第47話私のことが好きなんですか?
「皆から愛されているのはユウナの方だ。ユウナこそが、ファイナブル帝国の聖女に相応しい」
「レイン様……」
そう言ってくれて、嬉しい。私がしてきた聖女の活動を認めてもらえたみたい。妹よりも……私を見てくれて、嬉しい。
「第一、僕は君がコトコリスの聖女だった時から、縁談を断っていた」
「そ、それこそ嘘です! だって、お父様がレイン様の縁談を断ったと――」
「君の父親は君と同じで、嘘をつくのが得意らしいな。自分の娘の威厳を守るために、僕が振られたと嘘をついたんだろう」
「そ、そんな……私が、コトコリスの聖女だったのに、断ったんですか? どうして? 聖女である私と結婚出来るなんて、とても光栄なことなのに!」
「例え聖女でも、君みたいな性悪女と結婚するなんて、死んでもごめんだ。僕は君を選ばない。選ぶなら――ユウナがいい」
「!」
私? レイン様が……私を?
「ユウナお姉様……? 私よりも、ユウナお姉様を選ぶの?」
ハッキリとレイン様に拒絶されたエミルの表情は、絶望に染まっていた。
エミルにとっては、コトコリスの聖女だった時にも拒絶されていたことがショックだったのかもしれませんね。コトコリスの聖女だった時の自分は、皆に愛されていると思っていたから。結局、エミルの周りに集まっていたのは、聖女の力目当ての男達だけだったということ。
エミルはそんな男の人達としか関わってなかったから、皆から愛されていると勘違いしていただけ。
あれだけ愛を囁いていたのに、本当は誰からも愛されていなかったなんて、可哀想だね、エミル。
「私からレイン様を奪えなくて残念だね、エミル」
「ユウナお姉様……酷い! 姉なら、可愛い妹に譲るのは当然なのに! お父様とお母様に言い付けるんだから!」
今更お父様とお母様に言い付けられたところで何になると?
「どうぞお好きに? コトコリス男爵と夫人に何を言われようとも、痛くも痒くもありません。それどころか、聖女である私に対する不敬罪で牢獄にでも入れましょうか?」
「っ! 酷い……家族にそんなことするなんて!」
「何度言えば分かるの? 私はもう、貴女達と家族じゃないの。縁を切ってるの」
「私達がいなかったら、ユウナお姉様は家族がいない、本当の一人ぼっちになっちゃうんですよ!? 可哀想なユウナお姉様のために、私が家族でいてあげるって言っているのに!」
「頼んでいません、エミルと家族に戻るなんて、死んでもお断りよ」
「ユウナお姉様ぁっ」
昔は私も、エミルを好きだったと思う。エミルの傷付いた顔を見るのが嫌だった。でも、今はエミルの傷付いた顔を見ても、何も思わない。
それどころか、いい気味だなんて思ってしまう私は、もう、エミルの姉じゃないの。
「さようならシャイナクル夫人。二度と、私の前に姿を見せないで。姉と呼ばないで。私は、エミルが大嫌い」
「っぅ!」
私が嫌いと言う度に、とても傷付いた表情を浮かべるエミル。
私のことが好きなエミルの気持ちを疑ったことはない。エミルは私が好きなんだと思う。でも、いらない。私を傷付けるだけの愛情なら、いらない。
貴女達と家族でいた時の方が、私は孤独を感じていた、不幸だった。今が自由で幸せ。
「――ユウナの元妹は中々に強烈だな」
「エミルがご迷惑をおかけして申し訳ありません」
アクアの町を出て、アイナクラ公爵邸に戻る馬車の車内。レイン様は外の景色を眺めながら、呆れたように言葉を吐いた。
コトコリスの聖女の肩書を無くした今、ただの男爵令嬢であるにも関わらず、アイナクラ公爵令息であるレイン様に対する口の利き方……正直舐めてますよね。しかも既婚者のクセに、平気で男を口説く。
聖女としてチヤホヤされて生きてきて、貴族令嬢としての教養どころか、一般常識まで学んでこなかった弊害ですよ。元とはいえ、妹が本当に申し訳なくて……
「ユウナが謝る必要は無いよ。だが、何故急に僕に目をつけたのかは謎だけど」
「何ででしょうねー?」
それは、私とレイン様が親密だと思ったからだと思いますよ。エミルは私が親密になった相手を欲しがる傾向がありますからね。
腐っても双子の妹だからか、エミルは私がレイン様に好意があることを、すぐに見抜いた。
「……あの、レイン様って……」
思い返すのは、選ぶなら、エミルじゃなくて、私を選ぶといったレイン様の言葉。
これまでも何度かそう思ったことはあったけど、今回ばかりは、レイン様は本当に私のことが好きなのでは? なんて都合良く思ってしまう。
「何だ?」
「……っ、えーと、レイン様って、私のことが、好き――なんですか?」
言った! 言ってしまった!
普段なら絶対こんなこと聞けないのに! エミルに触発されて口に出してしまった!
エミルは簡単に好きって言葉に出せるから……!
出した台詞は戻らない。
え、どうしよう。何言ってんだ? なんて思われたら。レイン様はただ、私がファイナブル帝国の聖女だから傍にいてくれてるだけなのに……!
「好きだけど?」
「好――」
「あれ? 伝わってなかった? 僕はちゃんと、ユウナが好きだって示してきたつもりだったんだけど」
「っ、え、っ!」
空いた口が塞がなくて、上手く言葉が出なくて、金魚みたいに口がパクパク開く。
「ユウナには直球じゃないと伝わらないのか。なら、ハッキリ伝えるよ、僕はユウナが好きだよ。ユウナに初めて会った時から、運命を感じたんだ」
「……!」
私も感じた、運命を。
「ユウナ、僕を選んで、絶対に君を大切にする。君をもう一人ぼっちにはさせないから」
「……っ」
触れられた手が熱い。
嘘じゃない、レイン様の言葉は、信じられる。
「はい……私も、レイン様が好きです」
私にとって『好き』は呪われた言葉だった。エミルに好きと言われる度に、苦しかった。
でも、今は違う。レイン様に好きと言われるのも、好きと伝えるのも、幸せだと、嬉しいと思える。
幸せ……レイン様を好きになれて、良かった。
私とレイン様はそのまま、揺れる馬車の中で、口付けを交わした。
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