第3話 僕しか使えない発明品
本日2回目の猛ダッシュ。やってきたのは友の家。
待ちきれないみたいな感じで友達の家にやってきたのは人生で初めてかもしれない。今は、さっさと済ませたい気持ちとできるだけ引き伸ばしたい気持ちで半々だ。
「はあ、はあ、はあ……」
世界改変できるほどのスキルに覚醒していても、体力のほうはそこまで伸びているわけでもないみたいだな。探索の疲れもあるかもしれないが、無神原の家に着くまで結構時間がかかった気がする。
「おい。無神原! どうせここにいるんだろ!」
あの変人は同級生だというのに、学校にも来ないでいつも部屋にこもって何やら怪しいことばかりしている。いつ部屋の外に出ているのやら、というレベルで外に出ているところを見ないやつだ。だから、あいつのアトリエにやってくれば、どこかにいるはず。
「無神原!」
「いるよ、ここに。なんだい、女の子が息を切らしてやってきて。はしたないんじゃないのかな」
無神原が顔面に張り付けているいつものニヤニヤ笑いは、いつも以上に気味の悪いものに見えた。
今僕は、どんな顔をしていることだろう。目の前の悪友。なんだかんだと付き合いの長い無神原は僕を何と言っただろう。
「お前、今なんて」
「はしたない?」
「違う。その前」
「女の子が息を切らして」
「それだ! そうだ! そうかよ! お前まで」
僕は地面を殴りつけた。
スキル無効。そんな大それたスキルを、生まれながらに持っていた天才、無神原にしても、僕の身に起きた事象に巻き込まれていた。
これじゃ誰も説明できない。僕に何が起こっているのか。僕は自分一人の手で突き止めないといけないってのか……。
「くそう……」
無神原の前だというのに、目から何かがつたってくる。これも、スキルの影響か?
「はっはー。急に泣き出すなんて、君はそんなセンチメンタルなほうでもないだろう。なあ、丸木」
「言ってろ」
「そんなにかっかするなよ。ちょっとからかっただけじゃないか。悪かったよ。女の子だとか言って」
「いいんだよ。お前はどうせ覚えてなんだろ? 僕とのこれまでなんて。僕じゃない僕の、女の子との僕との記憶しかないんだろ?」
「あいにくそんなこともなくてね。これがさっぱりなんだよ。今の君に必死こいて合わせてみたんだけど、どうやら私の立ち回りはこっちみたいだ。君も自分が誰か覚えているみたいじゃあないか?」
僕が顔を上げると、いつものようにニヤニヤ笑いの無神原の顔が視界に入ってきた。
なぜだろう。同じニヤニヤのはずなのに、先ほどとは違って見える。
「お前、僕を覚えているのか?」
「覚えているもなにも、私は男の君しかか知らない。多分、君の考えと同じだよ」
「無神原!」
「おっと!」
僕は柄にもなく抱きついていた。一人になった恐怖を子どもの時以来感じていなかった感情が、ずっと落ち着かなかった気持ちがやっと氷解した気分だった。
「よかった。やっぱりお前にスキルは通用しないんだな」
「当然だろう? どう使われようと問題ない。ただ、安心するのはまだ早い。見たところ色々できそうだしね。生きていくには安心だけじゃあ足りないだろう?」
「なんだよ。どういうことだよ」
「君にしか使えない道具がある。そしてそれを君に使ってほしい」
耳元でささやいてきた無神原の顔を僕は改めて見返した。
おちょくるようなニヤニヤ笑いは変わらずだが、どうやら今は真剣らしい。付き合いが長いから顔を見ればわかる。
「いいのか。なんて野暮だな」
「ああ。やるか、やらないか。それだけだよ」
ステータススキルすらなく、まともに自分のことを確認できていないが、それでも無神原は僕にしかできないことがあるという。変人、無神原の道具は、使えないものばかりだと僕は知っているけれど、それでも、僕にしか使えないというのなら乗っからない理由もない。
でなきゃ今まで付き合ってない。
「やってやるよ」
「そうこなくっちゃ。私のほうも準備はできているからね」
そう言うと、無神原は落ち着いた様子でアトリエの奥にある巨大な何かにかかった布を取り払った。
姿を現したのは、謎のゲート……?
「ほいこれ」
「なにこれ」
「ちょっとした発明品さ。ほら、善は急げ。その先にあるものはさっきのものよりよほど楽だろう」
「お前なに言ってん、ぐっは!」
蹴飛ばされ、ゲートに突っ込む。
ゲートをくぐった先はどういうわけかダンジョン。さっきまでいた無神原のアトリエとは違うだけでなく、東京第49ダンジョンともまた違うところらしい。
「あはは。どうも……」
「グルウウウ」
「ガウッガウッ」
「ファーファーファー」
「ブルルルルルル」
「あそぼあそぼあそぼ」
そしてどうやら、僕の突然の来訪は歓迎してもらえないようだ。
もらった謎の胸当ても使い方がわからないし……。
まともに使えるスキルすらわかってないんだぞ。
『おいおい。なにをしてるんだい? さっさとやってくれて構わないが?』
「うおっ。喋った……、その声は無神原か?」
『そうだとも。通信機能くらいお手のものさ。ほら、ファイヤーだよファイヤー。君、あこがれてたろ? 魔法使いにさ』
「そう言われても……」
スキルもまともに使えてないのに魔法を使おうとしてるやつなんて、探索者を目指してる以上にイタイやつだ。魔法系のスキルがあるかどうかさえわからないのに……。
「グルゥガッ」
「うおっと」
ぼーっとしていると、スレスレのところをモンスターの牙が通り過ぎた。
『ほらほら。迷っている暇はないぞ』
「みたいだな……」
多勢に無勢。ダンジョン探索初心者。僕があこがれるテンコさんなら、きっとこんなモンスターたちは焼き尽くせてしまえるのだろう。
なら、僕も無神原の言葉を信じてみるか!
「いくぞ。『ファイヤー』!」
胸当てを胸に当て、即興で手を突き出し、モンスターへ向けて炎のイメージを放った。
瞬間、イメージと違わず、モンスターめがけて炎が吹き出した。
「グアアアア」
「キャインキャイン!」
「ああああああああああああ」
「ギャアアアアア」
「グゥウウウウ…………」
取り囲むモンスターたちが勢いよく炎上する。
魔法は使える? いや、今はそんなことどうでもいい。魔法が使えた。ステータスを見られずとも魔法は使えたんだ。今はそれだけが重要。使える火炎魔法で突破するだけ。
「『ファイヤー』!『ファイヤー』!『ファイヤー』!」
コントロールすら無視するように的確にモンスターが燃えていく。取り囲んでいたモンスターはむしろ、当ててくれと言っているようでどんどんと燃えて消えていく。
『あっはは! 圧倒的だね。想像以上だ。正直、ここまで最初からやってくれるとは思っていなかったよ。さすが丸木』
モンスターの群れはあっという間にあらかた片付いてしまった。
どの辺が僕にしかできないことなのかわからないが、僕は探索者になれたんだ。こうなったら探索者としてダンジョンを攻略し続けてやる!
次の更新予定
毎日 19:13 予定は変更される可能性があります
目覚めたスキルで元から女の子だったことになりましたが魔力量は人より多いそうなので魔法生成AIを使って地道にダンジョンに潜ろうと思います〜え?すでに最強?僕を持ち上げても何もありませんよ?〜 川野マグロ(マグローK) @magurok
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。目覚めたスキルで元から女の子だったことになりましたが魔力量は人より多いそうなので魔法生成AIを使って地道にダンジョンに潜ろうと思います〜え?すでに最強?僕を持ち上げても何もありませんよ?〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます