第43話私が幸せなら幸せでしょう?

 


 一斉にコトコリス男爵邸に向かうアクアの住民達。

 これでお父様も、エミルが偽物の聖女だとお認めにならざる得ないでしょう。

 何せコトコリス領は狭い。アクアの住民達に嘘がバレてしまったんだから、お父様が認めようと認めまいと、真実はコトコリス領全体に広がる。

 お父様やエミルにとっては公開処刑のようなもので、屈辱的でしょうけど。


「ユウナお姉様、酷いです!」


 私の関係者以外で一人、その場に取り残されたエミルは、大粒の涙を落としながら、私を責めた。


「ユウナお姉様が私のために、家族のために生きていてくれれば、私達家族は皆、幸せだったのに……! ユウナお姉様の所為で、家族が今、不幸になっているんですよ!!」


 またふざけたことを……


「幸せだったのはエミル達だけでしょ。私は全然幸せじゃなかった」


「そんなはずない! ユウナお姉様には、私がいてあげたじゃない!」


「……は?」


「両親に愛されなくても、町の人達に嫌われても、婚約者がいなくなっても、聖女じゃなくても、私が傍にいてあげたのに!」


 両親に愛されなかったのも、町の人に嫌われていたのも、婚約者を奪ったのも、私が聖女じゃなかったのも、全部全部、エミルの所為なのに。


「ずっと、皆に愛されている私が、嫌われ者のユウナお姉様を庇ってあげていたのに!」


 庇ってあげていた? 違うじゃない。エミルはただ、出来損ないの姉を庇う、心優しい妹を演出していただけじゃない。


「こんなにユウナお姉様を好きなのは、私だけなんですよ!? 私がいれば、ユウナお姉様は幸せでしょう? 、ユウナお姉様は幸せなんです!」


 エミルと一緒にいるのが嫌、心から不幸だと思う。エミルが私の傍で、私の代わりに皆に愛されて幸せそうにしている姿を見るのが、心底辛かった。

 ずっとずっと、私はエミルが嫌いなの。


「エミルがいない今の方が、私は幸せです」


「そんなの嘘です……!」


「エミルと一緒にいた時、コトコリス男爵家にいた時は、不幸だった、全然幸せじゃなかった。私は今が幸せ。エミルと離れて清々してる」


「止めてユウナお姉様! 嘘をつかないで!」


「私が好きなら、私の幸せを祈れるでしょう? 私は、エミルがいない方が幸せ。これからは私がエミルの代わりに聖女にとして表に立って、皆に感謝されて、愛される聖女になれるように努力します。だからエミルは、今までの私のように、隅っこで私の幸せを見ていて下さい。、エミルも幸せなはずだものね?」


「それ――は、ちがっ! 私が幸せじゃなきゃ……」


「どうして? エミルが言ったことでしょう」


 私とエミルの立場が変わっただけ。正確に言うなら、本物の聖女である私が、正しい位置に戻っただけ。


「さようならエミル、また明日、コトコリス男爵がエミルを偽物の聖女だと宣言する時に会えたらいいですね」


 エミルがその場に来る勇気があればですけど、その時には、今度は私が、エミルを庇ってあげますよ。『聖女である私に嫉妬した元妹が聖女の名を騙りましたが、どうかエミルを責めないで下さい』でしたっけ。

 可哀想で哀れな元妹を庇う健気な姉を演じてあげます。ただ、エミルが陰で私を悪く言って孤立させていたように、長い間、聖女の力を奪われて虐められてたことも伝えますよ。全てが平等でないとね。


 今まではずっと周りに誰かがいて、愛されるのが当然のエミルの周りには誰も人が残っておらず、ただ力なく一人立ち尽くすエミルを放って、私は私を守る大勢の人達と一緒に、その場を去った。




 ――――後日行われたお父様の公開処刑は、大勢のコトコリスの領民達が見守る中で行われた。


 エミルを偽物の聖女だと領民達の前で認めたお父様の顔は、今まで見たどの顔よりも歪んでいて、いい気味だと思った。そしてその場には、渦中となるエミルの姿は無かった。

 私に会えると知ったエミルが姿を現さないのは初めてだったけど、流石に皆から総攻撃で非難される場所には来ませんか。エミルに過保護なお母様にも止められたでしょうしね。


 どういう経緯であれ、コトコリス男爵は私の条件を守り、エミルを偽物の聖女だとお認めになったので、この日から私は聖女として、土地の回復に努めた。

 嫌がらせ目的でこの場に留まっていたけど、内心早く帰りたかったのでさくさく進め、一週間後には嘘のように回復し、緑溢れる大地が蘇った。


「疲れました……」


「お疲れ様ユウナ、大丈夫か?」


 早く帰りたくて力を込めていたことはレイン様には丸分かりのようで、心配そうに顔を覗き込まれた。


「大丈夫ですよ、心配してくれてありがとうございます」


 ここ一週間、エミルの襲撃も無く、お父様やお母様も静かだった。一つ気掛かりがあるとすれば、ここに来てから一切、ルキ様の姿を見ていないこと。

 ミモザ様には、『ついでにルキ兄様も苦しめて来て下さい』と言われていたのですが、姿を見せないことにはどうすることも出来ない。

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