第7話 魔力の王

 ネットの力は恐ろしい。もはや僕の公開された黒歴史は回収できないようだ。

 だがせめて、直接対面している人の記憶くらいはすり替えておきたい。そうでもしないと、僕が天下の公道で何の前触れもなく叫び出す奇人、変人にカテゴライズされてしまう。僕はあくまで気合いのためにダンジョンで叫んだ。そう、そのはずだ。多分、きっと、おそらく……。


 とにかく! キラースクリーマーとかいう汚名をそそいでやる!


「僕って変わり者なのかな……」

「別にいいじゃないか。奇人変人でも」

「受け入れているお前に言われたくない。というか、少しぐらい否定しろよ」

「いやいや、根っから真面目な人間なんていないだろう?」

「もしそうだとしてもだ。とにかくその、僕を映した配信者さんのところに挨拶に行かないと」

「挨拶かい? 変なところ真面目だね」

「いいからさっきのやつ動かしてくれよ。善は急げ。早いほうがいいだろ?」


 ここに帰ってくるためにも使った謎のゲート。僕はそれを指さした。

 当然、これも無神原が作ったものだろう。だが、めずらしく思ったように動いたのだ。なら使わない手はあるまい。

 まあ、うまく動いたのは僕の手の中にある胸当てみたいなのもそうなのだが……。

 2つも続けてまともに動く発明なんて、無神原にしてはできすぎなくらいだ。これまでどれだけ非スキル持ちの状態で死にかけてきたことか……。

 それでいて悪びれないんだから、いい性格をしているとしか言えない。


 そんなこともあり、多少期待して示したのだが、無神原は肩をすくめた。


「あのゲートだが、実は本当に使えるのかどうか試していなかったんだよ。だから今回も使えるかわからないんだよね」

「は?」

「それと、さっき使ってもらった魔法生成AIのほうも、今のが初稼働だったからうまく動くかわかってなくってさ。いやぁ、本当、丸木はいい実験体だよ」


 アッハハ、とここでようやく大声出して笑った無神原を見て、僕の怒りがふつふつと湧き上がってくるのがわかった。

 使えるかわからなかった? 初稼働? 実験体?

 いつもいつもいつもいつも!


「お前マジでふざけんなよ! なんかいい感じで言われたから乗ったのに、うまく動いてなかったらまた死ぬところだったんだろ?」

「生きてるからいいじゃないか」

「結果論な」

「そもそも、私の作ったゲートって、好きなところに行けるかどうかも判明してないんだよ。だから、帰って来られた理由も不明でね。そんな状態じゃ、ゲートで移動してご挨拶とはいかないんだよ。いやぁ、さっきは本当に運がよかったね」

「運がよかったね、じゃねぇ!」


 そもそも運は悪いほうだよ。

 一発叩いてやった。


「残念。私のスキルで無効だよ」


 おちょくるような顔しやがって。小学生か。


 まあ、乗っかった僕にも非があるし、無神原だけを責められないか。そもそも、生きてるんだし、僕のこと覚えてくれてるし、悪いことばかりでもない。


「で、お前、僕に叩かれてんのに、何でにへらーってしてんだよ」

「いやぁ。女の子に詰め寄られて楽しくって。もっとやって」

「ざけんな」


 こいつマジで僕のことをなんだと思ってるんだよ。

 いや、こうなってくると僕が有名になったことに乗っかろうとしてるんじゃないのか?


「丸木、さっさとチャンネル開設したら?」

「もっとオブラートに包んだらどうなんだ?」

「私ってそういうまどろっこしいことするタイプでもないだろう?」

「知ってるけど、知ってるけどさ。僕はダンジョン攻略をしようと思ってたんだよ。配信なんて必要か?」

「どうせ探索するんなら配信をしてもいいじゃないか。それに、今時配信してない探索者のほうが少ないんじゃないのかい?」


 それはまあ、たしかにそうだろう。

 探索者全員がやっているわけじゃないが、全員がソロでダンジョン攻略ができるわけでもない。情報交換やコラボなんかでも人並みの探索者としてメリットは多いと聞いたことがある。それに、配信をしていることで、パーティを組む際にも相手の人となりがわかるとか、そんな話も聞いた。


「私の方ではさっきの探索で君について色々とわかったことがあるんだけどなぁ? 何も提供してくれないのかなぁ?」

「く」

「知りたかったんじゃないのかな? 今の自分について」

「お前、本当いい性格してるよな」

「よく言われる。お褒めに預かり光栄だよ」

「ほめてないけどな」


 本当、ガラクタだの、なんだのと言われつつも謎の道具を作り続け、一部に熱狂的なファンがいるだけあるよ。


「はぁ……」


 困惑して無神原に頼ったのが運の尽きだな。


「わかってることを教えてくださいお願いします」

「素直に言っちゃつまらないじゃないか」

「めんどくさいなお前。なんだ? 脱げばいいのか?」

「わかったよ。いいいい。従順すぎて気持ち悪い。もっと口汚くののしってくれて構わないから」

「そんなことしないよ」

「してるじゃないか」


 してるのか……?


「無自覚かい? ま、いいや。私は君の性格が好きだよ。で、ひとまずわかったこととしては君の魔力量についてだ。おそらくすぐに探索で使えるものはないし、便利なスキルと紐づいているわけじゃないが、魔力量に関しては右に出る者はいないだろう。測定不能なんて初めて見た。はっきり言って、私の想像以上に当たりだよ。やっぱり君は運がいい」


 探索者のスキルについてはうるさい無神原が僕の魔力量を素直にほめてきた。

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