第5話 キラースクリーマーちゃんの帰還
自分が初心者探索者ということも忘れるほどモンスターを倒したものの、調子に乗ったせいか、帰りのゲートを開くのに苦戦して帰ってくるのに時間がかかってしまった。
悪友、無神原の道具だと思えば、正常に動作しただけマシなのだが、ダンジョン探索初日からこれでは先が思いやられる。
ただまぁ、魔法が使えたり、モンスターを倒して素材を得られたり、探索者っぽいことは色々できたし、気持ち的には女体化した分は持ち返した気がする。
「戻ったぞ。ひとまず僕のことを蹴っ飛ばしたことは水に流してやるから今回の発明について説明してくれ」
「おかえりキラースクリーマーちゃん。先々急ぐのはあんまりよくないなぁ。もっとゆっくりいこうよ」
「……?」
キョロキョロと近くを見回すが、聞いたことのない名前の人物は無神原のアトリエにはいないようだった。電話は……、していないみたいだ。イヤホンもしてないし、多分していないはずだ。
誰なんだ? きらぁ……、なんとかちゃんって。
「おいおい。無視は酷いじゃないか。私だって傷つくんだよ」
傷ついているようには見えないニヤニヤ笑いを浮かべながら、無神原は僕の顔を見て言ってくる。
僕に抗議してきているようだ。なぜ……。
「その、きらーなんとかって僕に対して言ってたのか?」
「一対一なのに君以外に話しかけるわけないだろう」
「自覚してないのかもしれないが、お前は結構独り言多いからな」
「自覚はしているよ。これでも、君の前では控えているつもりだけどね。キラースクリーマーちゃん」
「それだよ、それ。なんだよその、きらーすくりーまー? って。急に変な名前で呼ばれても反応できないんだよ」
「おや、知らないのかい?」
心底不思議そうな感じで聞き返されてしまった。
「なに? そんなに有名な名前なの? きらぁすくりぃまぁ?」
「キラースクリーマーね。それはもう一夜どころか夜をまたぐことなく世界を席巻しているからね」
「そいつはすごいヤツもいたもんだな」
にしてはあんまりいい響きじゃない気がするんだけどな。キラースクリーマーって。ニックネームにするにしてはどう考えてもいかついし。
「本当に知らないのかい?」
「聞いたことないよ。僕につけるより、新しいモンスターの名前だって言ってくれたほうがよっぽど信じられるね」
「それもあながち間違いじゃないよ。君ってやっぱり感が鋭いよね」
「ほめてないだろ」
「ほめてるさ」
クック、と、こらえるように笑う無神原の様子からは、とてもほめているようには見えない。
「それで? 本題に入るより先にそのキラースクリーマーってのを紹介したってことは、お前の発明品にも一枚噛んでるってことなのか?」
「当然。そのキラースクリーマーちゃんがいなくちゃ私の発明は動いてはいない」
「お前の発明を完成させられるヤツってこの世にいたんだ」
「動かしてくれた恩があるし、今からの反応が楽しみだから聞かなかったことにしてあげよう。しかし、ここまで言ってもわからないなんてね」
「なんのことだよ」
「簡単に説明するとさ、君が探索している様子が世界的にバズってるんだよ。そこで君の様子を見た視聴者の人たちが誰ともなく言い出したってわけさ、キラースクリーマーって」
「ほう」
これまで見た中で一番楽しそうに、無神原はニヤニヤ笑いを浮かべている。
ただ、話がつながらない。いや、つながっていると思うが聞いても何が起きているか意味がわからない。
「僕は探索初日だぞ? 謎の異名をつけられるほど有名になった覚えはないな。お前にしちゃあ下手な冗談だな」
「そう思うなら確認してみるといいよ」
言われてアトリエに浮かび上がってきたのは、いくつものSNSのタイムラインだろうか。めずらしく動いている無神原の発明の一つだが、そのどれもがキラースクリーマーについて言及しているものを写し出しているようだった。
“キラースクリーマーヤバすぎ”
“キラースクリーマーって子、スキルなんなのかな?”
“今までで一番話題になってるんじゃないの? キラースクリーマー”
“ここまで話題をかっさらった探索者もいないよな?”
“いやぁ、あの叫びとキラーアイアン一撃のインパクトはヤバいわ”
「ふむ」
僕のスマホもいつもより妹からの通知が多い気がするし、自分のスマホで調べてみても作り物の映像が映し出されているわけではないとわかる。どうやら嘘ではなさそうな気がする。
「どうだい? これで今、君が置かれている状況が理解できたかな? キラースクリーマーちゃん?」
クック、とまたしても笑いをこらえるように無神原は笑った。
誰だよ僕のことキラースクリーマーとか言い出したやつ。
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