第18話 なんか博士が拗ねた
なんだか昨日の探索帰りとはまた違った意味で体が疲れている気がする。
ただ、ひとまずは喫緊の目標であるミクルメクミラクルのみなさんと会うことはできたし、キラースクリーマーなんていう汚名の上書きは達成できた(と思う)し、大丈夫だろう。
今はというと、ドロップ品を無神原に渡すため無神原のアトリエにやってきている。
「いつもの場所みたいになって……、ないな」
まだまだ拠点と呼ぶほど安心して過ごせる場所ではない。まあでも、家に帰って妹との関係とか、妹との関係とか、妹との関係とかに悩むよりはマシだ。
あと少し、学校での自分の立ち位置とか人間関係とか、他の家族との関係とかもいったん棚上げにしておきたい。
「探索者だからって理由でなんとかならないかな? ならないよなぁ。はぁ……」
僕にそこまでの実績はないし……、そんなもの望むべくもない。
今のところ、ミクルメクミラクルのみなさんや受付の明尾さんに持ち上げられているのも、これまでじゃなくてこれからについてだろうし。
普通にまだまだ未熟なんだよな。がんばろう。
ま、逆に実績があっても、なんかそれで幅を利かせてるみたいに思われるのも嫌だしなぁ……。
「しっかし遅いな」
こうして無駄に思考を続けているのは、何も哲学者になったわけじゃない。無神原のアトリエの仕組みのせいだ。無神原のアトリエの入り口には認証システムが付いている。そのせいで、たいてい無神原がいるエリアに行くまで時間がかかるのだが、今はどういうわけか自動ドアが私のために開いてくれない。
まさか自動ドアに嫌われた? いや、それはないな。
「故障か?」
「私の発明品は故障しない」
「いつも故障しっぱなしじゃないか。おい無神原、いるなら開けてくれよ」
「…………しまった」
中から聞こえてきた無神原の声に呼びかけるも無視された。何か言った気もしたがドアを開けてくれる様子はない。
なんで?
「おい。僕だよ。丸木だよ」
「ボクボク詐欺かい? 残念ながら、私は丸木なんてヤツは知らないな。私のアトリエには私の発明に対する理解者だけしか来ないはずだ」
「なんだよそれ」
どうやらどこかでコイツの機嫌を損ねたらしい。語気がいつもより少し荒い。
多分、配信での反応が予想よりも低かったんだな。僕に期待されても困るというのに。
「悪かったよ。僕ももっとがんばるべきだった。ごめんな。力になってやれなくて。俺バカだからさ、無神原の発明のよさとか理解してやれてないけど、でも、色々なところから連絡が来てるんだろ? それは無神原の発明が多くの人に認められてるってことじゃんか」
「……」
まだダメか……、いいや、もう一押しだ。
「ほら、僕だって魔法生成AIをもっと上手く使えるようになりたくてここに来たんだよ。そうしたらきっと、もっと人の役に立つって理解してもらえるだろうからさ。だから、魔法生成AIの調整をお前に頼みたいんだよ。それに、ダンジョンで得たドロップ品。きっとお前ならうまいこと使えるんだろ? これ使って改良してくれよ」
「そういうことなら任せてくれ!」
じゃっかんいつもよりも見た目ぼさぼさになっている無神原が嬉しそうに飛び出してきた。
お前のほうが出てくるんかい。
「ってかなに? 泥棒にでも入られたのか?」
「違う。そんな見た目はしていない。私はなにも動揺なんてしてない」
「いや、普通に変なヤツが来たとかなら言えよ? お前、スキル持ちには無敵でも、その辺のチンピラには勝てないんだから」
「うるさい。急に優しくするな。君がさっさと帰ってこないからだ。ほら、入りたまえ」
「なんだよそれ。ま、いいか。はいはい」
本当、無神原が尊大じゃないと調子狂うよな。まあ、時々よくわからない理由で拗ねるのもコイツらしいか。
「……まったく、私抜きで知らないヤツと楽しそうにして」
「なんだって?」
「なんでもないと言ってるだろう」
変な無神原。いや、無神原はいつも変か。
「それで? 魔法生成AIの調整って本当に必要なのか? それとももう少し試運転とかしたほうがいいのか?」
「いや、もうすでに案はできてる」
「さすがだな」
「まあ、それほどでもないさ」
声の調子が戻ってきている。今回の拗ねはこれくらいで十分そうだな。僕もいつもの調子に戻ろう。
「で? どうするんだ?」
改良と言っても、僕ができることはほとんどない。というよりもない。僕に発明の素養はないし、使えそうなスキルも今のところなさそうだ。だからこそ、コイツと付き合っていても劣等感を抱くことはなかったんだろうと思う。なぜか無神原よりよほどすごそうなことをしているじいさんばあさんが、無神原のアトリエを訪れたその後、隠居生活を送り出したという話は数え出せばキリがない。
まあ、そんなわけで、無神原にはわかる人にはわかる何かがある。だから、わからない僕は聞くだけ聞いて、結局使うことになる前に、ヤバそうな部分に文句を言っておこう。
「やはり、魔力の変換効率から考えてできるだけ直接肌に身につけ、あまりダメージを受けないような部位に装備できるといいらしいとわかった」
「今回と前回のヤツで一体何がわかったのか、僕にはさっぱりだが、まあ、出力はたしかに上がってたし、使い心地も気持ちラクだったかもな」
「そうだろうそうだろう? 魔力の変換効率が、魔法生成AIのようなアイテムにとっては命なんだ」
と、そこで配信の時のことを思い返す。
「お前、自分のこと博士とか言ってなかった?」
「そうだからな」
偉そうに……、って、そっちじゃなかった。
「魔法生成AIを使うのに求められる魔力量、あれってハッタリか?」
「なにを今さら」
あからさまに驚かれた。
「そんな驚くことか?」
「いや、これまで実験に協力してくれていた探索者なら事実だとわかる内容さ」
「それは僕が探索者として未熟ってことか?」
「そうは言っていないが、そう聞こえたならそうなんだろうな」
「くっ……」
調子が戻ってきたと思ったらすぐさまニヤニヤポイントでニヤつかれた。悔しい。
「まあ、魔力が必要なだけに、魔法生成AIについては今まで君に使ってもらったことはないから知らなくても当然だがね」
それにこいつ、僕の秘密は気にするくせに僕に秘密は作るんだな。まあいいけど。
「ただそれでも、君以外に絶対に使えないわけではないだろう。廉価版や試作版を作って、そっとを周りには売ることになると思うよ」
「ふーん。ま、今は炎熱魔法しか使えないしな」
「ふっふっふ。魔法生成AIを侮るなかれ。君のデータのおかげで攻撃種類くらいは増やしても問題なさそうだ。君が炎熱系の魔法だけがいいのであればそのままでもいいが、どうかな?」
僕の予想外のことをドヤ顔で言ってくる無神原。
顔がウザいが、マジか。
「そんなにできるのものなのか?」
「もちろんだとも。私を誰だと思ってる。無神原相博士だぞ?」
クッソ偉そうだが、コイツが言ってるってことは、実際に動くことは確かだろう。その後どうなるかは知らないが、動くことだけは保証できる。本当に、その後どうなるか知らないが……。あー嫌だ!
とはいえ、安全に動くなら魔法の種類が増えるのはとてもいい提案だ。
悩む悩む。作り手が無神原でなければなぁ。
「いいのかい? いらないのかい? 意気地なしめ。そんなだから目の前の宝を見逃すのさ」
「わかったよ。簡単なヤツでいいから増やしてくれ。炎と氷をどっちも使えるのとかあこがれだったんだよ。ここまできたら乗ってやらぁ!」
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