第28話兄も一緒に連れて行って下さい、地獄に
「そこで、ユウナ様にお願いがあるのですが」
「お願い?」
「はい、ユウナ様に是非、ご協力頂きたいことがあるんです」
「……それは、何ですか?」
「兄も、エミル夫人と一緒に連れて行って欲しいんです、地獄に」
笑顔を保ったまま出てくるミモザ様の言葉はとても強烈で――――一瞬で心を掴まれた。
「何をすればいいんですか?」
私を裏切ってまで手に入れたエミルとの愛なのだから、どうせなら最後まで貫き通してもらう。夫婦ならば、地獄まで一緒に行って下さい。その為のお手伝いなら、私は喜んで手を貸してあげます。
***
「ファイナブル帝国の聖女ユウナ様にご挨拶申し上げます」
ルキ様やミモザ様の父親であり、シャイナクル侯爵家当主の《ゲオルグ》様は、私に向かって丁寧に頭を下げた。
以前までの男爵令嬢である立場からしたら信じられない光景だけど、こうして色々な人と挨拶を交わしていると、流石に慣れた。初期ほどの戸惑いはない。それほど、ファイナブル帝国の聖女の称号は偉大なんです。
「ユウナ様、お久しぶりです。相変わらずお美しいですね、早くお会いしたかったです」
「……お久しぶりですルキ様」
よく言うよ。私と婚約していた時はそんなこと少しも言わなかったくせに。
「レイン様、ユウナ様をダンスにお誘いしてもいいですか? 俺はユウナ様とは個人的に親しい間柄なんです」
は?
「レイン様はどうせ、形だけのパートナーでしょう? ユウナ様が好意があるのは、俺ですから」
自意識過剰か。
どこで? どこでそう思いました? 私、貴方から送られてきた贈り物も手紙も、封も切らずに送り返しているんですけど? それでどうやって私がルキ様に好意を持っていると思われます?
「ユウナ様には勘違いから悲しい思いをさせてしまっていたので、きちんと誤解を解いておきたいんです。そして今度こそ、ユウナ様を大切にすると誓いたいんです」
――嘘、嘘ばっかり。
まるで自分が私、ファイナブル帝国の聖女と親しい特別な間柄であると周りに、父親に示すように話すルキ様。私のことなんて今まで見向きもしなかったくせに、聖女になった途端、私を利用しようとするその魂胆がムカつく。だから――
「私は一切、誤解なんてしていませんよ」
――きっちり地獄に落としてあげますね。
「ルキ様が私と婚約中にエミルと浮気して、二股かけて結婚してしまったこと、ちゃんと理解しています」
「――なっ!?」
知っていますか? 私はね、エミル同様、貴方のことも大嫌いなんですよ。
「何を言っているんですかユウナ様、その件は誤解で――」
「だから、何も誤解なんてしていません。貴方が妹に頼まれて、結婚後も嫌々、私との婚約を続けていたのも知っています」
「待てユウナ! これ以上喋るな!」
「でも、お気になさらないでください。私は最初からルキ様を好きじゃなかったので、大丈夫です。そりゃあ多少は、婚約者としてこれから上手くやっていかなきゃって、関係を良好にしようと頑張っていましたが、妹が好きだったなら仕方ありません。浮気現場を目撃されたからって逆切れして婚約破棄を告げるような男、こちらからお断りです」
「止めろ!」
懇切丁寧に、私とルキ様の間で起こった事象を説明する。わざと大きな声で、ゲオルグ様や周りに聞こえるように――
「……ルキ、どういう事だ? 聞いていた話と違うようだが?」
「あ、いえ、それは――」
ルキ様は父親の跡を継いで、シャイナクル侯爵の座を手に入れたい。その為に、優秀な弟にその座を奪われないために、結婚相手に聖女を手に入れようとした。
『父に全てを暴露して欲しいんです。そして、兄を失脚させて下さい。地獄に、落として下さい』
ミモザ様の提案に乗りましょう。
妹や両親同様、私に酷い態度を取っておいて、今もまだ、聖女になった私を利用しようとするルキ様。大嫌いです、エミルと一緒に、地獄に落ちて下さい。
「っ! 何を考えてるユウナ!? お前はただ黙って俺に合わせていれば良かったのに!」
「何で私が、『エミルが嘘をついてルキ様と私の仲を裂こうとした』なんて言わなきゃならないんですか。で、後は『私はずっとルキ様が好きで、ルキ様は妹に騙されていただけで何も悪くないんです』ですか? ルキ様もエミル同様、嘘をついて私を貶めた張本人なのに、なんで私が庇わないといけないんですか?」
「俺のことが好きなら、それくらいするのが当然だろう!」
「ルキ様のことなんて一欠けらも好きじゃないんです!」
ルキ様は、エミルが偽物の聖女だと分かったあと、すぐにシャイナクル侯爵家に戻り、ゲオルグ様に嘘をついた。
『俺は騙されていたんです! エミルが、俺とユウナ様の仲を引き裂いたんです! 俺とユウナ様は、隠れてずっと愛し合っていたんです!』
ルキ様はすぐにエミルと離婚したかった。そして、今度は私と結婚しようとした。でもそれを、ミモザ様は怪しみ、阻止した。
すぐに全てを知っていそうなレイン様に話を聞き、こうして、兄を地獄に落とす計画を立てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。