第17話 キラースクリーマーと会った後:ミクル視点

ミクル視点


「ふぅー……」


 嵐のようにというか、彗星のごとく現れて去っていったキラースクリーマーちゃん、もといあきらちゃん。その背中を見送ったら体から力が抜けてしまった。


「いやぁ。こんなにすぐに会えるなんて思ってなかったからびっくりしちゃった」

「まあな。昨日はどうやってもダンジョン外で実物を拝めなかったってのに、人生ってのはわからないぜ」

「ね。本当に探索者初めてから驚きでいっぱいだよ」

「だが、Gランクのダンジョンでピンチになるとは思ってなかっただけに、助けられた恩は返したかったからな」


 人牙ちゃんの言うとおり、命の恩人に報いたい、というのが私たちの当初目標だった。当然、助けてもらった感謝を直接伝えるためだ。


「あきらちゃん、すっごいいい子だったね」

「そうッスねぇ。ジブンのがよっぽど強いのに、ウチらのことを立てるのも忘れていないなんて、すごいッスよ」

「好恵でもそう思うのか?」

「それ、どういう意味っすか?」


 ギロリと人牙ちゃんをにらむ好恵ちゃん。


「ちょっと落ち着いて」

「ウチは落ち着いてるッスよ。で、どういう意味っすか?」

「意味も何も、好恵ってよく人のこと見て場に即した言葉を選択してるだろ? そういう能力があるヤツから見てもなのかなって思っただけだ」

「そんな戦いみたいに話してないッスから。ねぇ、みゆきちゃん」

「みゆきもじんがちゃんと同じ意見かな」

「そんなぁ。実来ぅ」

「はいはい」


 泣きついてくる好恵ちゃんの頭を撫でてあげる。

 人牙ちゃんの直接的な言い方にヒヤヒヤしたけど、いつもの流れでほっとした。みんなとは、しばらく一緒に探索をしているけれど、未だにケンカが絶えないからヒヤヒヤされっぱなしだ。


 それでも今は、あきらちゃんのことを考えてしまう。

 みんなの、特に好恵ちゃんが言うように、あきらちゃんはいい子なだけじゃなくって周りも見えていたと思う。本当に、初対面のイメージとは大違いでびっくりだった。


「でも、怒ってなくってよかったの」

「まあね。叫んで探索してたから、邪魔して怒らせちゃったのかと思ってたもんね」

「それはそうなんだよな。アタシらが助かったと思ってほうけてたのもあるが、ギルドへ行って聞いたら飛び出してったってんだからな」

「そうそう。忙しい人だって思ったよ」


 私たちとしては、キラーアイアンなんてモンスターを倒したのだから、報告なりなんなりを行なっているだろうと思っていただけに、ドロップ品を一つも回収せず、ギルドも飛び出していった人なんて、きっと怖い人なんだろうと勝手に予想していた。

 けれども、私たちが勝手に映してしまった配信の様子から、私たちより少し年下の女の子だってわかってちょっと安心した。でも、まだやっぱり怖かったから、本人の配信を見て、ようやく対面してって段階を踏めて本当によかった。


「すぐに会ってたら、それこそ迷惑かけてたかもね」

「ありゃ、勘違いされるタイプッスよ」

「好恵ちゃんもそう思う?」

「完全にネットの評判と乖離してるんスよ? 多分、ほとんどの人は、実際に目の前にしても、あのキラースクリーマーだってわかんないんじゃないっスかね」

「好恵ちゃん! その名前で呼ばれるのは嫌そうだったでしょ」


 一応、スクリーマーっちとか変な呼び方は慎むようにここで好恵ちゃんには釘を刺しておく。確かにランクや探索歴は上かもしれないけど、実力の上下は火を見るより明らかだから。


「そうッスね。あきらちゃんだったッスか」

「そう。助けてくれたんだから敬意を払わないと」

「でも、怖がり損って感じだったの」

「イメージは怖そうでも大丈夫だったでしょ?」

「「「おい」」」

「痛い痛い! みんなやめて!」


 急に3人から小突かれれるのは、私が一番怖がっていたからで、私が一番あきらちゃんの配信で手の平を返したからだ。

 わかってる。人でなしなのは私だってわかってる。でも、情報で女の子だってわかって、薄ぼんやりと映ってるだけの映像で年下っぽいってわかって、ギルドの受付の人の話で年下は確実ってわかっても、キラーアイアンを目の前で倒した衝撃は拭えないじゃん。


「本当に年下の女の子だったなんてね」

「あのつやつや感は本当に若いの。いいなぁ」

「そんなこと言ってると私たちが年寄りみたいだよ。みゆきちゃん」

「女子高生からしたらみゆきたちだっておばさんかもしれないの」

「言わないで! 聞きたくない。それが一番聞きたくない!」


 きっと直接言わなかっただけで、画面越しで見るより肌荒れてるなぁ、とか思われたことなんて考えたくない!


「ま、ソロであれじゃ、アタシらは接点を持てたのが奇跡だよなぁ」

「人牙ちゃんは本当に気にしてないよね」

「何が?」

「なんでもない」


 そんな性格と健康的な肉体がうらやましいです。リーダー権限で取り上げたいくらい。


「でも、配信でも触れてたけど、魔力がどうこうって話。やっぱり、異常だったよ」

「あれは、普通に生活してるほうがおかしいレベルッスね」

「競えるレベルじゃないの。比較しても仕方ないよ」

「魔力が見えたのは勘違いじゃなかったな」

「うん」


 キラーアイアンを殴り飛ばした衝撃が、それこそ衝撃波みたいなものが、目で見えた気がしたけれど、それは、あきらちゃんの魔力量が異常に多いことで、オーラみたいに体から漏れ出ていたからだった。

 スキルは結局秘密にしているみたいだったけれど、あれなら、何ができても驚かない。魔法生成AIとやらも、もしかしたらスキルがらみなのかもしれないし。


「ま、だからこそ先輩扱いしてくれるのが嬉しいんじゃねぇか」

「結局最初に戻ってくるのね」


 でも、その通りかもしれない。なんだかんだ昔からの友だちとたまたま探索者になれて、運よく仲違いもせずパーティを組んでやってこれちゃったから、そこまで他の探索者の人たちと深い関わりを持ってこなかった。それだけに、今回、あきらちゃんみたいな後輩、って言っていいのかわからない子と知り合えたのは、いい刺激になったと思う。実際、少しマンネリ化して落ちてきていたみんなのモチベーションは目に見えて上がっているし。


「明日からの探索もがんばろっか」

「あっという間にCランクなんて追い抜いて駆け上がっちゃうんだろうな」

「今じゃ、ウチらのほうが初心者みたいッスもんね」

「言えてる」

「みゆきたちとあきらちゃんを比べても仕方がないの。影ながら応援して、みゆきたちはみゆきたちにできることをやればいいの。それが、ミクルメクミラクルだから」

「そうだね。そうしよっか」


 あきらちゃんは私たちの灯台みたいな存在ってことで、明日からまた探索をがんばるかな。

 せめて、あきらちゃんが誇れる先輩であり続けられるように。

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