第31話宴の裏で――エミルの気持ち
◇◇◇
――――私にとって宴は、良い思い出がいっぱい詰まったものだ。
皆が私をお祝いしてくれて、チヤホヤしてくれて、自分が愛されているんだって再認識させてくれる楽しい催し。
それに比べて、ユウナお姉様は可哀想。
自分が一人ぼっちで、誰にも愛されていないのを再認識するための催し。
可哀想なユウナお姉様。やっぱり、ユウナお姉様には私だけ。私がユウナお姉様を好きでいてあげているから、ユウナお姉様は一人ぼっちじゃない。ああ、私って、なんて優しくて姉想いの妹なんだろう。
これからもずっと、私だけのユウナお姉様でいて下さいね。
「――お帰り下さい」
今日の夕刻、聖女を祝う宴が皇宮で開かれると聞き、コトコリスの聖女である私は、当然のように皇宮に来た。それなのに、皇宮の門番に中に入ることを許されず、鬼のような形相で帰れと言われた。
「コトコリス男爵家には招待状を出していません。ご遠慮願います」
この人、何言ってるの? 私がいるのに、皇宮の中に入れないなんて、どういうつもり? 確かに招待状は届いてなかったけど、何かの手違いに決まってるのに。
「おい! 皇宮の宴が開かれるからと、折角コトコリス領から来たと言うのに、どういう事だ!?」
お父様は凄い怒って、門番を怒鳴りつけた。それは怒って当然よ、だって私がいるのに――今日は、聖女を祝う宴でしょう? それなら、主役の私がいないと始まらないのに――
「今日の宴はファイナブル帝国の聖女ユウナ様を祝う宴です。そんなユウナ様に酷い仕打ちをしていた方々を宴の会場に入れるわけにはいきません」
「ユウナ、お姉様を祝う宴……?」
「それは何かの間違いだ! ユウナ様は聖女の名を語る偽物だ! ユウナ様はエミルから聖女の力を奪ったんだ! まがい物だ!」
「――何の騒ぎだ」
「アイナクラ公爵様! 丁度良い所に! 中に入れて下さい!」
「またコトコリス男爵か……メルトでハッキリとユウナ様が本物の聖女だと証明されたというのに、懲りない男だ」
この人、確かいつも陛下と一緒にいる怖い人だわ……! この前お会いした時も怖い顔をしていて、私、とても傷付いたのに、また今日も、いつも以上に怖い顔をしています……酷い!
「あれは違います! ユウナ様が何か小細工をしたに決まっています! ワシはそれを証明し、エミルこそが本物の聖女であると――」
「その議論はもう終わったんだ! お前の娘が祈った場所は、未だに土地が回復されていない! 土地が回復されていない以上、お前の娘は偽物だ! これ以上ここに居座るなら、その偽物の聖女諸共牢に叩き込んでやるぞ!」
「牢だなんて……! い、嫌ですお父様っ! 牢屋に入るのは嫌!」
「か、帰ります! 帰りますから、お許し下さいアイナクラ公爵様!」
「さっさと帰れ、ユウナ様にその不愉快な顔が見つかる前にな」
顔の怖い人は、最後まで怖いまま、私達の前から姿を消した。
怖い……どうして? 今までは、私が帰ろうとしたら、頭を地面に擦りつけてでも、私に許しを乞うていたのに。こんなのって酷い!
「何てことだ! この宴で、エミルへの支援を止めた奴等を説得して、支援を続けさせようと思っていたのに!」
ユウナお姉様がファイナブル帝国の聖女になってからというもの、今までコトコリスの聖女である私のために家を助けてくれていた人達からの支援が途切れた。
その所為で、私達の家の財政は急に困ることになった。
「お父様……」
「大丈夫だエミル。今はユウナに邪魔されてエミルが偽物の聖女だと言われているが、いずれユウナのほうが偽物の聖女だと気付くはず! そうなった時に後悔するのはあいつ等の方だ!」
「可愛い妹の邪魔をするなんて、ユウナは最低の姉だわ!」
「お母様」
お父様もお母様も、ユウナお姉様が聖女だと信じなかった。私のことを、聖女だと信じてくれた。そんな二人のためにも、やっぱり、私が本物の聖女に戻るべきだわ。その方が、家族皆が幸せになれるの。
どうしてユウナお姉様は、それが分からないのかしら?
「あ! 《ヒュウイシ》様!」
宴が開かれている皇宮から出て来た人影に、見覚えがあった。確かゴルイコ子爵令息で、よく私のために開かれた宴に参加していた人。
「エミル夫人? どうしてこんな所に……」
「ユウナお姉様に意地悪されて、中に入れなくて困っていたんです」
ヒュウイシ様は私のことが好きで、最後までルキ様と私を取り合っていた。ルキ様と結婚してからも、私を諦めきれずに、ずっと私に手紙を書いたり、贈り物をしてくれていた。
私がユウナお姉様に意地悪されたと泣きながら言えば、聞こえるようにユウナお姉様を悪く言って、ユウナお姉様を傷付けてくれた。
「ゴルイコ子爵令息か、丁度良いところに! 中の様子はどうなっている? ユウナは? あの出来損ないが余計な真似をしでかすから面倒なことになっているんだ! さっさと中の様子を教えろ! 隙あらば、あの出来損ないの娘をここに引きずり出して来い!」
お父様もヒュウイシ様の姿を確認すると、早速、お願い事をした。
今までヒュウイシ様は、私達のお願いを何でも聞き入れてくれた。家に多額の支援もしてくれたし、欲しい物があるとおねだりすれば、何でも手に入れてくれた。きっと、今回も私達の力になってくれるはず――そう、信じて疑っていなかった。
「はぁ、馬鹿なんですか? 何で私が、貴女達のためにそんなことしないといけないんですか」
「――え?」
それなのに、ヒュウイシ様からは、今まで見たことが無い、冷たい顔で断られた。
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