応しい?』 君は何様だ?」
「え……あ、だから、私はユウナお姉様より、聖女として皆に愛される存在で、そんな私には、レイン様のような素敵な方が相応しくて――」
「君、どれくらい皆に嫌われていたのか自覚が無いのか?」
「嫌われて――いた? 私が?」
耳に入ってきた言葉が信じられないのか、エミルは鳩が豆鉄砲を食ったような間抜けな顔で、そのままレイン様に聞き返した。
「君の我儘に周りがどれ程迷惑をかけられていたと思うんだ? ただ言葉で『好き』だの『皆を助けてあげます』など並べるだけで、実際は少しでも気に食わないことがあったら聖女としての活動を放棄したり、市民に対して横暴に振る舞ったり、全く聖女として相応しくない」
「……ち、違います! 私は、皆から愛されているんです! だから、皆が自然に、私を大切にしてくれていたんです! 私は我儘なんか言っていないし、面倒臭い女なんかじゃありません! ユウナお姉様より、嫌われているはずない!」
頭が能天気なお花畑の妹だけど、少しは心当たりがあるみたいで、明らかに動揺が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。