第14話 ミクルメクミラクル!

「えええええ! 急に配信終わっちゃったんだけどおおおお!」


 突如ダンジョン内に響く女性の声。

 思わずキョロキョロと辺りを見回してみるけれど、近くに人の姿はない。どうやら、同じ階層にいる誰かが叫び声をあげたらしい。

 すっごいびっくりした。


 Gランクダンジョンなんて、ひよっこがおっかなびっくり探索しているか、ベテランが久しぶりにやってくるか、中堅が後進の育成にやってくるかくらいだから、さわぎ声なんて聞こえてこないと思っていただけに心臓が飛び出すかと思った。


「……って、よく考えたら初心者は焦って叫ぶか。いやそれ僕か……」


 人のことは言えない。

 僕の場合は、かろうじてモンスターを一掃できていたらしいからいいが、モンスターを集めるだけ集めた挙句、他の探索者にヘイトを移していたらとんでもないマナー違反だし、初心者だったら殺しかねない。


「反省しよ……」


 さて、緊張による体の火照りはまだ少し残っているが、配信も終わったことだし、これでミクルメクミラクルのみなさんにあいさつができる。


 ……あれ、そういえばダンジョンの中でどうやって待ち合わせをするんだ? どこもおんなじような見た目だから、一回ダンジョンの外に出ないと出会えないのでは……?


 こんな時、ダンジョンの構造がわかる便利系スキルやら、瞬間移動で好きなところへ行ける超便利系スキルを持っていれば関係ないのだろうが、今の僕に使える気配は微塵もない。いいよなぁ、そういう探索者。

 魔法生成AIでもいずれそんなことができるようになるのだろうか……?

 ま、期待しないで待とう。


 そこで僕はブルブルと震えるスマホに視線を落とした。


「さっきから通知スピードが上がってないか?」


 妹からひっきりなしに送られて来る連絡の内容を確認するのが怖くて、未読スルーになっているが、別の人からも連絡が来ていそうな感じがする。

 見ようが見まいが内容が変わらないことはわかっているけれど、怖いものは怖い。


「見るかぁ……」


 もしかしたら無神原からヒントとなる連絡が来ているかもしれないし、ミクルメクミラクルのミクルさんかもしれない。

 そっと、薄目でスマホの通知を見ると、どうやら妹以外の人からも連絡が来ているらしい。これは予想通り、多分無神原かミクルさんだ。


 そうか。ダンジョンでも問題なく連絡は取れるんだし、困ったらまた連絡すればいいのか。


「本当に便利な時代やで。ダンジョン産のアイテムのおかげらしいけど、天才の発想はすごいなぁ」


 現代の恩恵にあずかりつつ、メッセージアプリを再度開こうとして自然と手が止まる。なんでか通知で真っ赤っかだ。


「え、なに……怖……」


 件数がまたたく間に増えていっている……。

 おそるおそるアプリ開いてみると、どうやらDMのせいだった。しかもほとんどミクルさんから。

 さすがミクルさん、僕みたいな素人のミスに気づいて連絡を入れてくれたんだろう。


ミクル(ミクルメクミラクル)『どうして配信閉じちゃったんですか!』

ミクル(ミクルメクミラクル)『人が集まってきていたのに』

ミクル(ミクルメクミラクル)『もしかして、私が連絡しちゃったからですか?』

ミクル(ミクルメクミラクル)『すいません。急ぎじゃなかったのに……』

ミクル(ミクルメクミラクル)『まだ再開できるようなら、キラースクリーマーちゃんのタイミングで終わらせてくださって構わないので、まだまだ何時間でも何十時間でも続けてください。私たちはいくらでも待てます』


「え、何これ……」


 なんか、僕は何も返信してないのに、めちゃくちゃメッセージが送られてきていた。

 どうしよう。他の連絡もそうだけど、これ、無視してるみたいになるよな。連絡が送られ始めたのはまだ数分前だけど、ずっと返信してないわけだし、どうしよう……。


 うーん。よく見ると配信についての内容が多いな。コメントがついてたってことは配信も見つけてくれたんだろうけど、やっぱり配信者としても先輩だから、色々物申したいことがあるのかな……。


ミクル(ミクルメクミラクル)『既読ついた! よかった。生きてたんですね』

キラースクリーマー『生きてます。すいません、返信が遅れてしまって。どちらに向かえばいいですか?』

ミクル(ミクルメクミラクル)『いや、もう、すぐ行きます。待っててください』

キラースクリーマー『待っててと言われましても、どちらで待てばいいですか?』

ミクル(ミクルメクミラクル)『その場で大丈夫です』


「その場って?」


 そんなことある?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る