第6話 方々に知れ渡る

 どうやら僕は今ネットで話題の探索者ということになっているらしい。

 望む望まないくらいの判断はさせてほしかったが、それより何より言うことがあるだろう。


「誰だよ。僕のことキラースクリーマーとか言い出したやつ。お前か?」

「だから誰ともなくなんだよ。 仕方ないだろう?」


 無神原は、あくまでいつもの調子を崩すことなく楽しそうにニヤニヤしている。

 本当、人ごとだと思って。誰ともなくじゃねぇよ。僕はそんな叫んでないから。ただのおかしなヤツだと思われないか?


「いやぁ、とんだ災難だったね。こんなにバズるなんてさ」

「っていうか、僕、配信とかしてないのにバズるわけないだろ。お前、送り出す前に何かしたな?」

「おっと。責任転嫁は困るなぁ。私のもとに来た時点で君はもうとっくの昔に有名人だったんだよ」

「なわけないだろ」

「その証拠に、君のスマホ、ずっと通知が鳴りっぱなしだろ? それ、私のところに来る前からじゃないかな?」

「うーん……?」


 そう言われてみると、通知の始まりは僕が東京第49ダンジョンを出る前から始まっていたような?

 いや、でも僕のスマホの通知だし違うか。そもそも探索者としてSNSをやる前だ。


「確認してみたら?」

「これはどうせ妹が暇でスタンプ連打しているだけだと思うから別にいいや」

「それは通知を切っておけばいいんじゃないかい?」

「妹の連絡だぞ? できるわけないだろ」

「君が妹について語る時はアレだよね」

「アレ?」

「いいや。話を戻そう」


 なんだかごまかされた気がするが、どうやら僕はいつの間にか有名人ってことにされてしまったらしい。

 なぜ……?

 慣れない体になって、スキルもよくわからないのに、悪友の謎の申し出を受けてしまったうえ、気づけば有名人?


「なあ、僕のこの体のことも含めて、実は全部冗談だったりしないか?」

「信じたくないのかもしれないけど、さっき見せたSNSのつぶやきだけじゃなくって、私のところにも君をチラと見ただけの探索者たちから連絡がきているんだよね。ほら」


 見せられた画面には、ガラクタしか作っていないと思っていた悪友あてに色々な探索者から送られてきたという様々な言語でのメッセージ。

 かいつまんで見れば、


“今話題のキラースクリーマー、探索者殺しの友人じゃないかな? ぜひ紹介してほしい”

“見間違いだったらすまないのだが、探索者殺しのアトリエにキラースクリーマーが来ていたことはないか?”

“探索者殺し様、最寄りのギルドなので連絡しなくてはいけなくなったのですが、キラースクリーマーと呼ばれる探索者があなたのアトリエで見かけられたというお話は本当でしょうか”

“探索者殺し! 次のゆんの動画のネタ見つけたからキラースクリーマーちゃんの居場所を教えろ!”

“この間探索者殺しが話していたのはもしかしてキラースクリーマーのことだったんじゃない? もしよければ今度会わせてよ?”


「お前、本当に探索者殺しって呼ばれてるんだな」

「まぁね」

「…………」


 キラースクリーマーちゃんとか言われたことへの当てつけのつもりだったが、無神原は探索者殺しとかいう恥ずかしい二つ名のことを気に入っているらしい。どこか誇らしげだ。

 いいなぁ。僕もそっちのがよかった。


 それはさておき、少なくとも日本語でやり取りしているものは、無神原の友だち、それもキラースクリーマーについて聞いているようだし、他の言語のものでもおそらく似たような内容なのだということは簡単に想像できる。

 文面からは、キラースクリーマーが無神原の友人として扱われているが、そんなこと言われるような無神原のアトリエに訪れるヤツを僕は僕以外知らない。


 要するに、ここまでの話は全て、僕を丸め込もうとしての嘘ではないってことだ。


 あれ? じゃあ、僕ってもしかしてダンジョンで叫んでたの……?


「どうしたんだい? 急に顔を青くして。スキルの覚醒による体調不良とかか?」

「いや、そういうのじゃなくて。僕がもぐってた東京第49ダンジョン、あそこには僕以外の探索者がいたはずなんだよ。ってことは、僕が叫んだ様子は見られてるってことだよな?」

「何を今さら。というより、君って案外天然だよね。同じダンジョンにいた探索者どころか世界中に配信されてるんだよ。同じダンジョンにいた配信者の手によってね」


 世界が書き換わったことよりも、女の子になったことよりも、ゾワゾワァと背筋に悪寒が走った。

 僕の奇行、世界に配信されてるって? それで有名だって?


「なあ、お前の力でなかったことにできない?」

「うーん……、無理」

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