第29話そのまま地獄に落ちて下さい
何度も手紙で私と会いたがったのは、口裏を合わせるためでもあったのでしょう。
よく私がルキ様に協力すると思いますよね。私がルキ様を好きだって前提で考えるからおかしなことになるんです。
好きなワケないでしょう、貴方みたいな最低な男。
「ルキ! お前まさか、全て嘘なのか!? この私を誑かそうとしたのか!?」
ゲオルグ様は予想通り、烈火のごとく怒り狂った。
「っぅ! ミモザ……お前っ!」
「ルキ兄様は調子に乗り過ぎました。ルキ兄様がシャイナクル侯爵家を継いでも、ロクな結果にはならないでしょう」
私に全てを話したのがミモザ様だと気付いたルキ様は彼を睨み付けたけど、ミモザ様は少しも怯むことなく、涼しい顔で言い返した。
「諦めて当主の座を僕に譲って、ルキ兄様はここからいなくなって下さい」
私も、その方が良いと思います。ルキ様に侯爵家当主の座は相応しくありません。
「ルキ様ってあの偽物のコトコリスの聖女結婚相手よね? ユウナ様の元婚約者の」
「エミル夫人が二人の仲を邪魔をして、引き裂かれたと聞いていましたのに、本当は違うのですね。ルキ様もエミル夫人と一緒にユウナ様を裏切ったんですわ」
「まぁ、シャイナクル侯爵令息ともあろうものが、愚かですわ」
私の暴露を聞いた貴族達は、一斉にルキ様に軽蔑の視線を向けた。
「ユ、ユウナ! お願いだ! 助けて欲しい! 全部エミルが悪いんだ! 俺はエミルに騙されていた被害者なんだ! 俺はずっとユウナのことが好きだったのに、あいつにそそのかされてたんだ!」
自分の立場が非常にまずいと気付いたルキ様は、縋るように私に声をかけた。
全てをエミルの所為にして、自分は悪くないと吹聴していたルキ様。それどころか、自分もエミルに騙された被害者で、私とルキ様はずっとお互いを思い合っていたと嘘をついた。
そんなあり得ない嘘、どうしてつき通せると思ったのでしょう。
「そそのかされていたとしても、私を裏切ったのは事実でしょう? それに、貴方が父――コトコリス男爵に色々と際どい助言をされていたこと、知っていますよ。今度は私という聖女を手に入れて、何をされようというのですか? 陛下に爵位のおねだりでもされますか?」
「! 五月蠅い、これ以上余計なことを言うな! 俺に自分を見てもらおうと必死だったクセに! 俺のことが好きなクセに! この俺が、誰にも愛されない、
「……好き? 私がルキ様を?」
私は、ルキ様なんて初めから好きじゃなかった。でも、それでも、ルキ様はエミルではなく、私を婚約者選んでくれたと思っていた。だから、私はルキ様を好きになりたいと思っていた。ルキ様と関係を築いていこうと思っていた。私なりに努力していたの。
貴方とエミルの浮気現場を見た時は、それなりにショックを受けたんですよ?
でも良かった、ルキ様が私に見向きもしなかったおかげで、最後まで好きにならずにすんだ。感謝しなきゃ。
冷たくしてくれてありがとう。だから私も、同じように返答してあげますね。
「私が
貴方みたいな最低な男を好きにならなくて正解です。
「っ! お前っ!」
「もういい! ルキ、お前の処分は後で追って知らせる。今すぐこの場から立ち去れ!」
ゲオルグ様は自分の息子の愚行に頭を抱えながら、控えていた侍従達に合図し、ルキを外に追い出すよう指示した。
「父様! 違います、誤解です! お願いです! 俺がシャイナクル侯爵家の跡を継ぐべきなんです! 俺は聖女を手に入れて、家をもっと繁栄させることが出来ます! 聖女の力さえあれば、レイン様にだって勝てます! 全てが上手くいくんです! そのために――」
「もう喋るな! さっさとここから出て行け!」
「父様!」
侍従達に引っ張られるようにして、ルキ様はこの場を去った。
「ユウナ様、愚息が大変失礼致しました」
ゲオルグ様とミモザ様は、ルキ様に代わって、私に深く頭を下げた。
「いいえ、お二人は何も悪くありません」
「温かいお言葉、感謝します。しかし、愚息の愚行を見抜けなかった私にも責任があります。何かおかしいとは思っていたのですが、偽物の聖女を語るほどの悪女であるエミルに愚息も上手く騙されたのだと思ってしまい……」
真面目で実直な方が父親なのに、それがどうしてあんなふざけた息子が出来るんだろう。弟二人が優秀過ぎた故の、劣等感がそうさせたのでしょうか。
「レイン様も申し訳ない。私がルキに、『優秀なレイン様を少しは見習え』と言っていたので、それでレイン様を目の敵にするようになったんだと思います」
「僕は構いません。僕が優秀なのは事実ですから」
それをサラリと言えて、嫌味に聞こえないのがレイン様の凄いところですよね。
「ユウナ様、シャイナクル侯爵家はルキ兄様に代わってユウナ様にどのような償いも行います。何かご要望があれば、遠慮なく仰って下さい」
ルキ様を地獄に落とす計画を立てた張本人であるミモザ様は、兄に代わって償う覚悟も最初から持っていたようで、私にそう、声をかけた。
二人は悪くない。私はそう思っているけど、このままじゃ納得されなさそう。
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