第44話最後にしなければいけないこと

 


「ミモザの戯言は無視していればいい、ミモザも、わざわざ引っ張り出してまでルキを苦しめろとは思っていないだろう。するなら、ミモザは勝手にする」


「……そうですね、私もそう思います」


 ミモザ様とはまだ出会って間も無いが、頭の回転も早いし、ルキ様を地獄に落とす計画や今回の仕返しの提案からも、悪どいことを結構平気でしてそうなんて印象がある。


「安心して、ミモザは犯罪には手を出していないから――ギリギリな」


「ギリギリなんですね」


 怖いからこれ以上は深掘りしないでおこう。


 それよりも、私にはコトコリス領でもう一つ、最後にしなければいけないことがある。


「ユウナ様! いやぁ、お疲れ様です!」

「どうぞ、こちらでゆっくりして行って下さい! 美味しいお茶とお菓子を用意してありますから!」


 土地の回復を終えると、見守っていたコトコリスの領民達から、歓声と拍手、そして労るような言葉があちらこちらから聞こえた。

 この人数、アクアの住民以外もいるな……


「大丈夫です、宿に戻ります」


「そうですか! では宿に最上級の食事をご用意いたします!」

「金に糸目はつけません!」

「新しい宝石やアクセサリーも用意しました!」


「いえ、そこまでしなくても大丈夫ですから」


「ファイナブル帝国の聖女であるユウナ様のためならば当然です!」


 ――ここに来た当初、エミルやお父様の真似をして、食事は私の好きなものじゃないと食べないやら、宝石やアクセサリー、入浴剤にアロマなど、我儘放題を要求していたけど、今はそれを止めた。


 何故なら、我儘言わなくても、コトコリスの領民達が過剰な接待をしてくるから!


 エミルの我儘に慣れ過ぎているコトコリスの領民達は、何かを言う前に全てを用意し、付き添い、賛辞を送ることを忘れない――過剰過ぎる!


 エミルはこれに喜んでいたの? 私、もう止めて! と思ってるんだけど!


「仕事はどうしたんですか? 折角大地が回復したのですから、土地を耕さなくて良いのですか?」


「いえいえ、ユウナ様がいてくれれば、それに勝るものはありません!」


 他の土地では、皆、大地が回復したことに喜んで、すぐに大地と触れ合っていたのに……


「いてくれれば? 土地の回復は無事に終わりましたし、私は今日、帰りますよ」


「ええ!? そんなっ!」

「ずっとここにいて下さいユウナ様! ここはユウナ様の故郷ではありませんか!」


「……故郷? 皆さんに蔑まされ、何の愛着も無い故郷ですが?」


「え? いえ、それはその」


 エミルに騙され、唆されていたとしても、長い年月、コトコリスの領民達が私を見下して蔑んできたことを、私は忘れていない。


「全てはエミル様の所為です! あんな偽物の聖女の所為で、私達は長い間誤解していたんです!」

「ずっとあの女の我儘で迷惑していたんです! 素晴らしいユウナ様の悪口も平気で言うし、最低な女ですよ!」


「……」


 否定はしない、エミルなんて嫌い、最低だと、私もそう思ってる。

 でも、私は心が狭いの。例えエミルに騙されていたとしても、全てを許すことは出来ない。虐めて、私をずっと一人ぼっちにしていたのは事実だもの。こんなに簡単に、何も無かったように手のひらを返すような人達、聖女である私を利用しようとする人達なんて、どうしても好きになれない。


「貴方達が望むのは聖女の力でしょう? 今まで聖女の力で楽して暮らしてきましたもんね」


 コトコリスの領民達は、エミルの扱いに長けていた。彼女を常に褒め称え、好きなものを用意し、彼女の望むことをする。

 エミルが姉を非難すれば同調し、姉を孤独にさせたい気持ちを汲んで、姉を無視し、孤独に追い込んだ。そうしてコトコリスの領民達は、聖女の恩恵を受けていた。


「今度は私に取り入るためにエミルを非難するんですか? あれだけ媚びを売っていたのに、現金なものですね」


「それは、その、聖女に媚びを売るのは当然のことでして」


「残念ですが、私はここに留まる気はありません。聖女として活動するためにも、帝都近くにいた方が都合が良いですから」


 こんな辺境の領土、行くのも戻るのも苦労します。帝都なら中心部にありますし、どこにでも行きやすいし、戻りやすいですからね。


「そんなっ! 聖女の力が無くなれば、またこの地は枯れ果ててしまいます!」


「聖女の力が無くなっても、適切なケアを続ければ、大地は枯れ果てたりしません」


「そ、それでは、そのっ」


「どうしました? ずっと豊作ではいられないから、楽して稼げなくなりますか? それに聖女がいなければ、誰にも見向きもされない、辺境の領土に逆戻りですしね」


 コトコリス領は、聖女が産まれて、恩恵を一身に受けた土地だった。聖女のおかげで、辺境で苦しんだ生活から抜け出せることが出来た領土だった。


「分かっていらっしゃるなら、この地にいて下さい!」


「どうして私が、何の愛着も無い故郷のために生きなきゃならないの? ふざけないでよね」


「! ユ、ユウナ様……」


「私がここに来るのは、これが最後です。今後、この地が枯れ果てようと、私が助けに来ることはありません」

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