第43話 第二カンモンのボス
しばらくの間、何もない配信が続いた。
仕方がないので雑談で間を埋めたが、そんな油断を演出してみても一向にモンスターが目の前に現れる気配はない。東京第52ダンジョンの第二区画にいるモンスターを狩り尽くしたという事でもあるまいに、本当に静かだ。
それでも一応、第二区画のカンモンは目指そうと思って歩いていると、散歩気分の探索ながら、第一区画でも見たような特殊な壁が見えてきた。
第二カンモンの入り口だ。
「え、もう第二カンモン?」
:見つけるの早いって。お話しか聞いてないって
:このスピード、RTAかよ
:キラースクリーマーちゃんの配信は緊張感がないよなー
:それがいいとも言う
:キラースクリーマーちゃんの配信でしか見られないものがある
色々と言ってくれるのは、この際ありがたいと思っておこう。
ただまあ、モンスターと戦闘していないのだから、時間があまり過ぎないというのはある。探索を切り上げるまでには、やはりまだ余裕がありそうだ。攻略しても同じだろう。
「カンモン、挑戦しようと思います」
:2回連続のカンモンって体力保つのか?
:キラースクリーマーちゃんの様子なら余裕そうだけど
:これ、本当にダンジョンで生活できる魔力量なのでは?
:休憩いらずの体力、怖っ
:どんな生活してたらこうなるですかね
「わ、わかりません……」
スキルや魔力量の初期値は運だから、こればっかりは僕にはわからない。
まだまだ初心者の僕じゃ、特別な訓練はできていない。しいて言えば探索者になるためのトレーニングくらいだが、そんなもの部活動みたいなものだ。となるとやはり、運によるところが大きいと思う。
そうだよね?
ということで、その運の要素を減らすため、カンモンに挑戦する前の情報収集をしておこう。
今回のカンモンの前に設置されている独自の板による表示は、がんばれば少し読めそうな気がする。
「黒騎士? と書かれている気がしますね」
:それはやばい
:区画一つ進んでランクが一つ上がってるのでは?
:それならFランクダンジョンにはならないだろ
:でも、あのペンギンってD-くらいないか?
『第二区画は全体でF+くらいのランクではあるようなのだよ』
「ランク上がってんだ」
東京第49ダンジョンだと層ごとのランク変動すら一応、ほぼなかったらしい。
それを考えると、このランク変動が東京第52におけるイレギュラーと言えなくもない。
『ちなみにあのペンギン、コールダー・ペンギンは不意打ちによる高い攻撃力でランクを高く設定されているらしい』
「今さらどうも。そういう説明は都度頼むわ」
:お願いしたいところ
:誰かに解説してほしい
:AIっぽい!
:紹介コーナーきたか?
『面倒くさいから嫌なのだよ』
「おい」
まあ、無神原のやる気で頼りできることと言えば、発明に関してだけだ。こうして教えてくれただけよしとしよう。
さあ、黒騎士、勝負しようや。
「……今度こそ、今度こそは」
誰かの声が聞こえた気がしたが、気のせいか?
僕は構わずカンモンの中に入った。
今回は、第一カンモンの草原とは打って変わってダンジョン然とした場所だった。
ただ、じめっとしていて、ここまで歩いてきていた東京第52ダンジョンの雰囲気よりも陰気な印象を受ける。
まるで、死霊か何かが潜んでいそうな暗い雰囲気をまとっている気がした。
そんな一室に、すでに臨戦体制といった様子で、名の通りの黒騎士が一体、僕をにらんできていた。
そして、つかつかと馬を歩かせながら、ゆったりとした足取りでこちらへ向かってくる。
黒い甲冑で黒い馬に乗ったそのまま黒騎士。
サイズ感は普通というと表現が貧弱だが、馬に人間が乗っているものと大差ないせいで、これまでの巨体シリーズと比べ、どうにもちんまりとした印象を受けてしまう。
だが、これまで視聴者の方たちと話していたオーラの件ではないが、何か違うものを感じる。別段、弱いという事はないのだろう。その動き一つ一つがとても洗練されていて無駄がなさそうに見えた。まるで、芸能でも魅せられているかのよう。
「ふっ」
瞬間、黒騎士の姿が少しだけ大きくなったかと思うと、僕の心臓を的確に狙い、槍で突いてきた。
回避が間に合っていなければ、服の一部くらい持っていかれていたかもしれないような無駄のない突き。
戦闘経験の浅さからくる実力差ってところかもしれない。僕がかわせたのは完全にコンパクトによる補助ありきだ。
すぐさま距離を取り、僕が警戒しながら黒騎士を観察していると、黒騎士はかわされると思っていなかったのか、ゆっくりと向きを変えて僕を見てきた。
:いや、待て待て待て、息が詰まるって
:何これ、急展開すぎない?
:これ本当にFランクだよね?
:カンモンはどれだけ低ランクでも普通はパーティで挑むからな
:タンクありきの攻撃ってことよ
「うっ」
二度目の突きはきっちりと受け止めた。
「……」
言葉には出なかったが、ヤリを掴まれた事を黒騎士が驚いたのはわかる。
その様子に思わず笑ってしまったかもしれない。
僕は黒騎士の槍を押し返し、その態勢を崩してから頭を狙って飛びかかった。
その場のジャンプだ。次撃以降を見込んでの攻撃、そのつもりだった。
だが、黒騎士の首はぽーん、と抵抗感なくあっさりと殴り飛ばせてしまった。
「えっ」
予想外の出来事に虚をつかれる。そのせいでカウンターに気づけなかった。横腹を何かで薙ぎ払われる感覚。
「くはっ」
受け身を取りながら確認すると、胴体だけの状態になった黒騎士が僕に対してヤリでなぎはらったようだった。
一体何が起きているのかわからない。
:ちょっと待て、あれ倒れてるだろ
:おいアイツ首拾ってるぞ
:デュラハンナイトってところか
:それ、絶対低ランクのモンスターじゃないよね
:コールダー・ペンギンじゃないけど、キラーアイアン系のモンスター?
よくわからないが、なんだか今までにないくらい強敵な感じがある。
なぎはらわれた横腹のあたりは、さして痛みはないけれど、たしかに攻撃をされた実感がある。
「すげぇ、戦ってる」
:キラースクリーマーちゃん、目覚めちゃってるよこれ
:なんかキマってんな
:戦いに飢えてたヤツの反応……
:やっぱりそっち側か
:あーあ、本性表しちゃった
:今の食らって無事なのなんなん?
これもなんでかわからないけど、今ものすごく楽しい。
戦闘を楽しいと思えるなんて、今まで一度も思ってこなかった。
探索者になりたいと思い努力をしていた時でさえ、僕はその探索者という名声に踊らされていたように思う。スキルという付随物に好奇心を示していただけだった気がする。
だが、今は違う。
この戦いが続くことを望んでいる。
一撃で終わらない戦闘がこんなに楽しかったなんて。
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