第16話 ミクルメクミラクル!3

 なんだろうこれ。なんだろうこれ!


 自分が見る側だったはずのに、見てた人たちに気を遣われている。

 どうしよう。

 こういう時に限って無神原は空気を読まずに割って入ってこないし……。

 なんなんだよ。自分からメッセージをすればいいって示しておいて、メッセージでどんなやり取りをしたのか聞いてきたりさ。


「お気遣いなく!」


 居た堪れなくなって叫んでいた。


「いやいやいや! 本当に、本当に助けていただきありがとうございました」

「あれはマジで死ぬかと思ったぜ。サンキューな」

「気遣いじゃなく感謝してるんスよ。だから、スクリーマーっちが気にしないでほしいッス」

「人の命が救われたことを誇ってほしいな」

「みなさん……」


 いい人たちや……、なんか途中変な呼ばれ方した気がするけど、いい人たちや。

 僕みたいなひよっこにここまで言ってくれるなんて……。

 こうなったら期待に応えられる探索者になろう……!


「こちらこそありがとうございます!」


 本当、こうやって人としてできてる人たちだから、ミクルメクミラクルのみなさんは活躍を続けられるんだろうな。

 マジで僕も見習わなくっちゃ。


「そうだ。会えたら話そうと思ってたんですよ」

「なんですか?」

「モンスターのドロップ品なんですけど、どうしますか?」

「どうしますか?」


 急な話題の転換に頭がついていかない。

 今回、僕はミクルメクミラクルのみなさんと一緒に探索をしていたわけではないのに、どうして僕の意見を聞いてくれるのだろう。

 5等分で! って言ったら5等分になるのかな?


「ぽかーんとしてるぞ。伝わってないんじゃないか?」

「まあ、実来の話はいつも急ッスからね」

「それが実来のいいところだけどね」

「もう、みんな!」


 リーダーらしいミクルさんがパーティのみなさんにツッコまれている。配信で見他ことあるヤツだ。


「すみません、身内ノリみたいで」

「全然。楽しそうで何よりですよ」

「お恥ずかしい。それに、言葉足らずでしたよね。助けてくださった人に会えて興奮しちゃってて」

「いえいえ、お気になさらず。それで、ドロップ品というのは?」

「先日の探索のドロップ品です。収納スキルなんかがあれば、この場で渡しちゃおうかなって思ったんですけど、ありますかね?」

「いや、えっと、ないです……」


 汎用的なスキルの使い方は資格取得前にレクチャーされているので、スキルの確認ができていなくても、自分が使えないことくらいはわかる。

 ただ、それにしたってどうして僕の意見を?


「拾ったのなら、ミクルメクミラクルのみなさんで有効活用してくださって構いませんよ?」

「そういうわけにはいきませんよ! キラースクリーマーちゃんのお手柄なんですから」

「いや、しかし」

「持っていってください。一度が無理ならまた機会を設けることはできませんか?」

「ちょっと実来!」

「それはやりすぎッスよ」

「うんうん。話を進めるのにも節度ってものがあると思うの」


 僕、ダンジョンで叫ぶような奇人だからって変な扱いされてるんじゃないか? これ。

 まあ、今さらいいけどね。それを改めたくて今のところ、緊張しながらも対応がんばってるけどね。

 キラースクリーマーちゃんだからね……。


「ミクルさんたちがいいのなら、僕は何回かに分けてドロップ品を受け取るのでもいいですよ?」

「!!!!」


 なんか無言ですっごい目を見開かれた。

 何? 探索者ってそんなにドロップ品を人に渡すのに抵抗があるの?

 それとも、これも僕のキラースクリーマーという呼ばれ方のせい?


「い、いいんですか?」

「はい。大丈夫ですけど……」

「でしたら、今日の分ってことで!」


 どっさり段ボール箱3箱分くらいのモンスターのドロップ品がどこからともなく繰り出された。どうやらこれが、昨日、僕がダンジョンでモンスターを倒した際にドロップしていた品の一部らしい。

 パッと見じゃ使い道はわからないけど、ひとまず無神原へのお土産にしよう。


 何度か会うことになったし、なんて呼べばいいかも聞いとこう。勝手にミクルさんとか視聴者目線で呼んじゃってたけど、もしかしたらコードネームとかがあるかもしれない。


「あの。ミクルメクミラクルのみなさんのお名前は」

「私たちじゃないですよ!」

「え……?」

「そうそう! アタシたちは何も言ってないから」

「いや」

「インターネットのせいッス」

「そうじゃなく」

「違うの。違うの」


 ふるふるとミクルメクミラクルのみなさんが首を横に振り出した。これは、自力で調べろってこと……?


「私たちがキラースクリーマーちゃんって言い出したわけじゃないから」

「ああ。そっち」


 やべ、馴れ馴れしい話し方になってしまった……。


「すみません。変な対応をして」


 ぺこぺこと頭を下げる。


「いや、こちらこそ、名前については何もできず」

「……?」


 なんだか会話がかみ合っていない気がする。


「僕としては、みなさんのことをこれからなんとお呼びすればいいかたずねようと思っていたんですけど」

「あ、ああ! なるほど。私たちの名前ね」

「それなら好きなように呼んでくれて構わないよな」

「まあ、名乗ってるほうに馴染みがあるならそれがいいッスかね」

「みゆきたちのことは好きに呼んでほしいの」


「自己紹介すると、私がミクルメクミラクルのリーダーをみんなに押し付けられた、樫八重かしやえ実来みくるです」

「押し付けられたって言い方はひどいな。アタシは実来と探索したかっただけだ。あ、そうそう。アタシは体阿弥たいあみ人牙じんが。なんか男っぽいって言われるけど、女だからな」

「ウチは貝木かいき好恵よしえッス。まあ、ウチも実来と一緒がよくって探索してる感じッスね。世間の仲良し組みって評価はあながち間違いじゃないッスよ」

「そうなんだよね。でも、実来といると楽しいからいいよね。えっと、みゆきは推名みゆき。あんまりみゆきたちはフルネームで名乗ること少ないから知らなかったかもだけど、せっかくだから覚えてもらえると嬉しいな」

「わざわざありがとうございます!」


 どうやら、ここまでの呼び方でも問題なかったらしい。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 勝手に探索者業界って、探索歴で上下関係が細かいのかと思っていたから一安心だ。


「それじゃあ、ミクルさん、ジンガさん、ヨシエさん、ミユキさん。ありがとうございました! またよろしくお願いします」

「き、キラースクリーマーちゃんはそのままでいいの?」

「あ、いや、別の名前がいいです」


 そうだよ。先輩に名乗らせてなんで僕は名乗らないんだよ。


「すみません。手際が悪くて」

「いいのいいの。でも、なんて呼べばいいの?」

「えっと、まるき、あきら、あいや、これは」

「あきらちゃんね。よろしく。あきらちゃん!」

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